働く重度障害者は、重度訪問介護が使えないことに違和感
「重度訪問介護」とは、重度の肢体不自由、重度の知的障害、重度の精神障害などにより、常に介護を必要とする方に対して提供される公的サービスです。
ホームヘルパーが障害者の方の自宅を訪問し、介護(入浴、排せつ、食事など)、家事の支援(調理、洗濯、掃除など)、生活等に関する相談・助言など、生活全般にわたる援助や外出時における移動中の介護などを総合的に行うものです。
「重度訪問介護」の目的は、生活全般についての手厚いサービスを提供することで、常に介護が必要な重度の障害がある方でも、施設に入りっきりになるのではなく、在宅での生活が続けられるように支援をするということです。
自己負担額は、所得区分ごとの負担上限額に応じて、原則として利用料の1割となっています。受けるサービスの範囲や利用時間にもよりますが、1日あたりの自己負担は数百円、数千円の範囲におさまり、障害年金などを主な収入として暮らしている方にとっても経済的に無理のない仕組みになっています。
仕事中は重度訪問介護の利用はNG
大変素晴らしい制度であるのですが、この制度には大きな「盲点」があります。
その盲点とは「仕事をしているときには重度訪問介護を利用することができない」ということです。
現在の制度においては、重度訪問介護は、あくまで日常生活に対する介護であり、障害者の方が経済活動(仕事など)を行っている時間帯については、サービスの対象外となってしまっているのです。
この考え方に対して、筆者は2つの違和感を持っています。
1つ目は、仕事も日常生活の一部なのではないかということです。健常者の方も、家庭での私生活と会社での仕事の両方をひっくるめて、それが日常生活である、というのが一般的な感覚であると思います。ですから、重度訪問介護が障害者の方の生活を包括的に支援することを目指すのであれば、当然、仕事をしている時間も支援の範囲に含めるべきなのではないかということです。
2つ目は、障害者の社会参加を目指している政府の大方針と矛盾するのではないかということです。働くことをあきらめて一日中家にいることを選択すれば重度訪問介護が終日受けられるのに、働くことを選択した場合には、本人が全額自己負担をするか、勤務先の会社の合理的配慮に期待するしかないというのは、障害者の社会参加に対して大きなハードルとなっているのではないでしょうか。
「れいわ」の2議員の介護費は参議院が負担
この点について社会的に大きな注目を集めたのが、2019年7月21日に行われた参議院選挙で初当選を果たした、重度の身体障害を抱える「れいわ新選組」の木村英子議員と舩後靖彦議員の、議員活動中の介護についてでした。
両氏も私生活においては重度訪問介護を利用していましたが、議員活動は私生活ではないため、議員活動に従事している間は重度訪問介護を利用することができません。
しかし、このままでは議員活動に支障が出る恐れがあるため、特例として当面の間、参議院が両議院の議員活動中の介護費を負担するということになりました。
この対応については、現行の法制度の枠組みに準じて考えれば、参議院という「勤務先」が、両議員に対して「合理的配慮」を行ったという評価ができるでしょう。
一般企業に同様の「合理的配慮」を求めるのは難しい
しかしながら、一般企業においては、いくら合理的配慮とはいえ、重度障害を持った従業員の勤務時間中の介護費を全て負担するということは現実的に困難です。もちろん、重度障害者の方本人が負担するということは、さらに困難です。
とするならば、やはり、重度訪問介護の制度の適用範囲を、仕事中にも拡大するしか解決策は無いということが言えるのではないでしょうか。
確かに、適用範囲を拡大することで、投入される税金は一時的に増加するでしょう。しかし、重度障害者の方が働き手、すなわち納税者の側に回ることができれば、大きな流れで見れば投入された税金は回収されますし、障害者の方の社会参加を促すといった、政府が望む世の中の実現にもつながっていくのではないでしょうか。
プロフィール
榊 裕葵(ポライト社会保険労務士法人代表)
大学卒業後、製造業の会社の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。その後、社会保険労務士として独立し、個人事務所を経てポライト社会保険労務士法人に改組。マネージングパートナーに就任。勤務時代の経験も生かしながら、経営全般の分かる社労士として、顧問先の支援や執筆活動に従事している。また、近年は人事労務freee、SmartHR、KING OF TIMEなどHRテクノロジーの普及にも努めている。
主な寄稿先:東洋経済オンライン、シェアーズ・カフェオンライン、創業手帳Web、打刻ファースト、起業サプリジャーナルなど
著書:「日本一わかりやすいHRテクノロジー活用の教科書」
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