半年間の集中クラシック期間で見つけた名作を御紹介!
クラシックを本格的に聴くようになって、およそ半年ほどが経過しました。
世界中のクラシック音楽を一瞬で聴けてしまうサブスクリプション・サービスの進化・充実化に、日々感激しています。そしてだからこそ、本当に心に響く音楽というものに焦点を絞ることが出来るようにも思います。浴びるようにたくさんの音楽を聴くことで、逆に本当に心情と合致するような音楽を見つけやすくなった気がします。本当に自分と溶け合う音楽というものは、一度再生しただけでパッと分かるほど明確なものです。今の私にとってはそれがクラシック音楽だった、ということが言えると思います。
今回は、私がクラシックを半年間集中して聴き込む中で見つけた、5作の素晴らしいアルバムを見繕って御紹介致します。
ざっくり
グレン・グールド「Beethoven: Piano Sonatas Nos. 8, 14 & 23」
バッハやベートーベンなど、様々なクラシック作曲家の楽曲に独自の解釈を加えセンセーションを巻き起こした歴史的ピアニスト、グレン・グールドがベートーベンのピアノ・ソナタを弾いているアルバムです。
ピアノだけの演奏とは思えないほど多層的なサウンド、激しさと静けさを行き来するドラマ性が素晴らしいです。全編がマイナーコードながら陰鬱さは一切感じさせません。あまりにも透明な美しさが宿っています。
音楽的には「Appassionata」は一般にクラシック界で演奏される際よりもかなり遅く弾いていたり、逆に「Moonlight」は平均的なテンポより速く弾いていたりと、かなり実験的な内容となっており、賛否両論があるようですが私は非常に素晴らしいアルバムであると思っています。
とにかく繊細なメロディーに感情移入してみたい、という方にお勧め致します。
ウラディーミル・アシュケナージ, ロンドン交響楽団 & アンドレ・プレヴィン「Rachmaninov : Piano Concertos Nos. 1 – 4」
クラシック音楽のスタンダードなピアノ曲を多岐に渡って弾き込んできた手練・アシュケナージが、オーケストラとともにラフマニノフの楽曲を弾いているアルバムです。
ピアノとオーケストラが交感し合い、増幅していくサウンドは只々ゴージャス。繊細なメロディーの移ろいに心の琴線を揺さぶられます。音が大きくなるところでは思い切ったダイナミズムを感じ、静かなパートは最大限に広がる海岸のような大らかさで、イヤホンやヘッドホンで聴くと、本当に耳が音の包容力そのものに包み込まれていきます。
クラシック音楽を何か聴いてみたいという方にもお勧めですし、ジャンル関係なく、とにかくエネルギーに満ち溢れた音楽を聴きたい、という方には是非お勧めです。
スティーヴ・ライヒ「Octet・Music for a Large Ensemble・Violin Phase」
最小限に抑えた音の塊を反復させるミニマル・ミュージックの先駆者であるスティーヴ・ライヒのアルバムです。
クラシック音楽という括りではありますが、その内容はリズミカルに様々な音が反復演奏を繰り返し、それが徐々に巨大な渦となって聴き手の脳を刺激させる、というようなもので、一般的なオーケストラ曲、ピアノ曲のクラシックとは全く違う世界です。メロディーの起伏ではなく音の緻密な抜き差しによって音楽的なドラマ性を生む、という思想。とはいえメロディーを失っているわけではなく、むしろそこでは美しいメロディーや和音の響きが大事にされていて、あくまでも旋律を映えさせるために強力なリズムの反復がある、という感性が通底しています。
クラシック音楽はなんだか行儀が良すぎてとっつきにくい、と感じている方には是非お勧めです。クラシック音楽が持っている幅の広さ、音楽的刺激剤としての有用性をお分かり頂けるかと思います。
アルヴォ・ペルト「Alina – Spiegel im Spiegel」
シンプルな和声・リズム、鈴の音のような響きが特徴の「ティンティナブリ」という様式を確立させたエストニアの国民的作曲家、アルヴォ・ペルトのアルバムです。
「Spiegel im Spiegel」「Fur Alina」の2曲が収められており、前者は3つのバージョン違い、後者は2つのバージョン違いが同時収録され、5曲入りの作品となっています。
とにかく非常に小さな音で、密やかに広がるサウンド。まるで音で詩を詠むかのような、大らかな間合いを持っています。街の中で聴いても街の雑音にかき消されるような音楽なので、これだけは夜に、プライベートな場所で密閉型のイヤホンを使って聴くことを御推薦します。本当に世界が一変したかのような感覚を味わえます。
最近の音楽は複雑、かつうるさ過ぎて全く手に負えない!という方に、是非ともお勧めです。日頃のストレスで疲れている方にも、確実に適量な癒しとなるクラシック音楽ではないかと思います。
坂本龍一「/ 05」
最早日本国内では言わずと知れた、クラシックから電子音楽まで様々な分野で活躍する音楽家、坂本龍一氏。氏が抱える膨大な作品群の中では、ピアノ演奏を中心としたこのアルバムがクラシック音楽に最も接近した作品のひとつではないでしょうか。
持ち前の見事な作曲術が光る名曲「Thousand Knives」、少なからず一度は聴き覚えがある方もいらっしゃるのではないかと思われる「Energy Flow」といった名曲群がピアノ中心のアレンジでまとめて収録されており、坂本氏の音楽キャリアを一作の中に網羅したような内容となっています。それでいてアルバム自体の統一感も強く、一貫した美意識を感じます。
物悲しい旋律とめくるめく転調によって生み出される、音を超えた映像的な盛り上がりへの追求が坂本氏の永遠のテーマだと私は解釈します。自らの音楽に人間的な悲しみや、ドラマティックな風景への飽くなき渇望を滲ませているところが素晴らしいです。芸術にのめり込み、ついには芸術と一体化した人間の音楽と言えるでしょう。
とにかくこれは凄い、と言いたくなるような音楽が聴きたい!という方にお勧めです。
クラシックはハードルの高い音楽じゃない。誰にも必要な時がきっとある
ここまでが私のお勧めするクラシック音楽のアルバムとなります。この5作以外にもまだまだお勧めしたい作品は存在するのですが、煩雑になるのでここまでとします。
クラシック音楽を愛好して聴く人というのは、世界的に見ても今やなかなか居ないような気がします。歌が無い音楽であるから取っ付きにくいというのもあるでしょうし、なんとなく高尚な芸術過ぎる感じがして気軽に聴けない、という感覚も多くの方が持っていらっしゃるでしょう。
私も最近まではそういった感じでクラシック音楽を捉えていました。しかし、日常の慌ただしさに疲れてくると、不思議とピアノやオーケストラの音が欲しくなるのです。こういった楽器の音は感情を煽り立てるというより、個人が抱えるエモーションの治癒を行うような質感があります。
今、日本では特に言葉に比重の寄った音楽が多く、言葉よりも音を求める向きは、作り手にも聴き手にも多くないのが現状です。だからこそ、音楽のみならず、あらゆる日常生活での言葉の重なりに疲れ果てた時に聴く音楽として、クラシック音楽が静かに有効性を増しているのではないかと思うのです。
音楽は言葉だけでは成り立たず、言葉以上に「音」で何が伝わるか、ということが大事な表現方法であると私は考えます。クラシック音楽はまさに「音」を追求し、「音」の深みから創成された音楽です。こういった音楽の在り方が、再び注目を集める時は恐らくそう遠くは無いでしょう。
是非、クラシック音楽を気にかけて、時には実際に聴いてみて下さい。この音楽は、誰にとっても必要な時が来る音楽であると、私は思います。