私とRosey Chanとの出会い
今回は、私が近年最も感動したピアニストであるRosey Chan(ロージー・チャン、陳小莉)という方について執筆しようと思います。まず、なぜ私がRosey Chanの音楽と巡り合ったのかということを御説明していきます。
私はよく、音楽配信サービスのApple Musicでクラシック音楽を聴いています。クラシック音楽の良さに気付いたのは本当にここ最近、細かく申すと今年に入ってからの話で、それまではなかなかクラシックには手が伸びなかったのですが、ある好きなミュージシャンがドビュッシーの音楽に影響を受けているということを知り、少し聴いてみようと思ったのです。
いざドビュッシーを聴くと、メロディーはピアノだけで表現されているのですが、非常にそのメロディーの表現しているフィーリングの幅が広く、一曲の中にいくつもの表情があることが分かりました。私の心とクラシック音楽の波長が合致した瞬間でした。
それ以降はクラシック音楽を熱心に聴くようになり、キース・ジャレットがモーツァルトを演奏しているアルバムや、高橋悠治がエリック・サティを演奏しているアルバムを見つけ出しては聴き込みました。
今はApple Musicなど、音楽配信サービスの仕組みを使えば、すぐに興味の出てくるようなアルバムが聴けるので、CDが主体となっていた時代も知っている世代の自分としては世界の良い方向への発展を感じます。そういった発展の素晴らしさに感じ入り、新たな音楽ジャンルを開拓している喜びを得ながら、様々なクラシック音楽にアクセスしていたある日、Apple MusicからRosey Chanの「Sonic Apothecary」というアルバムを紹介されました(Apple Musicにはリスナーの好みに合わせてアルバムをお勧めしてくれる機能があるのです)。
何の気なしにジャケットをクリックすると、水面に雫が落ちるアニメーションがジャケットでした。最近、Apple Musicではジャケットにアニメーションが施されているものが少しずつ出てきています。動くジャケットの導入を行っているミュージシャンはまだ珍しいので、これは何かがあるアルバムではないか?と思い、再生しました。
聴こえてきたのは、天上から聴こえるような深い残響を持った、美しいピアノでした。一曲ごとに12分〜13分かけて紡がれるピアノの音は、他のアーティストのピアノとは違う魔力、時間軸を感じさせるものでした。明らかにいわゆる近年のピアノを主体とした音楽とは違ったピアノのコード感、違った鍵盤の音色をRosey Chanの音楽は備えていたのです。
早速、入眠時のBGMとしてこのアルバムは機能し始めました。日頃のストレスと先天的な多動になってしまう脳機能に生活を追いやられている私にとって、このアルバムは新たな癒しとなりました。そして今も私はこの2021年に刻まれたアルバムを、折に触れて聴き続けているのです。
これが私とRosey Chanの音楽との出会いです。
Rosey Chanってどのような人?
Rosey Chanはマルチメディア・アーティストという括りに位置するミュージシャンです。ソロコンサートにおいては映画的なビジュアルアートを用い、建築やコンテンポラリーダンス等へも意欲的なアティチュードを見せています。
彼女はイギリスで、中国人の両親のもとに生まれました。音楽院に入学したあとは、ロンドンのサウス・ケンジントンの音楽学校でクラシック音楽の作曲、ピアノ、バイオリンを教わったといいます。非常にアカデミックな知識と実力を持ったアーティストであるRosey Chanは、音楽大学卒業後はロイヤル・アルバート・ホール、カーネギー・ホールといった名だたるコンサート会場で演奏しました。2008年からはクラシック音楽を飛び越え、現代の電子音楽や即興音楽、ダンスといった要素を作品の中に組み込んでいきます。ロイヤルオペラハウスをはじめとする世界各国ーパリ、ロンドンなどーの様々な会場で作品を発表し、2011年にはヨーロッパ、アメリカ、中国からパフォーマーを集結させ、国際的な文化祭典である香港リベレイタムフェスティバル / サミットのキュレーションを行いました。
2010年に発表されたデビューアルバム「ONE」はThe Policeのスティングがプロデュース。2020年にはマインドフルのためのピアノ作品をリリースし、新型コロナウイルスの流行から誘発された国際的なメンタルの問題にも対応。その後も様々な作品をリリースし、2021年には前述の作品「Sonic Apothecary」をリリースしました。現在、彼女はロンドンに住み、ダンス、ビジュアルアート、建築、映画、ファッションといったプロジェクトで国際的な活躍を見せています。
「Sonic Apothecary」をさらに掘り下げる!
