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2024/12/10:フリーペーパーvol.105発刊!

音楽リスナー歴20年の私が責任を持ってお勧め!確実に役立つディスクガイド

音楽を知るのに役立つ「ディスクガイド」。ネットでは得られない濃縮された情報源

私が音楽を意識的に聴き始めて、もう20年が経過しました。物心ついた時からずっと音楽を愛好しているので、いつの間にかそのような年月が経っているのです。
音楽を聴き込んでいく際に最も助けられたのは、通称「ディスクガイド」と呼ばれる、多様な音楽アルバムを紹介する本です。海外のロックに特化したものから、国内のミュージシャンが自らの筆で書いたものまで、様々なディスクガイドに助けられてきました。

今回は私が音楽を知っていく上で本当に役立ったと言えるディスクガイドを3冊紹介致します。この3冊を読めば、あらゆる時代・ジャンルの音楽への理解が深まっていくであろう、内容の濃い3冊であることを私が責任を持って保証致します。是非、お付き合い頂ければと思います。

「音楽の架け橋 快適音楽ディスク・ガイド」(渡辺 享、SHINKO MUSIC)

編集者・ライターとして活動する渡辺享氏によるディスクガイドです。「快適音楽」という言葉をキーワードに、コンセプトごとに項目をいくつかに分けて古今東西・ジャンルレスに音楽を紹介しています。
あえてビートルズなどのビッグネームを外し、世界でもなかなか検証されていないようなマイナーな作品にまで焦点を当てたアルバム選出のセンスが非常に素晴らしいです。音楽を浴びるように聴き込んできた人間にしか、このような本は編み出せないでしょう。

読んでいて、私が特に印象深かったのは”Impresiones intimas“という項目。「内省的なシンガーソングライターのアルバムを中心に、ひそやかな歌、もの淋しい歌、”独り”の歌などが聴こえてくる音盤を選んだ」という説明通り、憂愁に満ちた音楽が凝縮されたアルバムがたくさん紹介されています。ニック・ドレイク「Five Leaves Left」やチェット・ベイカー「Chet Baker Sings」といった「もの淋しい歌」の大定番アルバムから、ロリ・カーソン「Shelter」、バルバラ「Bobino 1967」といったマイナーながら瑞々しい作品まで、様々なジャンルの綺麗な音楽作品が一瞬にして分かってしまいます。
アルバムを紹介する文章自体も比喩・隠喩・深遠な表現力に富んでおり、ネット上に溢れかえっているような、テンプレートを踏襲するような音楽レビューとは完璧に一線を画しています。

さらにこの本の凄いところは、紹介されているどのアルバムも音圧が高くなく、音の優しいアルバムばかりであるということです。クラシック系のアルバムにしても、シンガーソングライター系のアルバムにしても、ロック系のアルバムなども含めて、どのアルバムも音が圧倒的に優しい。うるさくない。耳障りな音のアルバムは一切紹介されていない!
これは実に凄いことです。日頃の生活にストレスが多く、うるさい音楽を好まない私にとっては理想郷のような一冊です。
片寄明人氏、ゴンチチの御二方など音楽界の重要な存在による作品レビューも充実しており、全内容がためになります。
私はこの本でJoe HenryやJohn Martyn、Arthur Verocaiなどなど他にもたくさんの、唯一無二としか言いようがない美しい音楽を知りました。
一冊の本で全ての国のあらゆる癒し、かつ刺激に満ちた音楽を網羅したい!という方には、是非ともこのディスクガイドをお勧め致します。

「GUITAR POP definitive 1955-2015」(監修:岡村 詩野、eleking-books)

ギター・ポップ」という音楽ジャンルにまつわるディスクガイド。とはいえ内容はラテンポップ、黎明期のロックンロール(バディ・ホリーなど)、ボサノバ、フランスのポップス、カントリーからフォーク・ミュージックまで様々なアルバムが特集されています。「ギター・ポップ」という定義しづらい概念の解析に真正面から取り組み、様々な音楽を扱い、ギター演奏を中心としたポップ・ミュージック〜ロック・ミュージックの歴史とはどのようなものなのか、その本質的部分を詳細に届ける名著です。

どの項目も印象的ですが、私がこの本の中で最も興味深かったのは序盤〜中盤の項目である「Latin Pops / Rock’n’Roll 1955-1965」「Soft Rock 1966-1979」です。モダン・ジャズ、広範囲に渡るブラジル音楽、アコースティック系のロックバンドたちのアルバム……といった私があまり掘り下げていなかった類のジャンルを解説しており、非常にためになりました。

