大都市・海外だけが文化圏じゃない。音楽も地産地消を!
日本の音楽文化の中心となっている場所として一般的に連想されるのは、東京、関西といった大都市がやはり主であるところだと思います。近年はインターネットや物流の発展により、地方からも文化情報の発信が出来るようになった、ということはよく言われる話ですが、現状としてはやはり東京などの大都市圏を中心とした盛り上がりを地方から眺めることがほとんどです。
ざっくり
大都市圏の音楽シーンばかりが取り沙汰される違和感
私が住む鹿児島はどうでしょうか。私はもちろん大都市圏の音楽や、海外の音楽もたくさん聞きますが、同時に自分の住む街の音楽文化にも興味があります。
個人的な話をさせて頂くと、私が鹿児島という小さな街から生まれる音楽をYouTubeやサブスクリプション・サービス、ネットメディア等で探り続けて、もう早4年ほどが経過しました。この間に鹿児島の音楽シーンの中身はより多様化し、様々な音楽が生まれるようになっています。しかし、なかなかその「中身」にまで陽が当たらないのが今の状況です。せっかく面白い音楽を様々な方が作り続けているのに、それが各メディアやリスナー側にきちんと届いていない。このことは現在、鹿児島の音楽シーンにおいて実に大きな問題となっています。
確かに大都市から生まれる音楽は素晴らしい。海外の音楽も甲乙付け難く、良い。しかし、大都市・海外だけが文化圏じゃないはずだ、と私は思っています。
日本は島国ながらも、実際はとても広い国です。どの街にも音楽を奏で、愛する人がいます。そういった人々が生み出す、地元の音楽に耳を傾けること。自分の街にある音楽の良さに気付き、それを愛すること。これは「音楽の地産地消」、と言えます。
街のスーパーに行けば、地元の食物がたくさん並んでいて、当たり前にそれを人々は購入して料理します。食の文化と同じように、音楽においても、そういった地産地消を各地で自然に行ってこそ、アーティストもリスナーも音楽ライフをさらに充実して楽しめるのではないでしょうか。
我が街鹿児島の音楽を紹介
今回は、我が街鹿児島から生まれている素晴らしい音楽の中から5つをピックアップし、記事を執筆していこうと思います。是非お付き合い下さい。
1.POTATO GENIUS! 曲者なユーモア、そこにあるのは心優しいエモーション
鹿児島の音楽を紹介するに当たって、まず御紹介しておきたいのがPOTATO GENIUS!(ポテト・ジーニアス!)というアーティスト。2018年から活動を開始したPOTATO GENIUS!は、時期によってギター&ドラムの2ピースバンド、ソロプロジェクトと形態を変えながら活動しています。
中心となるのはボーカル、ギター、作詞作曲を担当する「あらすか」氏。2021年に発表された、80年代調アレンジが耳を惹く名曲「真夜中の逃亡者」のミュージック・ビデオでは、ギャグか?と思わせるようなサングラスをかけ、カラオケマイクを手にしてゆるいダンスを披露するあたり、一体この人は何者?と伺う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、そのメロディーは極めてポップ!かつ奥深く繊細に織り込まれています。とにかく、その完成度が非常に高いのです。
そして完成度が高いだけでなく、POTATO GENIUS!の音楽はどうしようもなく「生身の人間の音楽」です。それが最も顕著に表れているのはその歌唱、そして歌詞の世界でしょう。ナチュラルな歌声で届けられるあらすか氏の歌詞には、誰しもが生きる上で感じる悲しみ。葛藤。そしてそれをなけなしの優しさで乗り越えていくような、心に沁みる感情の描写が凝縮されています。
前述した「真夜中の逃亡者」で描かれているのは、男女が真夜中に街を抜け出す、まるで映画のようなストーリー。サビで歌われる、「踊りたいから踊るのさ 我慢してても笑えないよ」という歌詞には、依然継続するコロナ禍に蔓延する鬱屈を打破したいというメッセージが込められているように、私には思えます。その切実な感情を明るい80年代ポップス的なアレンジで披露するというところにも、悲痛なメッセージだけが感情を届ける手段ではない!と示すような知性・気概を感じさせます。
世界のどこを探しても例を見ないPOTATO GENIUS!の、一筋縄ではいかない現実に優しさを与えるような音楽。最近では各音楽配信サービスにも音源が解放されました。是非、皆様にも聴いて頂きたいと願っています。
2.YOLK 手練ミュージシャンの新プロジェクト、可能性は未来に向かう
次なるアーティストはYOLK(ヨーク)。
