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2024/4/10:フリーペーパーvol.97発刊!

社労士が説明する「未払い残業チェックリスト10選」

未払い残業の「温床」はあなたの職場にいくつありますか?

労働基準監督署など行政による取り締まりの強化や、未払い残業・長時間労働を許さない世論の高まりで、未払い残業は全体として減少傾向にあると考えられます。

しかし、法的に見ていくと、まだまだ様々なところに未払い残業の温床が残っています。本稿では、そのような「温床」のうち、主なものを10個ピックアップしてみました。自分の職場で当てはまるものがいくつあるか、この機会にセルフチェックをしてみてください。

1.始業時刻前・終業時刻後に掃除当番がある

掃除当番の制度がある会社は少なくないと思います。

会社の指示によって行う掃除は法的には「業務」となります。掃除が業務時間内に行われるのならば問題ないのですが、始業時刻前や終業時刻後に掃除が行われる場合は、残業代が支給されていなければ違法となります。

ただし、誰に言われるでもなく自主的に一部の人が掃除を行っているというような場合までは、業務扱いとはなりません。

2.始業時刻前に朝礼を行う

掃除と同様、朝礼も業務です。朝礼は原則として始業時刻後に行わなければなりません。もし、本来の始業時刻前に朝礼が行われる場合は、朝礼の時間分の残業代が支払われなければなりません。

たとえば「うちの会社は9時始業だけど、朝礼があるから8時45分までには出社してください」と、当然のように言われてしまう会社もあるようですが、この場合は15分の残業代が払われていなければ違法です。

3.昼休みに電話当番がある

昼休みは、法的にいえば「休憩時間」であり、会社は休憩時間には社員を完全に労働から解放しなければなりません。電話当番は電話が鳴ったら対応する義務がありますので、休憩をとっているということにはなりません。

会社側は、交代制で休憩を取得させるとか、昼休みは電話が鳴らないようにするとか、何らかの工夫をして、社員が休憩時間を確保できるようにしなければならない義務がありますので、休憩時間をきちんととれていない会社は、違法ということになります。

なお、休憩を取得できないこと自体がそもそも違法なのですが、やむを得ず昼休みをつぶして仕事をしてしまった場合は、会社には残業代を請求することができます。

4.終業時刻後に呼び止められることがある

終業時間になり、帰り支度をしているとき、上司から声をかけられることがあると思います。雑談の類であるならば別ですが、帰る前に、「あの仕事の進捗がどうなっているか教えてくれ」などと言われ、帰りがけていたのに、再び仕事モードになってしまう状況を経験したことがある人は少なくないでしょう。

この場合、残業代がきちんと支払われれば良いのですが、15分とか30分とか上司と話をして、「帰りがけに呼び止めてすまなかったね」くらいは言われるかもしれませんが、残業代がつかないまま、うやむやになってしまうというのはよくあるパターンです。

こういった「呼び止め残業」に対する残業代もしっかりと支払われなければなりません。

5.「早出残業」は残業代がつかない

終業時刻後の残業代はしっかり計算されている会社でも、始業時刻前のいわゆる「早出残業」が考慮されていない場合があります。

遅刻しないために自主的に早めに来ている場合は別ですが、会社から指示を受けて仕事をするために本来の始業時刻よりも早く出社した場合は、早出残業として残業代が支払われなければなりません。

また、自主的に出社をしていた場合でも、始業時刻まではリラックスをして過ごそうとしていたところ、始業時刻前に上司から業務命令を受け、仕事を開始しなければならなくなったようなケースでは、業務命令を受けた時刻以降が早出残業となります。

6.始業時刻前に「集合」させられる

建設業で建設現場に行く場合や、イベント関係の会社でイベント会場が仕事場になるという場合など、業種によっては、いったん会社に集合して、皆で仕事場所に向かうということがあると思います。

このようなとき、始業時刻前に会社に集合を命じられることもあるでしょう。そうなると、会社に集合を命じられた時刻が業務開始時刻となります。そして、これも早出残業の一種で、やはり残業代の支払い対象となります。

