夢のような空間の本屋さん
かつて、京都には夢のような本屋さんがあった。
その名は三月書房。宍戸健一さんが営む三月書房は吉本隆明さんや上野千鶴子さんなど、目が肥えた読書家たちに愛され、2020年、宍戸さんが亡くなられたことを契機に惜しまれつつも閉店した、伝説の本屋さんだ。
京都寺町通り沿いにあるその書店はまるで隠れ家のような場所にあった。三月書房に救われた私は今でも三月書房には感謝してもし尽せない。
17歳のときに出かけて褒められて
久しぶりに寺町通を歩いていて。三月書房さん閉まるやんと思い出し。本数冊購入 pic.twitter.com/ugd5E3Noq0
— 今西 善也 (@kagizen) April 16, 2020
17歳の時、私は解離性障害の診断を受け、高校にまともに行けなかった。進学校も転校し、転校した高校も学校側の不手際で退学させられた。絶望しかなかった17歳の時に祖母が行けなかった修学旅行の代わりに連れて行ってくれた京都旅行。その京都旅行で初めて来店したのが三月書房だった。
ちょうど雑誌ダヴィンチに『京都の本屋さん特集』という特集があり、その記事に三月書房の名前はあった。地図と地元の人の話を手掛かりに出かけた三月書房はまるで、夢の空間だった。
八百屋さんくらいのスペースに数多の本が並び、その本の品ぞろえも私が好きなジャンルばかりだったのだ。大型書店にしか売っていないような人文書、歌集、詩集、句集、画集、文豪の小説、ガロ系の漫画などまるで宝箱のように三月書房は取り揃えていた。
17歳の私は何十冊も買い、レジに持っていくと宍戸さんから『いい本を読んでいるね』と褒められた。『今どきなかなか京大生でも本を読まないんだよ。すごいいい本を読んでいる』と褒められ、自信をかなり失っていた17歳の私は自信になった。
三月書房で買った本は今で大事に持っている
京都・寺町二条の「三月書房」。先頃、惜しまれつつも「週休7日」に……のはずが、アレ? 営業中? 実はこれ、店主の宍戸さんと生物学者・福岡伸一さんが仕掛けた「だまし絵」シャッター。『芸新』で紹介ご希望と伝え聞き、現地へ。そこに「在る」のに「無い」景色は、愛おしくも、ほろ苦いのでした pic.twitter.com/d0I9mKYl79
— 芸術新潮 (@G_Shincho) September 15, 2020
夢のような書店の三月書房は冒頭で書いたように今は閉店している。
理由は本の目利きをする宍戸さんの代わりに本を目利きする後継者がいなかったからだという。宍戸さんの目利きは凄まじかった。知らない本はないのでは? と思うほど三月書房はアマゾンにさえない本を取り揃えていた。
三月書房で買った本はあれから10年経った今でも大事に持っている。三月書房で買った本のおかげでいくつかの文学賞やエッセイ賞を受賞することができたのは、宍戸さんの目の肥えた目利きのおかげだと思っている。
できれば、宍戸さんに感謝の言葉を伝えたかった。今はそれはできないが今でも天国にいる宍戸さんに地上から感謝を送りたい。
三月書房の後継・泥書房
現在、三月書房の跡地にはシャッターにレジでくつろぐ宍戸さんのイラストが描かれた騙し絵が描かれている。しかも、看板には『週休七日』とユーモラスに描かれている。そして、三月書房には後継となる本屋さんが誕生した。
その名は泥書房。歌集を主に販売する三月書房の遺志を受け継いだ本屋さんだ。泥書房では定期的に短歌のイベントを実行している。三月書房は歌集の取り揃えが日本一だったこともあり、生まれた本屋さんだという。いつか、機会があったら泥書房のほうにも行ってみたい。
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