香水の付きすぎって自分ではわからないからつらい
10代
15歳の頃おなかに香水を付けていた。
たしかGUERLAIN(ゲラン)だったと思う。タバコらしき臭いを隠すために強烈な香水を付けている同級生を見て「これはきっとかなり格好悪い行為なんだろう」と漠然と思っていたときに、テレビで「男性はおなかに香水をつけてから首に付けるとほのかに香りますよ」と言っていた。
その言葉で、「おなかに香水=モテる」になった。そもそもタバコは吸っていなかったから臭いがぶつかり合う心配もない。
ただ、自転車通学の私は毎日10キロの道のりを汗だくで登校しなければいけない。
おなかに付けた香水がほのかに香るのは、空調が完璧に整ったオフィスで、女の子と近くで仕事の打ち合わせをする奴だけだ。汗だくで登校した私からは、もはや汗の臭いしかしなかった。
だから結局、香水を付けていた1年生の間に誰かに気づいてもらったことは一度もない。高校3年生になると、香水よりも石鹸の香りがモテるという考えに変わり付けなくなった。
20代
それから、20代中盤になった私は後輩の女の子と話をしていた。
「くまさん(私のこと)香水つけないんですね」と女の子。
「うん、〇〇ちゃんも付けてないよね?」と私。
すると女の子は鼻を少しふくらまして、
「はい。私、彼氏の体臭が大好きだから少しでも匂いを残しておきたいんです」と言った。
まずい、この子変態だ。好きになってしまいそうだ。
その言葉は、漫画『ゆりキャン』の主人公の名セリフとほぼ一緒だった。『ゆりキャン』は女の子からとにかくモテる女性が主人公だ。
作中で彼女に「香水を付けないんですか?」と言ったとある女の子に対し、彼女は不敵に笑いながらこう言い放った。
「抱いてきた女の子の残り香が私の香水よ」
……超かっこいい。
30代
ーー現在私が気になっている女の子のことを考える。
気になっている女の子は香水を付けている男が好きだという。しかも私の背中を押すようにして、10年以上前にテレビで見た「男はおなかに香水=モテる」という眉唾の情報が、このあいだテレビの次回予告で流れていた。
私はお金をためてPENHALIGON’SのOPUSというとてもとてもお高い香水をメルカリで買った。年齢も30歳をいくつか過ぎていたので渋い香水が似合う歳だし、大人の香水はマナーに近い気もする。
これでモテると思ったのも束の間、凡ミスに気づく。私は嗅覚過敏なので香水の匂いで頭やお腹が痛くなってしまうのだ。どうしよう、デートでトイレにばかり行くはめになってしまう。
今のところ、香水はがんばってまだ付けている。ただ、ちょぴっとしか付けていないから、使い切るまで20年くらいかかりそうだ。