今、私が特に愛聴しているジャズギタリストがいる
現代のジャズギター界は、これまでの歴史よりさらに澄んだメロディーと、煌びやかなタッチ感を高めた演奏者の方々が台頭しています。
古くから様々な名作が現れ続けるジャズギターの分野ですが、近年のジャズギター界が優れているのは、静かで美しい空気を閉じ込めることに集中した音楽作品がコンスタントに出続けていることと思います。
古いジャズギターのアルバムは、よりざらついた質感で生音をそのままに閉じ込めるような音のアルバムが多いです。しかし近年はより残響や壮大さを大事にした作品がかなり増え、キラキラとした音でありながら静かな気持ちで聴くことができる、独特なアルバムが多数です。
気になる現代ジャズギタリストはそういう意味でたくさんいますが、今私が特に愛聴しているのは「Jakob Bro(ヤコブ・ブロ)」氏という方の作品群です。
ヤコブ・ブロ氏の経歴や評価をざっと見してみたい!
彼は1978年、デンマーク生まれのギタリスト/コンポーザーです。コペンハーゲンに在住し、ポール・モチアンやトマシュ・スタンコといったジャズ界の実力者たちとの共演で世界的な注目を獲得してきました。
アメリカの名高いジャズ雑誌「ダウンビート」において「魔法のような音楽を創り出す、カテゴライズ不能のギタリスト」と評されるなど、技術はもちろん、その音の響かせ方における独自性が印象深いギタリストです。
私がヤコブ氏を知ったアルバム「December Song」
だいぶ前の時期に、たまたまサブスクリプション・サービス内で流れてきたのがJakob氏の「December Song」というアルバムでした。音の少ない、心地いい音楽を重点的に探していた時期なので、関連した情報が並ぶ中から見つけることができたのでしょう。
2013年作で、そう古いアルバムでもないはずのこのアルバム。しかしながらその落ち着き切った音色たちが、まるで何十年も前のジャズ名盤たちのように、スッと心を包み込みます。
ギタリストはヤコブ氏のみでなく、ビル・フリゼール氏も全体に参加。この方も伸びやかなギター演奏を極めた孤高のギタリストです。二つのギターが織りなす緩やかな雰囲気は、ストイックでありながら自然なヒーリング効果さえ感じさせてくれます。全8曲の曲調も一風変わったもので勝負する感じではなく、潔いからこそ豊かな統一感を感じます。
彼の発言からもその音楽を読み解きたい
私が以前に読んだ彼の取材記事で、印象的な発言があります。それは、「僕が最も大事にしているのはアトモスフィア」というものです。
アトモスフィア、というのは英語で「空気」という意味。彼は例えば部屋、あるいは屋外で演奏している中で、その場に流れる空気を敏感に感じ取る力が強いのでしょう。そう思わせてくれるのが、彼のギター演奏における余白の充実度です。
ずっと絶え間なく弾き続けて身体を刺激してくるのではなく、彼はシンプルに一音一音をじっくりと聴かせてくれます。その音を聴いている間は、確かに私の部屋や環境を取り巻く空気も、実にピュアな澄み渡り方をしているように思います。
ヤコブ氏の今後も俄然気になるところ
ヤコブ氏は「December Song」以降も、ハイペースではなく、しかし確かにじっくりと聴かせるアルバム群を出し続けています。
ただひたすら、心の苛立ちを緩和してくれる素敵なものとして、ヤコブ氏の音楽を聴き続けるのが個人的な日々の習慣です。今後も俄然気になりますし、ヤコブ氏の音は慌ただしさとは無縁でありたい気持ちの時、一番に取り入れたくなる音なのです。