ここからは、Rosey Chanの目下最新作にして傑作である「Sonic Apothecary」というアルバムをより掘り下げ、深めていきましょう。
御本人のこのアルバムに対するコメントを翻訳し、引用してみます(要約を含みます)。
「このアルバムは、音楽が脳に与える影響について私が学習した成果です。
この間、私は睡眠、神経科学の分野で世界で最も優れた知識のある専門家の方と出会い、その方はアドバイスとガイダンスを共有して下さりました。
この経験を皆様と共有したいと思います。これをあなたの個人的な音楽による薬局である、と考えて下さい」
つまり、この作品は人々の睡眠や神経作用の緩和を手助けするために作られたアルバムであるということです。私が睡眠時にこのアルバムを聴いていたのは正しい聴き方であったと言えます。
社会的なメンタルケアの重要性が問われる現代において、このアルバムは間違いなく重要な作品でしょう。しかし、このアルバムはシンプルに言わせて頂くと、「音楽」として極めて美しいのです。
音楽単体を取り出して聴いても、深遠な含蓄を感じさせるメロディー、和音がそこにあるがゆえに、このアルバムは真の癒しを獲得しているのです。基礎的、応用的な教育を受け、芸術の世界に参入したRosey Chanであるからこその丹念なる業績です。
アルバムタイトルを訳すと、「Sonic」は英語で「音の、音波の」という意味で、「Apothecary」は「薬剤師」という意味です。組み合わせて訳すと「音の薬剤師」。まさにこのアルバムの効能を分かりやすく言い得ています。
また、「Sonic Apothecary」のリリースとともに作られている特設サイトでも面白い試みがなされています。特設サイトをクリックすると、まずこのようなメッセージが出て来ます(要約を含みます)。
特設サイト”ROSEY CHAN – SONIC APOTHECARY”
こんにちは。
Rosey ChanのSonic Apothecaryの体験へようこそ。ここではいくつかの質問に導かれ、あなたの脳波の状態が明らかになります。「START」を押すと、次にこのような質問が出て来ます。
今日のメディテーションの目的は何ですか?
・バランスの取れた感情を持ち、今を生きることに集中する
・リラクゼーション、創造性のより高い感覚に到達する
・深いヒーリング・眠りを体験する
この中から自分に適した項目をクリックすると、次にこのような質問が出て来ます。
目を閉じて、色を考えて下さい。あなたを示す色は何ですか?
・ピンク/紫
・青/緑
・オレンジ/赤
適した項目をクリックして色を選ぶと、次の質問が出て来ます。
あなたの心を落ち着かせるビジュアルは何ですか?
・水の流れ
・山、川、谷
・昇る太陽、日没
さらに適した項目をクリックすると、自分の脳の波長に合ったRosey Chanのアルバムが出て来ます。私は「深いヒーリング・眠りを体験する」「緑」「水の流れ」を選択し、「DELTA + THE AIR WE BREATHE」という作品に辿り着きました。下記にURLを置いておきますので、興味のある方は一度試してみると良いでしょう。こういった人間の身体や精神と結び付けて音楽を提示する手法は、表現の楽しみ方として面白い試みであると感じます。
まずは「Sonic Apothecary」を聴いて頂きたい!
前述の通り「Sonic Apothecary」をはじめとしたRosey Chanのアルバムはサブスクリプション・サービスで配信中です。作品数も多いですが、まずは「Sonic Apothecary」を是非お聴き下さい。特に、私のように日頃ストレスを感じ、精神的に暗い心情でいらっしゃる方は、是非入眠時にこのアルバムを聴いてみて下さい。メンタリティの安定が訪れ、安心して眠りに就けることでしょう。