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2024/10/10:フリーペーパーvol.103発刊!

恋愛のときめきを長続きさせる方法

恋愛の賞味期限3年を伸ばす方法

名前を知らない恋人

名前も知らない女の子と付き合ったことがある。

正確にはひらがなの名前(ファーストネーム)は知っていたが漢字と名字を知らなかった。仮に「ちふゆ」さんとしよう。これにはもちろん理由がある。

ドイツ語の社会人サークルで初めて出会ったとき、2人ともとある日本人作家のエッセイのなかの1つの話が格別に好きだと知ったのがきっかけだった。その話を簡単にまとめると、恋愛のときめきを長引かせるために普通は最初に共有する個人情報ーー名前や生年月日、血液型などーーをあえて小出しにする、という内容だった。

そのエッセイの話で盛り上がった後、なんとなく2人ともそれぞれの個人情報を小出しにしようとしていることに気がついた。同じエッセイを同じくらい好きでないとこの遊びはできないので、2人とも結構楽しみながら日々を過ごした。

だから付き合ってひと月たった時点で、私は彼女のひらがなの名前とマンション、親の仕事以外はほとんど何も知らなかった。相手も似たようなものだったけれど、それはそれで楽しかった。

しかし、である。

私は致命的で初歩的な見落としをしていた。

情報を小出しにする恋愛を楽しむためには2人が末永く一緒にいる前提が必要だったのだ。

私達はかなり序盤であっけなく別れてしまった。つらい。

名前探し

ずっと付き合って徐々にお互いのことを知った後で2人で振り返るとこの遊びは楽しい思い出になるのかもしれないが、そうでないならただの怖い話でしかない。名前もろくに知らない女の子と付き合っていたなんて恐怖でしかない。人格を疑われてしまう。つらい。

辻村深月さんの小説『名前探しの放課後』を読んでいたらそのことを思い出した。

物語は、主人公の依田が自分が3カ月前にタイムスリップしていると唐突に気づくシーンから始まる。自分がなぜ過去に来たのか、思い当たることはひとつ。3ヶ月後の世界で、同級生が自殺する。しかしそれが誰か、いつかは思い出すことができない。

主人公は信頼できる数人の友人にわけを話し、自殺者を探してそれを止めようという話です。辻村作品の講談社ノベルスシリーズは物語が微妙にリンクしているので、出版年順に読むことを強く強くおすすめします。

ーーちふゆさんの名前は何だったのだろう。おそらく「千冬」さんだとは思うのだけれど、「稚冬」かもしれないし「茅冬」かもしれない。「千楓由」も捨てきれないし、「薙風唯」の可能性もゼロではない。

私は不毛な名前探しを2分だけ試したあと、色々な意味で怖すぎると思いすぐに辞めた。真相は今も藪の中だ。モテる男への道はまだ遠い。

このエッセイで紹介した本

『名前探しの放課後』辻村深月/著

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