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2024/12/10:フリーペーパーvol.105発刊!

障害者福祉施設の「ご意見箱」に感じた不安

書いて訴えるしか手段が無いという困難

市区町村などで運営する多くの障害者福祉施設には、利用した際に感じた要望を現場の職員や施設の管理者に届けるための「ご意見箱」が設置されています。改善が望まれる意見を文章にまとめ、管理する自治体や第三者委員にまで届けることで、状況の改善につなげるのです。

文章にまとめる難しさ

施設では、利用者の要望を知るための手段として小さなメモ用紙を用意し、そこに「ご意見」を書いてもらいます。利用者は、自分の思いを文章にまとめて届けるのですが、障害を持つ利用者にとってこの方法、結構ハードルの高いものだとは思いませんか?

知的・精神の障害

ここで取り上げる福祉施設の種別は「精神」です。知的・精神の障害を持つ方々にとって、自分の意見をきちんと文章にまとめ伝えることには、多くの場合に大変な困難を伴いますう。施設には「相談業務」というサービスあり、利用者から口頭で相談された内容を職員が記録し、特に重要なものについては保健所に伝え、状況の改善につなげます。

改善

そのため、すべての相談内容を自分で文書化しなければならないことが利用者に強いられているわけでありません。しかし、利用者が自分の言葉で伝えたいと思う切実な内容も、保健所に届く頃には職員のフィルターがかかっていることになります。職員自身も自分の言葉でまとめ直し、さらに他の第3者に伝えなければなりません。その結果、利用者の伝えたい熱意のようなものが伝わりづらくなってしまうことも、現時点では避けようがありません。

実例

鹿児島市の精神保健福祉センター(通称・はーとぱーく)の例を見てみます。

鹿児島市精神保健福祉センター

施設には利用者の意見をメモにして投函する「ご意見箱」が設置され、箱の側面には投函された意見が市や保健所に伝わるまでの経路が記載されています。

すべての意見には職員が目を通し、月1回開催される「苦情処理委員会」で話し合われることも、箱側面の張り紙に明記されています。

その後、意見は鹿児島市保健所まで届けられ、さらに第三者委員会と双方向的に意見の交換されることも示されています。そうしてさらに施設職員が参加する月1回のミーティングでも話し合われ、その結果として生まれた回答が、交流室内の掲示板に掲示・報告されることになります。

苦情を伝えるという困難

実際にそのセンターを利用し、私が個人的に知っていることなのですが、掲示版に張り出される回答はすべて文章で寄せられたご意見に対するもので、口頭での相談によるものが改めて文章に書き起こされたものが含まれていたことはありません。掲示板によって回答が張り出されるのは、ご意見箱に投函された相談に対するものだけになるということです。

苦情処理委員会とスタッフミーティングの段階で解決に至ったものについては、個人的に回答があったからだろうと推測されます。

それにしても、自分の意見を文章にまとめて書き上げるということは、障害に関係なく健常な方にとっても、書き始めることすら躊躇してしまう難易度の高い方法とは言えないでしょうか。

身近な例

センターの利用者には様々な人がいて、その人達の文章作成能力にも違いがあります。すべての利用者が同じように文章をまとめる力を持つという訳ではありません。

障害者福祉センターという場所であれば、文章をまとめるような集中を必要とする作業については、そのハードルは最も困っている人にも可能であるレベルまで下げなければならないでしょう。障害の程度により施設の利便性に差が生まれるといった、障害者間格差を生んでしまう恐れがあるからです。

小さな声

結局、ほとんどの人は書けません。それどころか、面談時に自分が抱く思いに混沌としてしまい、普通にしゃべることさえ苦しむ利用者もいらっしゃいます。

精神や知的の障害を背負ったそのような人たちが、チクチクと心に刺さる小さなトゲのような苦しみを、他人に納得できる形まで言葉にまとめ上げるということは、現実的にはほぼ不可能といえるでしょう。

誠実な運営

私自身については、その精神保健福祉センターに出かけるようになってから10年以上が経っています。その間に多くの方と出会い、さまざまな症状を持つ方を観察する機会を得ることができました。職員の方々は、当然、全員が利用者の精神衛生向上のために誠心誠意、職務に没頭し相談を受け付けます。

ここで問題にしていることは、現実に施設で不適切な対応があったか無かったかということでは、ありません。

不安

利用者が正当な方法で施設を利用する限りにおいて、誠意を持ってその仕事にあたることを職員自身が確信している状況においても、万が一不適切な対応があった場合に障害者がその不安な心を容易に伝えられるシステムの存在自体が、利用者の安心を保つための重要な要素になるということです。

選べないという不安

いざ伝えるとなったら、文章に書いてまとめるしか方法は無いのだと覚悟するしか術の無い状況そのものが、文章にまとめて伝えることなどできない利用者にとっては不安なはずです。

私たちも、パソコンや家電を購入したとき、もし「お客様サポートセンター」という制度が存在しなかったら不安ですよね。もしも、製品が故障したり使い方が分からなくなったときに、どこに相談すればいいのかあてのない状況だとしたら、誰だって不安なはずです。仮に質問できて、それでももし対応が適切でなかった場合、その事実を誰にも知られることさえできない事実と、このままそういった心の傷をうやむやに闇に葬り去られていくのだと知ったとき、健常者も含め私たちはどれほど絶望的な気持ちになるでしょう。

そういった状況を職員が認識し、そういった不安を生まないためにも逃げ道が用意されている状況にこそ安心があります。その事実を知ってもらえることそのものが、利用者の安心のために何より有効なのです。どんなときも改善は常に必要であることへの「議論」が存在する状況そのものに、何よりの救いが存在します。

どこまで必要

おそらく、健常な人たちにとっても多くの同様な障害を抱える人たちにとっても、私のこの意見は「過保護」と思われるでしょう。確かに、通常であればそうなのかもしれません。

しかし、「ご意見」が生まれるに至った背景まで考え、そういう不可思議な意見が生まれてしまうような心にさえも対応することが、このような施設が抱える仕事ではないかと思うのです。そのような試みが、2018年6月9日に実際に起こった、容疑者の動機を理解することさえ困難な「東海道新幹線車内殺傷事件」のような事件を、抑止することさえ可能だったのかもしれないと、思ってしまうからです。

まとめ

伝えたい内容を効果的にさばくためにも、紙に書いて内容を保存し伝えるという方法が、現時点では最も効果的で止むを得ない最善のものであることに異論はありません。

しかし、その現状に不安を感じる利用者が存在するかもしれない「恐れ」さえ想定できる以上、おとなしく収まっているように見える現状を維持してさえいけば問題無しと、相談センター自身が決め込んでしまい新たな問題提起がなされないような状況では、障害福祉サービスのさらなる質の向上など見込めないだろうという不安が、脳裏に巣食ってどうしても頭から離れないのです。

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