夢を与える人でありたい
エッセイ
※まだ一般企業で働いていた頃の話。
クラシックな男女等の出会いに、合コンと呼ばれるものがある。
それはかつてはかなり頻繁に行われていたが、私は片手で数えられるほどしか参加したことがない。理由は単純で、人見知りだからだ。
ただ、声を大にして言うことではないが、人見知りだからといって女の子と仲良くしたくないわけではない。むしろ積極的にキャッキャウフフしたい。それである日気がついた。
人見知りだけの合コンを主催すれば良いのではないか。
以前から、男女問わず「合コンに興味はあるけど、人見知りだから参加しにくい」という考えの人たちが一定数いるのは知っていた。私は早速、人見知り合コン開催に向けて動くことにした。
だが、運がいいのか悪いのか、ちょうど合コンの幹事をしてみようと決心した直後に恋人ができてしまった。一瞬開催を迷ったけれど、すでに人見知りの知人に声をかけていたのでせっかくだしこのまま実行しようと思った。
恋人に女の子側の幹事をお願いし、同じく人見知りのメンバーを集めてもらう。私は自分のためではなく、純粋に人見知りのほかのメンバーのために合コンを開くことにした。
合コン当日
女の子側の強い希望で、当日はバーベキュー合コンをすることになった。一般的にはバーベキューは人見知りではない人たちが有利に思える。
しかし人見知りにとって、小洒落たお店で周りのお客の目を気にしながらこそこそ合コンするのは苦行なのだ。むしろ外界に触れず、準備や片づけなどなにかしらの作業があったほうが仲良くなるきっかけが生まれる。しかも全員人見知りなので連帯感も生まれやすい。
私はほかの男性メンバーからそれはそれは感謝された。「人見知りだけの合コンを開いてくれるなんて、しかもくまさん(私)と彼女さんは幹事に徹してくれるなんて最高だ」。そのようなことを異口同音に言われ、小説『夢を与える』でアイドルとして皆に夢を与えた主人公みたいな気分になった。
しかし、結論を言うと、バーベキュー合コンはもちろん失敗に終わった。
当日集まったメンバーは全員結構いい大人だった。私より年上もいるし、年下でもそれなりに社会経験を積んでいる。だから、合コンが始まったあとはそれぞれの社交性をある程度信じ、私は黒子役(お肉を焼いて提供したり飲み物を準備したり)に徹した。
それが裏目に出たのだ。女の子たちは楽しそうにしてくれていたが、男のメンバーはお肉を焼いている私のところに集まってきていっこうに自分から女の子に話しかけようとしないのだ。
ーー私は人見知り男性の人見知り具合を完全に見誤っていた。結局、最後まで男たちはお肉に群がり、あまり盛り上がったとはいえない合コンだった。
それでも女の子達はある程度楽しかったようで、第2回を是非にと頼まれ後日開催した。それも割と楽しかったらしく、なかにはいい感じになりそうな2人もいたようで第3回も頼まれたのだけれど、私は男性側の人見知り具合に耐えられず、連絡を取りたいメンバーがいたら各自で会ってもらうことにした。自分でも忘れていたが、私も結構な人見知りだったのだ。
人見知り合コンを開催して周りから称賛された私の栄光は、自身の人見知りが原因ですぐに終焉を迎えたのだった。
本の紹介
小説『夢を与える』綿矢りさ/著
思いがけなく、自分で望んだわけでもなく、美しく産まれてしまった少女が芸能界に翻弄され変化していく話。
「変化」という言葉をあえて使いましたが、本人以外の視点に立つとそれは紛れもなく堕落で、つまり客観的には少女は崩壊し堕ちてしまいました。だからこの話は一人の少女の栄光と終焉の物語です。
でも客観的に見た少女像と、本人から見える世界は別です。そのあたりも丁寧に描かれている気がします。苦しい内容も含まれているので、元気がいいときに読むのをおすすめします。
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