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2024/12/10:フリーペーパーvol.105発刊!

株式会社ラグーナ出版社長・川畑善博さんの精神障害者就労への試み

「人として接してください」ラグーナ出版・川畑善博さんと精神障害者との歩み

株式会社ラグーナ出版を、ご存知ですか?

九州新幹線最南端の終着駅、鹿児島中央駅から歩いて10分、甲突川沿いに建つオフィスビル、イースト朝日ビルの4階に、株式会社ラグーナ出版はあります。

 

ラグーナ出版の紹介

就労継続支援A型事業所として、主に精神に障害を持つ方々とともに、出版・印刷物製作・製本事業などを進めています。

法政大学大学院教授、坂本光司氏による著書『日本で一番大切にしたい会社3』にも選ばれ、現在少しずつその知名度を高めつつある会社です。

ラグーナ出版は今年2018年、会社としての創設10周年を迎えました。
前進のNPO法人として2006年に活動を開始した当時から数えると、12年が経ちます。

ラグーナ出版としてのスタートは、2006年当時、川畑善博さんが精神保健福祉士として勤務していた精神科病院の、患者、医師、看護師の方々と共同で刊行した文芸誌『シナプスの笑い』から、始まります。

「思いが詰まってるでしょ?」川畑さんは誇らしげな笑顔で、出版という業態がとても良かったと話されました。

ラグーナ出版への取材敢行

今回、ラグーナ出版社長の川畑善博かわばたよしひろ)さん、同社福祉事業部部長の河野豊かわのゆたか)さんのお2人にご協力いただき、ラグーナ出版株式会社の創設から現在にいたるまでの、精神障害者就労に関わる企業の現状国の政策について、お話を聞かせていただきました。

障害者を尊重して仕事を任せる

この仕事をしていく上で難しい部分はどこですか?

Q:名人「この仕事をしていく上で、難しい部分はどこですか?」

A:川畑「当初はね、私一人で全部仕事していたの。でもどうやら、間違っていたんでしょうね。間違ってて、居場所の問題じゃないけど業務を小さく分けて、出来るところは任せていくと、そこから経営はすごく回転するようになりました。

そしてスタッフもね、すごく生き生きとするようになっちゃって。うちは一般の仕事は福祉の人がほぼいないんで、(みなさん)一般から来てる人なの。(福祉関係者も)一人だけいるんだけど、自立訓練は別だけど、こっちの就労の方もみんな一般からきた人だから。

まあね、簡単に言うと、福祉の論理というか、患者さんの世話係をするような感じになるじゃない? それはもう嫌気が差したんですよね。

なんだけど、仕事を教えるとなったらみんな生き生きなって、『勉強会していいですか?』『ここ彼に任せていいですか?』とか、だから、患者さんも患者さんから部下や同僚みたいな感じになってきて、役割が変わってきたなと、そこからがすごく良いです。だから4年目のあたりまではね、ちょっと考えが間違ってました」

マイノリティーとされる障害者の中でも、さらにマイノリティーといえる精神障害者を雇用し経営していく上で、会社創設当初の苦労も交えながら、会社がおおよそ現在のような経営体制にいたるまでの経緯を、川畑さんは詳細にお話しくださりました。

さらに、質問を投げかけます。

精神障害者を雇用するうえで大事な心がまえはどんなことですか?

Q:名人「精神障害者を雇用するうえで、大事な心がまえはどのようなことですか?」

A:川畑「いやもう、人として接するということだと思うんですが。人として接するというのは、さっきの話じゃないけど過保護にしたりね、あと、福祉事業所で福祉の人でびっくりする人がいますけど、仕事に来てて、この人はしませんと言ったから、意思を尊重してさせませんでしたみたいなことをね、福祉専門職でさえ言いますから、ちょっとびっくりするんですけど。

人として接することというのは、出来る仕事を任せるということであることと、あとやっぱり精神障害ということであるならば、その人が生きてきた過去、過去を知ればどうして病気になったかその背景を探るとものすごい苦労してるんですよ。あ、皆さん方もそうだと思いますけど。まずそこに関心を示すというのがとっても大事だなと、思ってます。

それとあと、もう一つ、置かれている状況をですね、あの、現在。だから、3つですね。人として置かれている状況、あとその人の過去を知ること、もう一つはその人の強みを知ること。この3つが人として接するということで。で、まあ、精神障害者に限らずですよ、一般の人も一緒なんです。