2010年代中盤頃から鹿児島を中心に活動し音楽キャリアを更新して来たRei Wada氏、Ryoma Sakoh氏、Yusaku Mukouda氏の3名からなるこのユニットは、大学の同級生であったというRyoma氏とYusaku氏により2019年結成。御二方の旅行の記録として楽曲及び映像を作ろうとしたのがYOLKの結成のきっかけであるとのことです。2021年からはRyoma氏とYusaku氏の幼馴染であるというRei氏が加入し3名の編成となりました。
現在、音源は2020年に発表された「Where Does This Paperplane Go?」と2021年に入り新たに発表された「惑星」、オムニバスアルバムに収録された「adore」の4つ。これから追いかけるという人にも網羅しやすいでしょう。
「Where Does This Paperplane Go?」は2曲入りのシングル。アコースティックギターの響きと心の琴線をさりげなく掴むような歌唱が美しい2曲です。
「惑星」はタイトル曲とその別バージョンが収められたシングル。緻密に作られた堅実な音像の洒脱さと、もはや完全性すら感じさせる美しいメロディーの運びが深く印象に残ります。
「adore」はアコースティックギターによるインストゥルメンタル。楽器だけでも不足を一切感じさせない、心に強く語りかけてくる旋律が只々綺麗です。
このような曲をコンスタントに作ってしまう、その才覚には驚くばかりです。その音像はどこまでも優しく繊細。しかしその内側には静かに沸々とみなぎる創作意欲が感じられます。
YOLKの音楽を聴くと、地方の田舎ゆえ何かと閉塞感が漂いがちな鹿児島にも、ひとさじのアイデアと音でポジティブな未来の光が差し込むのだと教えられます。YOLKの音楽はまだまだ発展していくでしょうし、鹿児島の音楽シーンは確実に変わりつつあるのです。心から未来に目を向けたくなる音楽をYOLKは鳴らしています。音楽配信サービスやYouTubeに音源が上がっているので、気になった方は是非チェックして頂きたく思います。
3.No edge 純粋にロックを追い求める勇気。生み出される音の渦こそ希望
次のアーティストは、No edge(ノー・エッジ)という3人編成のバンドです。
2016年、ギター・ボーカルのトミー氏、ベースのマッキー氏、ドラムのレッド氏によって結成されたNo edge。自主企画「mind is not brain」やツアーバンドのサポートを継続的に行い、コンスタントな音源リリースも実施。常にライブシーンに立ち続け、ロックを演奏して生きているバンドです。
王道の音とは少し離れた、だけどとても伸びやかなギター。太く強い筆圧でエモーションを思いっきり乗せて迫るベース。ドラムはしなやかで安定したリズムを大きく刻み、傷つき果てながら希望を求めるようなボーカルはとても切実です。そしてこのバンドもメロディーと和音が優しい。音像こそ全く違いますが、核にある旋律に対する繊細過ぎるほどに細かい心の配り方は、YOLKにも通ずるものがあると思います。
スピーディーな曲から暖かいバラードまで、様々な楽曲を作り続けるNo edgeですが、自分が好きなのは「Coast」という曲です。7分間を贅沢に使って広げられるバラードであるこの曲のギターソロ、そして語りかけるような優しい歌唱を聴いていると、私は個人的に、ある海辺の風景が浮かんできます。それは目に眩し過ぎるような最近の映画の質感ではなく、少し昔のモノクロで撮影された映像のような色合いで、そういう個人的な映像が浮かんでくるような音と言葉が生まれていることが音楽の奇跡ではないか、と思うのです。しかもそれは、我が街鹿児島から生まれているのです。これは本当に素晴らしいことだと思います。
No edgeは音源を聴くのも良いですが、やはりその本領はコンスタントに行われるライブにあります。自分も何度か足を運びましたが、壮大なボリューム感で俊敏に音を交わし合う御三方の演奏は、まさしく見事な職人芸です。音楽配信サービスやYouTubeで音源を聴いて気に入った方は、是非ライブにも足を運んでみて下さい。No edgeの音楽を深く理解できるのは、確実にライブの現場です。
4.Mapledoor 触れたら崩れ落ちそうな程細やか・密やかな、意志ある音楽
まだまだ鹿児島には素晴らしいアーティストが存在します。次に紹介するのはMapledoor(メイプルドア)というバンドです。ギター・ボーカルの浦田望夢氏、ギターの板井双海氏、ドラムの有村雄飛氏からなるこのバンドは2018年頃から活動を開始。YouTubeでの音源公開、ライブを中心に活動を行っています。
Mapledoorの特徴は、その触れたら崩れ落ちそうなほど細やか、かつ密やかな、静けささえ感じさせるサウンドスケープです。アコースティックギター、変則チューニングを多用したそのバンドサウンドは、決して声高にうるさくなることはなく、だからこそリスナーの心を波立たせ、感動させる磁力を生んでいます。
