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コロナ禍の今だからこそ知っておきたい「解雇」の知識

解雇に関する法的知識を持って身を守りましょう

新型コロナウイルスの影響による解雇が4万人を超えたと報道されました。

厚生労働省は30日、新型コロナウイルス感染拡大に関連する解雇や雇い止めが、見込みを含めて29日時点で4万32人になったと明らかにした。7月1日時点で3万人を超えてから1カ月弱で1万人増加した。(2020/7/30 東京新聞)

障害者の方の解雇も、昨年を大きく上回る勢いです。

今年2~6月に計1104人の障害者が企業などに解雇されていたことが厚生労働省のまとめでわかった。前年同期より152人、16%増えていた。厚労省は新型コロナウイルスの影響で企業の経営が悪化していることが背景にあるとみている。(2020/8月/3日 朝日新聞)

企業は解雇を自由に行って良いわけではない

新型コロナウイルスの影響により売上が大幅に減少したり、休業や時短営業を強いられ、雇用主である企業も厳しい状況にあります。

しかし、働く人にとって、解雇は、突然生活の糧を奪われることに他なりません。ですから、違法な解雇から身を守ることが必要です。

労働基準法では、解雇に関して次のような定めがあります。

<労働基準法 第20条>

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

つまり、解雇するならば遅くとも30日前に予告することが原則で、予告が無い場合は、30日分以上の平均賃金を支払った上で解雇をする必要があるということです。

ただし、新型コロナウイルスの影響で廃業をすることになってしまったなど、やむを得ない場合には、30日前の解雇予告や、解雇予告手当の支払は免除されます。しかし、この免除は事業主の勝手な判断で行うことはできず、労働基準監督署の認定を受けることが必要です。

もし、解雇予告や解雇予告手当の支払い無く、解雇を言い渡された場合には、「労働基準監督署の認定を受けていますか?」と事業主に確認をしてください。なお、この認定を受けるための基準は非常に厳しいものになっており、廃業や、廃業に準ずるような状況でなければ実務上は認められません。

もう1つ、解雇に関して知っておいて頂きたい条文が労働契約法にあります。

<労働契約法 第16条>

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

この条文が定めているのは、解雇予告をしたり、解雇予告手当を支払いさえすれば、自由に解雇が認められるわけでは決してないということです。

経営がさほど苦しくなったわけでもないのに、「新型コロナウイルスに乗じて、気に入らない社員をこの機に解雇して一掃しよう」というようなことは許されません。

そのような不当な目的が無かったとしても、会社に内部留保が充分あって、雇用調整助成金なども活用すれば客観的に見て雇用を維持できるはずなのに、会社の努力や配慮が不足して解雇をしてしまったというような場合も、その解雇は法的に無効となります。

解雇が無効になった場合は、職場復帰が認められるのはもちろんのこと、違法に解雇されたため就労できなかった期間の賃金補償も事業主から受けることができます。

雇用保険は必ず「会社都合」の離職票をもらうこと

解雇になった場合、雇用保険上は、必ず離職理由を「解雇」とした、いわゆる会社都合の離職票を発行してもらってください。

自己都合退職の離職票の場合は、基本手当(いわゆる「失業手当」のこと)を受け取るまでに3か月の待機期間が発生したり、給付日数で不利益を受けたりする可能性があります。

また、雇用保険の被保険者期間も、解雇の場合は過去1年に6か月の被保険者期間があれば基本手当の支給対象になりますが、自己都合退職の場合は、過去2年に12か月以上の被保険者期間が必要です。

助成金の申請などの理由で、本当は解雇であっても自己都合扱いにしようとする事業主もしばしばいるようですが、それを受け入れてしまうと、基本手当の受給で自分が不利益を受けたり、場合によっては助成金の不正受給の共犯扱いされてしまうリスクもありますので、毅然とした対応をとるように心がけてください。

国保の保険料軽減措置

退職後は、すぐに次の就職先が決まらない場合は、国保(国民健康保険)に加入する形が一般的かと思います。

その際に、国保の保険料は、前年度の所得に応じて決まりますが、解雇による退職である場合は、その旨を申し出ることで、前年度の所得の30%で保険料を計算してもうらうことができます。国保に加入する場合は、その申し出も忘れないようにしてください。

なお、家族に社会保険加入者がいる場合は、その人の扶養に入るというのも手です。そうすれば、医療保険の保険料は発生しません。

相談窓口について

不当な解雇を受けた場合は、まずは労働基準監督署に相談をして、解雇を撤回するよう事業主に働きかけてもらってください。それでも事業主が応じない場合は、弁護士を立てて交渉をしたり、労働審判や裁判を行うという形になります。

解雇自体は受け入れるが、事業主が離職票を会社都合にしてくれない場合は、ハローワークに相談をしてください。

まとめ

新型コロナウイルス禍の影響は、事業主にとっても、働く人にとっても非常に厳しいものです。しかし、だからといって不当解雇が許されるわけではありません。また、仮に解雇を受け入れたとしても、雇用保険や国保料などで充分な公的支援を受けるべきです。そのためにも、まずは正しい法的知識を是非身につけてください。

 

プロフィール
榊 裕葵(ポライト社会保険労務士法人代表)

大学卒業後、製造業の会社の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。その後、社会保険労務士として独立し、個人事務所を経てポライト社会保険労務士法人に改組。マネージングパートナーに就任。勤務時代の経験も生かしながら、経営全般の分かる社労士として、顧問先の支援や執筆活動に従事している。また、近年は人事労務freee、SmartHR、KING OF TIMEなどHRテクノロジーの普及にも努めている。

主な寄稿先:東洋経済オンライン、シェアーズ・カフェオンライン、創業手帳Web、打刻ファースト、起業サプリジャーナルなど

著書:「日本一わかりやすいHRテクノロジー活用の教科書

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