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2024/11/10:フリーペーパーvol.104発刊!

もしも、商品陳列が訪日外国人に分かりやすいものだったら

「カゴシマ ブランデッド ビアー ユー ウォント?」小売店は商機を活かせなかったのか?

鹿児島中央駅の桜島口(東口)を出て真正面にそびえ立つキャンセビルの、地下1階から地上5階までにテナントとして入る大規模小売店の地下1階「食品館」での出来事。

その日、私は駅前の歯医者に向かう前に炭酸水を買っておこうと食品館に入りました。

ペットボトル飲料コーナーまでの通路を歩いていると、正面から歩いてくる見知らぬ人に、いきなり声をかけられたのです。

人生初、本物のインバウンドとの出会い

「スピリッツ、カゴシマオリジナル、スピリッツ」

そのような出だしで話しかけられたと記憶しています。
たどたどしい英語で話し始めた2人のアジア人の年配の男女は、その話し言葉から鹿児島に何らかの用で訪れた訪日外国人なのだと分かりました。

私とのやり取りリアル再生

「アー(なるほど)」とだけ返事した私。

彼らの質問内容はすぐに理解できました。
鹿児島で生産されたお酒が欲しいとのこと。

スピリッツだから、蒸留酒、もしかしたら焼酎が欲しいのかもしれない、ということまでは分かりました。

インバウンドからの英語による質問はさらに続きます。

「鹿児島で生産されたお酒が欲しいのですが、店内のどこに置いているのか分からないのです。どこかにあるのでしょうか? お分かりになりませんか(訳)?」

「んー……」

私はすぐとなりの缶ビールを積んだ棚を見渡しましたが、すべて国内大手ブランドのもの。

鹿児島地元の生産品ではありません。

「カゴシマ ブランデッド ビアー ユー ウォント?」

戸惑いながら私が尋ねると、2人は安心したように早口を普通のペースに戻し、ゆっくりとカタコトの英語で話し出しました。

客の生の声をどの程度聞いているの?

彼らが欲しかったお酒の種類が何だったのかまでは、正直なところはっきり覚えていません。

スピリッツは蒸留酒で、焼酎は蒸留酒なのですが、酒税法により度数の低い焼酎はスピリッツには含まれません。

とはいえ彼らはアジアからのインバウンドでしょうから、日本の酒税法による酒類の呼称区分について詳しいわけではないはず。

つまり、鹿児島で地元のお酒ということなら、やはり焼酎が欲しかったのかもしれません。

私は、2人と別れた後も「もったいない商売をしてるな……」と思いました。そして、

「焼酎ってビンやラベルを見ても、鹿児島産の商品って分かりにくいものなのかな?」とも思ったのです。

売れたのは缶ビール1本か、焼酎数万本か?

現場で「ここに鹿児島オリジナルのお酒が売ってますよ」と案内できなかったことが、店の関係者でもないのに、いつまでも心残りでした。

私は独自に、酒類コーナーをうろうろ探してみました。

飲まない人には分からない

私はもともとお酒をほとんど飲めない、飲まない人間で、飲んでもビールなら350ml缶1本で30分以内に眠ってしまいます。

悪酔いしたり気分が悪くなることはありませんが、お酒を美味しいとは思わないし、好んで飲みたいと思ったことはありません。

なので、普段からビールや焼酎を買うこともなく、どの店に入ってもお酒のコーナーに行くことはまずありません。店内でお酒がどこに売っているか尋ねられても急に案内できなかったのは、その辺にも理由があります。

ありました…

店内にはワインなどの洋酒をワインセラーのように横置きで陳列している棚もありましたが、そこには地ビールや地元蔵元の焼酎はありませんでした。

そこで片っ端から店内を探したら、店のずっと奥の方の棚の端に、地元ブランドを強調するラベルのビールが置かれていました。オリジナルのお酒は、売られていました

大規模小売店地下食品館でさまよう外国人観光客

日本を訪れる外国人観光客はその数を増し、JNTO(日本政府観光局)の統計(統計ページへのリンク)によると、2017年の年間観光客数28,691,073人となっています。

小さな商売から大きな商機が生まれる

現在、日本は観光とビジネスの両面から海外からの注目を集めています。

外国人観光客の来訪を機にビジネスチャンスが広がったり、ビジネスで訪れた土地をリピーターとして観光地に選ぶなど、インバウンドを集客するチャンスはどこに潜んでいるか分かりません。

私がたまたま出会った方たちが買うのは、もともとたった1本のビールだけだったのかもしれません。

さらに、彼らが日本や鹿児島をどのように評価するのか、日本と鹿児島のビジネスをどのように評価するのかということまでは、私には分からないことです。

しかし、たった一人のお客さまを大切にすることが大きなビジネスにつながることについては、特別に商業に関わる人でなくても、世界中どの一般社会人に聞いても同じ意見がいただけるのではないでしょうか。

工夫は小さなもので構わない

たった1本の地ビールや焼酎が、地元に持ち帰られて人気が広まり、何万本もの売上につながる可能性もあるはずです。

もし、彼らが母国で大規模な商売に関わる人たちで、私に質問した時点で数万本の購入を検討していたとしていたら、本当にもったいないチャンスを逃したことになります。

店員や案内係でなく、わざわざ質問した相手が客である私という点も気になりました。

店はインフォメーションコーナーを設けているし、専門の店員さんもいたはずです。コールセンターに電話できるシステムも設けているはずですし、その程度の体制すら整えていないとしたら、そちらのほうがさらに心配です。

鹿児島の小売店は、たいていの店で地元のお酒を販売しています。ちょっと探せばあるはずなのです。

それだけに、これだけ多くのインバウンドが買い物に訪れるようになった現在においてすら、棚を見てすぐ選べるような陳列も出来ておらず、英語や中国語などで商品を紹介する外国語の案内すら用意していないことを知り、驚きました。

商品を探すための質問相手に私のような来店客を選ぶこと自体が、多国籍を相手にビジネスをしている店舗側の努力不足を表しています。

外国人観光客に対して、店舗が事前にどのような販売サービスをプランニングしていたのか、いつまでも疑問です。

これから増加するインバウンドに必要な対策

事前に何度も会議を開き話し合った、徹底的に練り上げられたプロモーションはもちろん大切です。

しかし、チャンスは不意に訪れるものです。

もしも、商品陳列が訪日外国人にも分かりやすいものだったら、今ごろ大口の取引が成立していたのかもしれません。

日本のビジネス界が、もしそういった偶然の出会いを何度も逃しているのだとしたら、あまりにももったいないです。

もちろんそれは、裏を返せば、インバウンドを対象にした商機がまだ残っているとも捉えられることでもあります。

今からでも遅くないので、簡単な案内板の設置や店員による最低限の英語対応を実践してみることが、効果的な販売戦略として、これから必要とされるのではないでしょうか。

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