近年の日本の音楽界を席巻するような、ストロングな音圧や過激な主張とは一線を画すMapledoorの音楽は、鹿児島を評価の軸足に置かずとも、日本全体で見て非常に画期的なものであると言えるでしょう。そこには確実に、「自分たちの音楽的理想を追求する」「既存の音楽とは違う自分たち特有の音楽をリスナーに提供してみせる」という意志があると、私は感じています。
YouTubeには現在4曲が公開されていますが、どの曲も実力と広がり続けるインテリジェンスを感じさせる、含蓄に富んだものです。これからの音楽配信サービスへの参入等に期待を込めつつ、このバンドを大推薦致します。
5.suichublanco 鹿児島拠点の10年選手。歩み続ける凹凸だらけの3ピース
名残惜しいですが、最後のアーティストです。最後は鹿児島を拠点に10年以上、メンバーチェンジなく活動を続ける奇跡のロックバンド、suichublancoについて書かせて頂きます。
suichublancoはギター・ボーカルの井上雄太氏、ベースのユイ氏、ドラムのリュージ氏の三人編成。2009年に結成されて以来九州各地や東名阪周辺は勿論、アメリカ、台湾、カナダ等、海外での演奏経験も持つグローバルなバンドです。
Jポップ的な音像とは全く違う、硬質で無骨なギター・ベースの音色、非常に細かくリズムを叩き分けていくドラム、唯一無二の井上氏のヴォーカリゼーションによって形作られるsuichublancoの音はとてもユニークで、他のバンドでは決して聴けないものです。
そして何より素晴らしいのがメロディーのセンス。荒々しい轟音の中でキャッチーな歌心を提示するsuichublancoの音楽は、その凹凸こそが魅力となってです。どこまでも粗いサウンドだからこそ、逆説的にキャッチーなメロディーが映えているのです。
そしてsuichublancoの本領は、これでもかと井上氏が暴れ回り、バンドサウンドを思い切りダイナミックに聴かせてくれる、エンターテインメント精神に満ちたライブパフォーマンスです。一回一回のライブに込められた、その熱量と純度の高さには目を見張るものがあります。
ライブだけでなく折に触れてレコーディングも精力的に行っており、近年はミキシング(楽器パートごとの音量調整)、マスタリング(聴感上でのボリューム感の調整)も井上氏が行うようになりました。現時点での最新アルバム「two peace, too much」はレコーディング・ミキシング・マスタリングを全て井上氏自身が手掛けた、決定的傑作となっております。
また、井上氏はWORD UP! STUDIO(ワードアップスタジオ)というスタジオ兼バーも経営しており、様々なイベントをコンスタントに行い、バーとしてもそこに集う御客様を喜ばせています。前述の「two peace, too much」もWORD UP! STUDIOで録音されたアルバムです。
あらゆる方面で活躍するsuichublancoの音源は、主に音楽配信サービスで聴くことが可能です。まずはサブスクリプションで聴いて頂き、次には是非ともライブに足を運んで、その強力な音楽への理解を深めて頂きたいと思います。
鹿児島の音楽シーンの発展性は未知数、聴くなら今なのです!
ここまで5つの鹿児島の音楽アーティストを紹介して参りました。気になったアーティストはいましたでしょうか。素晴らしいアーティストは他にもたくさん存在しますが、あまりにも膨大な記事になってしまうので、今回は5つにまとめさせて頂きました。
鹿児島の音楽シーンはなかなか世間的に注目され辛い状況にあります。しかし良質な音楽は常に生まれていて、今はそこにスポットライトが充分に当たっていないというだけなのです。東京や海外の音楽には敵わない、という訳ではありませんし、何かきっかけさえあれば、鹿児島の音楽アーティストの実力はより広まっていくというのは明白です。
是非とも地産地消の精神で、鹿児島で生まれている音楽を地元の人々が愛し、丁寧に扱っていくような世の中になって欲しいと思います。まずリスナーが存在しなければ、せっかく作り上げられている音楽も水の泡です。それは非常に惜しい話であると思います。
この潤沢なシーンの発展性は未知数です。まだまだ発展途上の今から聴いておけば、これからの飛躍も楽しむことが出来ます。
是非、鹿児島に住み、生活の中で音楽を作る人々の音楽に耳を傾けてみて下さい。そこには新たな発見や、自分が慣れ親しんだ価値観すら変化するような、エキサイティングな感覚があることでしょう。
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