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2024/12/10:フリーペーパーvol.105発刊!

時代を先取りした漫画家山岸涼子さんの描く心理ミステリー

毒親という言葉がない時代から毒親を描いた少女漫画家

山岸涼子さんの描く漫画はすごい。昨今、毒親やトラウマ、ハラスメントにいじめなど、様々な社会問題やニュースが起きているのに疲れている人も多いだろう。特に毒親などのワードは耳にされた方も多いだろう。
毒親、という言葉が世の中に提起される前から山岸涼子さんは少女漫画の中で人間の葛藤を描いてきた。山岸涼子さんの先見性は短編漫画においても発揮される。1960年代から1980年代にかけて発表された短編漫画は令和の今になっても古びない。

文春文庫『自選作品集 鬼子母神』山岸凉子 | 文庫 – 文藝春秋BOOKS (bunshun.jp)

花の42年組として、LGBTQという言葉がない時代から描いた

山岸涼子さんは1942年生まれで、北海道出身。竹宮恵子、萩尾望都など少女漫画の黄金時代を築き開けた、花の42年組の一員とも知られ、漫画界のパイオニア的存在だ。代表作は聖徳太子が同性愛者だった、という波乱に満ちた作風で描く『日出処の天子』やバレエ漫画の金字塔である『アラベスク』などがあり、実はLGBTQの苦悩をいち早く、漫画の中に取り入れたことはあまり知られていない。

ファンの中にはあの村上春樹さんも

ボーイズラブなどLGBTQにまつわる題材が多くの漫画や小説で描かれる現代では当たり前かもしれない。しかし、山岸涼子さんはまだまだ根強く偏見があった戦後間もない頃から、その美しい画力と繊細なタッチ、緻密な心理描写で、性の揺らぎ、人間としての心理の葛藤を描き切った。
山岸涼子さんが描く世界観に魅了された作家に何と、あの村上春樹さんもおり、多くの作家が山岸涼子さんのファンとして知られる。村上春樹さんは普段は漫画をあまり読まないが、山岸涼子さんの漫画は全て読んでいる、とファンから受けた質問の中で述べている。

毒親という言葉がない時代だからこそ、繊細に描けた世界観

毒親、という言葉に嫌悪感だったり、違和感を覚える親御さんも多いだろう。山岸涼子さんの短編漫画はそんな親御さんが読んでも全然、嫌悪感も沸かない。実際、私の母も山岸涼子さんの漫画を読んで、『まるで小説のようだね』とうなっていた。
毒親を描いた短編漫画の中に『鬼子母神』がある。

あらすじは二人の兄妹。
成績優秀な兄に、ほったらかしにされた妹。母はそんな兄ばかりを可愛がったが、ある日、妹は母の顔に鬼の表情を見た。
兄は優等生として進学校に入り、妹は不良になったものの、兄は不登校になり、荒れてしまう。家庭崩壊の中、妹はお笑い芸人の夢へと進むが、母は献身的に兄に尽くすのだった。

目を見張る先見性と圧倒的な描写力

この作品が発表されたのは、1980年代で教育虐待や毒親などの言葉がない時代に、繊細な絵筆で描いた本作に感服する。他にも山岸涼子さんの短編漫画には今の時代であっても普遍性のあるテーマで描かれた漫画がたくさんある。
山岸涼子さんの短編漫画は何度読んでも印象が違い、飽きない。10代の頃、病棟に入院している中、何度も読んだが、大人になった今でも違う気付きに驚かされる。少女漫画だが男性が読んでも、村上春樹さんのようにその緻密な心理的展開に読み進められる人は多い。
何より、山岸涼子さんの漫画はその日本画のような筆遣いにただ、ただ圧倒される。これほどまでに美しい描画はあっただろうか、と思うほどだ。
この機会に山岸涼子さんの漫画を手に取ってみるのもいかがかだろうか。

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