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2024/12/10:フリーペーパーvol.105発刊!

家庭料理が、やがて特殊技能となる日

今でもはっきりと記憶に残っています。

朝、昼、晩と、母は食事の準備に手を抜かない人でした。

私がまだ小学校低学年くらいのころ、根菜類や芋類、葉物野菜、海藻、豆腐に長ネギなど、栄養価の高い具がゴロゴロ入った味噌汁が必ず出されていたものです。

味噌汁というより、具がメインの煮込み料理のようでした。

それに加え、目玉焼き、メザシ、アジ、サバなどの干物を焼いたもの、さらに前の晩のおかずの残りなどまで、朝食のテーブルに乗ってくることもありました。

子ども時代から、ごくまれに帰省するだけの現在にいたるまで、私は家庭で食事に苦労した記憶がありません。他の家庭の食事事情がどういうものなのか知らないので、母の出す食事がどの程度特別なのか、普通なのかも分かりません。

しかし当時の家庭状況を思い返すと、三食きちんと、あれだけ内容的に優れたものを準備するのは、母にとってとても大変なことだったろうと思います。

料理とは節約の象徴

当時の自分の境遇を人に話すのは、あまり好きではありません。でも書かないと分からない部分もあるので少しだけ説明すると、家は経済的に貧しかったと思います。

それは収入が少なかったというより、父親がギャンブルで使い込む人だったからです。

母は少ない家計で食事を準備するのですが、お金が無いぶん、安易に惣菜などで品数を増やすようなショートカットは出来ませんでした。

そんななか、最も効率よく節約する方法は、食材をなるべくそのままの状態で買い、手間を掛けて料理し、経費を抑えるというものでした。

料理に必要な知識はすべて見て学んだ

私が小学校3年生くらいになると、母も働きに出て、私も少し家事を担当することになりました。
土曜日の自分の昼食くらいは、そのころから自分で作っていました。

母から直接料理を教わったことはほとんどありませんが、私は母の料理する様子を、となりに立ってじっと観察していました。

「葉物野菜はあんな風に切るんだ」
「タケノコはこんなに下準備に手間がかかるのか」
「包丁で指を切らないためにあんなに指先を曲げなきゃいけないのか」

など、当時の台所の様子を、今でもカラー映像で覚えています。

珍しくなくなった、惣菜をならべる食事

スーパーに行けば中食用のテーブルと椅子が用意され、デリカテッセン的な惣菜がたくさん用意されています。しかも安いので、単身者といわず多忙な共働き世帯にとっても、惣菜は頻繁に活用されています。

食事の用意を惣菜や宅配サービスに任せ、仕事やその他の用事に時間を割り振る家庭が増えています。それは、効率性を追求したライフスタイルの変化に伴うものであり、時代に適応する相応しい傾向といえるでしょう。家庭で食事を準備する頻度が下がってきたぶん、料理というものが特殊技能の必要とされる専門職へと、近ごろその評価を上昇させています。

学生時代、私は自分の食事は自分で準備していました。それはもう20年以上前のことになりますが、まだ中食という文化の無かった当時でさえ、自分で自分の食事を準備することを友人に話すと、「すごいねえ、えらいなあ」などと評されたものです。私自身は「(あたりまえだろ…)」と思っていましたが。

父が死んでからは、母は飲食店の厨房を任されるなど、主に料理の技能を活用して自分の生計を立てていました。

母は料理に特化した学校に通ったこともなければ、人に教わることもほとんど無かったはずです。
たまに買う料理本ですら、ブックオフの100円コーナーから薄いものを見つけてくる程度のものでした。

昨今、料理の出来ることがことさら褒めそやされる風潮を感じますが、自分で食べる料理くらい自分で作れてあたりまえだと、今でも私は思っています。今ではその程度のものさえ感心されるので、褒められるのが申し訳なくなるし、「(自分が食べるものを自分で作るなんて当たり前じゃないか)」と、相変わらず心のなかでつぶやいています。

現在の日本では、主婦や主夫が家庭で家族に出しても報酬の発生しない食事の準備ですが、コスト換算した場合、料理は家事のなかでも報酬的に上位に入るものだと思います。

そんな私が料理するにあたって、いまだに自分にできないと思うことは、高級食材をふんだんに使った仰々しい名前の付いた華やかな一品を仕上げることではなく、冷蔵庫に偶然残っていた余り物で、レシピなどどこにも無いなか、自分のアイデアだけを頼りに見た目は地味だけど栄養満点な料理を完成させることです。

そしてそれが、自分が子どものころ母に出されていた食事なのだと、当時の事情を思い返すたびに、思い知らされるのです。

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