障害者向けサテライトオフィスサービスの特徴
障害者向けサテライトオフィスサービスが注目を集めています。テレワークを活用した障害者雇用創出の斬新な取り組みが、日本テレワーク協会が主催する第18回テレワーク推進賞で「優秀賞」を受賞しました。
障害者向けサテライトオフィスサービスとは
障害者向けサテライトオフィスサービスとは、株式会社スタートラインが提供する、障害者の方に1か所のサテライトオフィスに集まってもらい、そのオフィスを起点として、様々な企業とテレワークで雇用契約を結んで就労するというサービスです。
サテライトオフィスの3つの強み
この障害者向けサテライトオフィスのビジネスモデルを分析すると、3つの強みがあると考えられます。
第1は、障害者の方の通勤の悩みが解消されるということです。
障害者の方が就労をするにあたって、制約となることの1つに通勤があります。スタートライン社のサテライトオフィスは、八王子、相模原、川越、横浜など、都心からやや離れてはいるものの交通の便の良い場所を中心に存在しています。
通勤が不便な場所はもちろんですが、逆に都心の山手線のような激しい通勤ラッシュの中を障害者の方が通勤することは困難です。スタートライン社のサテライトオフィスに通勤することで、まずは「通勤」という最初のハードルをクリアして就労が可能となる障害者の方は少なくないでしょう。
第2は、サテライトオフィスにバリアフリー環境が用意されているということです。
企業が障害者の方を雇用するため、自社のオフィスにバリアフリー環境を用意することは、必ずしも容易ではありません。コスト的な理由もありますし、契約上の理由や構造的な理由で内装工事が難しいオフィス物件もあります。
そこで、既にバリアフリー環境が整っているスタートライン社のサテライトオフィスを勤務地としてテレワークを行ってもらうことで、バリアフリー等の工事をすることなく障害者の方を自社の社員として迎え入れることが可能となります。
第3は、障害者の方をケアする専門スタッフが常駐しているということです。
障害者の方は様々な個性を持っています。その個性を理解し、上手に受け止めることができなければ、信頼関係が壊れてしまうこともあります。障害者雇用に精通した方が身近にいるということは、とてつもなく大きなメリットです。
また、サテライトオフィスには様々な会社のテレワークで働く障害者の方が集まりますので、障害者の方同士の交流も生まれます。職場の中で孤立してしまうというような恐れもサテライトオフィスならば解消されます。
法的問題もクリアされている
なお、労働者派遣法や労働基準法など法的問題もクリアされたビジネスモデルとなっています。
スタートライン社の社員がサテライトオフィスに勤務する障害者の方に指揮命令を行ったら、障害者の方とテレワークで雇用した企業の間の雇用契約に第三者が介在するとして、労働者派遣法や労働基準法に違反してしまいます。
この点、スタートライン社のサテライトオフィスは、企業ごとに個別ブースが設けられ、そのブース内で、それぞれの企業と障害者の方が1対1でテレワークを行っています。障害者の方をケアする専門スタッフの方は、あくまでも業務の内容には関与せず、障害者の方の心身のサポートをするという位置づけです。
また、企業ごとに個別のブースが用意されているということは、情報漏えいやプライバシーのリスクにも配慮がされているということになりますから、企業側も安心してサテライトオフィスで業務を行ってもらえるというメリットもあります。
結び
スタートライン社のホームページを見ますと、このサービスは、紳士服大手のAOKI様、法律事務所大手の西村あさひ法律事務所様、ダイエットで有名なRIZAP様など、名だたる企業が既に利用しているようです。
今後は、大企業だけでなく、むしろ、自社内の努力だけでは現実的に障害者の方を雇用することが難しいことが多い中小企業にもこのようなサテライトオフィスサービスが普及し、障害者の方が働くチャンスが増えていけば、とても素晴らしいことだと思います。
プロフィール
榊 裕葵(ポライト社会保険労務士法人代表)
大学卒業後、製造業の会社の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。その後、社会保険労務士として独立し、あおいヒューマンリソースコンサルティング代表に就任。勤務時代の経験も生かしながら、経営全般の分かる社労士として、顧問先の支援や執筆活動に従事している。
主な寄稿先:東洋経済、DODA、シェアーズ・カフェオンライン、創業手帳Webなど