なお、「現地集合でも構わないが、会社の送迎バスを使いたい人は〇時までに会社に来てください」というように、集合が任意的な場合は、原則として早出残業にはなりません。

7.残業時間前に「名ばかり休憩」がある

残業に入る前に、10分とか15分の休憩時間を設けている会社があります。

残業を始める前に休憩をして心身を休めた上で仕事を再開するというのは、考え方自体は決して悪いことではありません。

しかし、実態としては休憩を取らずに定時から連続して仕事を行い、休憩(とされている)時間分だけ残業代が引かれてしまっているという会社もしばしば見受けられるようです。

就業規則上では残業時間前に休憩が設けられていたとしても、実際には休憩をとれていないのであれば、実態を正として、休憩時間相当分の残業代の支払対象としなければなりません。

8.15分単位や30分単位でしか残業がつかない

これも実務上はよく見られるパターンですが、残業代は法的には1分単位で支払われなければなりません。

この点、会社として15分単位で残業を承認し、実態としても15分単位で残業が管理され、申請された時間になったら上司がきちんと残業を打ち切らせて帰宅させているということであれば、問題はないです。

しかし、実態としては残業時間が15分単位や30分単位で管理されておらず、残業が終わる時間は人それぞれなのに、15分とか30分で残業時間を丸めて「切り捨てる」のは違法です。

なお、15分単位や30分単位で「切り上げる」のであれば、労働者有利の処理ですので合法です。

9.正しい残業時間を申請すると上司から却下される場合がある

社員としては正しい残業時間を申請しようとしても、「うちの会社は1か月20時間までしか残業代は出ないよ」とか「全部残業を申請すると予算を超えてしまうから半分の時間にしてくれないか」など、上司から言われてしまうような会社も、残念ながらまだあるようです。

それで社員が「分かりました」と言ってしまうので、会社は社員の好意に甘え、その積み重ねが日本の悪しき労働慣習を作ってしまったという一面はあるでしょう。

しかし、改めて言うまでもなく、すべての残業時間に対し、残業代は正しく支払われなければなりません。

10.研修や勉強会などに残業代がつかない

研修や勉強会などは、真に任意参加のものであれば、残業代の支払い対象にはなりません。

しかし、業務命令により強制参加(表面的には任意参加でも実態としては強制参加の場合を含む)となっている研修や勉強会の場合は、残業代の支払い対象になります。

経営者の中には「会社のお金で勉強させてもらっているのに、そのうえ残業代がほしいとはけしからん」という考え方をする人もいるようですが、その勉強の成果は会社の業務のために使われるのですから、最終的に恩恵を受けるのは会社なので、法的にはもちろんのこと、道義的に考えても、社員の研修や勉強会の時間に対しては残業代は支払われるべきです。

まとめ

今回は、本来は支払われるべき残業代が未払いになりがちなパターンを10個紹介しました。セルフチェックしてみて、いくつ当てはまったでしょうか。

会社に対して直ちに改善を求めることは難しいかもしれませんが、法的に何が正しいことなのかを知っておくことで視野が広がりますし、10個のうち7つも8つもNGがあった場合は、転職という選択肢を考えてみるのも一案かもしれません。

 

プロフィール

榊 裕葵(ポライト社会保険労務士法人代表)

大学卒業後、製造業の会社の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。その後、社会保険労務士として独立し、個人事務所を経てポライト社会保険労務士法人に改組。マネージングパートナーに就任。勤務時代の経験も生かしながら、経営全般の分かる社労士として、顧問先の支援や執筆活動に従事している。また、近年は人事労務freee、SmartHR、KING OF TIMEなどHRテクノロジーの普及にも努めている。

主な寄稿先:東洋経済オンライン、シェアーズ・カフェオンライン、創業手帳Web、打刻ファースト、起業サプリジャーナルなど

著書:「日本一わかりやすいHRテクノロジー活用の教科書」

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