仕事帰りの静かなバス車内でした。乗客は、会社帰りと思われるお疲れ模様のスーツ姿の大人が大半を占めていました。

その日は夕方から雨ということもあり、同じ時間帯の同じバスより乗客はいつもより多め。

そのため、座席を確保できず吊革や握り棒で体を支えて立っている人も多い、夜のバス車内でした。

窓は閉められ、雨音は聞こえません

ことさらよく通る声

いつものバス停から、私は夜の闇に飛び込んできたいつものバスに乗り込みました。

すぐに車内の喧騒が聞こえ、車外の音から車内の音へと耳がチューニングを終えると、若い女性の甲高い声が大きめの音量で耳に飛び込んできました。

もう、22時を超えていました。

時間に対する価値観は人それぞれですが、仕事を終えてようやく帰途に着く多くの乗客にとって、バス車内での静寂は疲れた体と心を癒やす貴重な時間です。

規則ではないにせよ、せめて普通の音量とテンションで会話していただけないかな、とも思いました。

疲れた耳にはよく響きます

気になったのはそれだけではなく、むしろそれ以上に、その女性の話している内容がお勤めであろう会社内部の仕事の進め方に関する苦情だったり、同僚と思われる方に対する中傷だった点です。

その話を聞いて具体的に勤め先が分かる訳では無いのですが、「(それ、守秘義務だよね……)」と心のなかで思わずにはいられませんでした。

座ったまま眠っている乗客も多かったのですが、聞こえている他の乗客の中にも、私と同じように事のヤバさを感じている方はおられたのではないかと思います。

なにか事情を抱えているの?

もし本当に守秘義務違反をしているなら、それは必死に隣の友人(?)と思わしき女性に甲高く話している当人も自覚していることだろうと思いました。

私が気になったのは、「そこまで必死に話さなくてはならないくらい溜まったストレスの重さ」でした。

その女性のが、ちょっと心配でした。

何らかのハラスメントに遭っているのかもしれないと思ったからです。

パワハラ、セクハラ……。

ここは狭い鹿児島市。

いつも会う仕事関連の人がどこで聞いているか分からないし、それくらいの危機感が無いという訳ではないでしょう。

ブラック企業の存在、職場でのあらゆるハラスメント勤務時間報酬面での食い違いなど、昨今の職場に関する問題は頻繁に取り沙汰され、一過性のものではありません。

そして、自殺人身事故人間関係に起因するトラブルなどに辿り着いてしまいます。

その夜の出来事に関して、私の心配も想像の域を出ないものです。

夜の乗り合いバスの中でのある出来事に、根拠はどこにもありません。

他の乗客もおそらく戸惑ってしまうほどの声高な若い女性による社内暴露は、迷惑ではなく「同情」を私の心から引き出しました。

少し、妄想し過ぎかもしれません。

でも、たとえ私一人の妄想だとしても、そういった方向に想像が向いてしまうことに、病んでいる社会の現状を感じました。

単純に「うるさい、迷惑だなあ」と思うにとどまらなかった自分の心も同時に、少し心配になりました。