あともう一つはそうですね、この病気になるとどうしても自分は社会の役に立たないんだと、みんなに迷惑を掛けてるということで、心理学の用語で言うと「自己効力感」という言葉が、役に立っている感覚、これがすごく落ちてると思います。ですので、そこの方を高める努力ですよね。

強みを見つけて、そこを任せていくということですよね。そのためにはいちばん大切なのは信頼関係ですよ。信頼してる人の言葉はみんな聞くけど、おんなじこと言ってもAさんの話は聞くけどBさんの話は聞けないと、それは人間なんですよ。だから人として接することが大事だよと…。

よくそれ聞かれるんですよ、今後、障害者雇用やりたいという方が来て、『障害者雇用で気をつけること何ですか?』とか、やあ、『人として接することですよ』と言うと、ポカーンとされるんですよ。何か特徴を捉えてすりゃあいいと思ってんだけど。信頼関係、人として接する。うちのスタッフもそうですけど、やっぱり、過去を知ると人として尊重しますよね。ああ、いろんな苦労してきたんだなと」

川畑さんの転機

人として接する

過去と現状に関心を示す

強みを知る

それが、ラグーナ出版としての転機だったと、川畑さんは話します。

会社創設当初の経営状況

会社創設当時、自分が職場を与えることで、居場所を得て喜んでもらえると川畑社長は次から次へと仕事を受注し、自分一人で必死になってこなしていたとのことでした。

そのような状態で仕事をしても、社長自身が精神疾患になってしまうということも、メンタルヘルスの知識が浸透してきた今日では、一般のビジネスマンでさえ知るところではないでしょうか。

川畑社長もその例にもれず、過労から忘れ物紛失物が増えたり、身体にじん麻疹が出たり、無理がたたった結果が身体に表れてきたといいます。

そんなある日、川畑さんは自身の無理の連続から、障害を持つある一人の社員に、なかば丸投げのように仕事を一件任せたということです。

限界に達した社長を救った一人の社員

すると、その社員は仕事に必要な本を1冊購入し、会社の空き時間や自宅のプラベートの時間まで使って本で勉強し、自宅にパソコンが無いということで出社して会社のパソコンを借りて勉強を重ね、最終的にほぼ独学で仕事に必要なスキルを習得して社長の代わりにその業務をこなしてしまったと、川畑さんは話しました。

川畑:「『ありがとう、ごめんね僕の仕事なのに、任せすぎたね』と感謝の気持ちを伝えたらね、彼女こう言ったんです。

『仕事を任せていただいて、はじめてここが自分の居場所だと感じることができました』

僕はね、ガツーンと、衝撃を受けたんですよ。自分の間違いに気付いたんです。自分は、場所は作ったけれど、居場所を作ることは出来なかったんだ、ってね。居場所というのは、社員が会社の役に立っている、いう意識を持ったときに初めて生まれるものです。そこから、業務を細かく分解して、任せるようになりました。それから、上手くいくようになりましたね。回っていくようになりました」

「人として接する」ということ

現在、精神障害者が中心となって働く、日本国内におけるリーディングカンパニーとも言える「株式会社ラグーナ出版」も、創業当初から順調だった訳ではなかったということです。ところで、川畑社長の言葉のなかに、皮肉に富んだ警鐘とも言えるものがありました。

「私も、会社始めてからすぐ順調に進んできたわけではありませんが、でも、一般の会社どこでも、始めて1年目から黒字を出して順調な会社なんてあるのだろうか、と思いますよね」

もっともだと思います。通常の会社を新たに立ち上げても、初年度から黒字を出せるなんてそれほど多いわけではないことも、ビジネスに携わる方なら誰でも分かっていただけることと思います。しかも、多くの人が手を付けようともしない障害者を対象とした就労支援事業にさえ、国は厳しい経営水準を求めてきます。もちろん、それは障害者の職場環境を守ろうとする必要な基準です。しかし、障害者就労の現場では、なかなか妥当に運用、適用されているとはいい難い状況だと、川畑さんはお話されました。

次回、本記事の続編では、障害者就労を経済の視点から考え、罰金制度を初めとする当局による障害者就労の現場に課されるさまざまな制約について、川畑社長のご意見とともに掘り下げていくつもりです。

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