私が音楽を聴く上で面白いのは、全くタッチしていなかったジャンルへの扉が瞬間的に開く時です。サブスクリプション・サービスを操作していてもそういった新たな扉が開きますし、こういったディスクガイドの醍醐味は、自分が存在すら知らなかったジャンルの音楽に触れられるということです。
ですから私は、一つの音楽ジャンルに特化したディスクガイドより、多種多様な音楽を総まとめしているディスクガイドをお勧めしますし、その意味において「GUITAR POP definitive 1955-2015」は素晴らしい本であると思います。

ここで紹介されているどの音楽も、さっぱりとした爽快感と、少しの「切なさ」に満ちている、実に感情豊かな音楽ばかりです。最初から最後までくまなく聴いていけば、絶対的に自分のお気に入りが見つかる。そんな安心感と、音楽を吸収していくにあたっての意欲をたくさん与えてくれる本です。是非とも推薦です。

「宅録〜D.I.Y.ミュージック・ディスクガイド HOMEMADE MUSIC」(江森 丈晃、P-Vine BOOKs)

自宅やホームスタジオにて録音された音楽。もしくはD.I.Yな手法で作られた音楽。レコード会社の仲介のあるなしに関係なくアーティスト自らの意志や趣向が前面に押し出された音楽。こういったインディペンデントな音楽を国内・海外の垣根を崩し、ジャンルの壁も超えて紹介する一冊です。
山本精一氏・曽我部恵一氏といった著名なミュージシャンへの「宅録」「D.I.Y.」をテーマとしたインタビュー、音楽作品の特殊パッケージングに関する特集などの様々な読み物も同時掲載した豪華な本で、これを読まずしてディスクガイドに触れたとは言わせない!というような気概が尋常でなく感じられます。

私が一番印象深かったのは「壁に歌うということ ベッドルーム・ミュージシャンの孤独と発散」の項目です。基本的に独りで作品を作っているD.I.Y.なミュージシャンの音楽作品を紹介するこの項目にはどうしようもなく俗世間から孤絶し、だからこそ強い磁力を持ち得ているような作品がたくさん紹介されています。
Sibylle Baierの「Colour Green」やLoren Mazzacane Connors & Suzanne Langille「Crucible」はこの項目で知ることが出来た名作ですし、「アコースティック・デスメタル」を謳うBoduf Songsの「How Shadows Chase The Balance」も面白い宅録アルバムです。

その他にもインディーレーベルの今昔を辿る項目や、ダンスミュージック・ヒップホップを中心として扱う項目まで、とにかく盛り沢山な内容です。「宅録」「D.I.Y」というキーワードに沿いながら、その中身は本当に多種多様な音楽を紹介する、極めて面白い書物です。
ノーマルに音楽を作って不特定多数に発信するようなミュージシャンだけではなく、前述した特殊パッケージングなどを使用するような高度な芸術性を持った作品の情報、さらには古今東西の奇人・変人的なミュージシャンの情報まで得られるので、これ一冊を読むだけで「音楽」というものに対する捉え方が完全に変わるでしょう。

音楽というものに大きく興味がある方、さらに音楽を自分でも作って発信してみたいという方にとっては、心強いバイブルとなり得る一冊であると思います。これこそ名著です。

何が言いたいかというと、ディスクガイドは最高の書物!

今回は3冊のディスクガイドを御紹介致しました。現在は有り体な「ロックの名盤集」的ディスクガイドが多かった旧い時代とは違い、本当に様々なディスクガイドが各出版社から発表されています。今回御紹介した3冊は、どれもテーマをきちんと持って、マイナーなものを中心に素晴らしい音楽へ光を当てるような内容となっています。

様々な音楽にのめり込み、リスナーとしての経験を積んで、音楽作品をひたすら聴き重ねてきた最良の執筆者たちが編んだディスクガイドは、SNSサイトやブログに収めることのできないほどの深み・渋みを持っています。そういった言葉の数々に触れることで、より音楽を聴くことが面白くなっていきます。
「音楽」という表現形態に関心を持っている皆様には是非とも、この3冊をチェックして頂きたく思います。現代のディスクガイドは最高の書物である、と私は思います。

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