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2024/6/10:フリーペーパーvol.99発刊!

今も増え続ける、ピアノ・ミュージックの名作たちを追う

序文ーあらゆる両極を輝かしく体現する「ピアノ」の素晴らしさ

ほぼ毎日の日課として、ピアノのサウンドが主体となったアルバムを相当聴きます。

耳を澄ますと、ピアノという楽器の音というのは相当に不思議なものです。鋼のような硬質さと、音と音が重なり合っていく時に立ち昇る、あの夢見心地な感覚。実体がないふわりとした世界も、はっきりとしたメロディーが光る世界も正確かつ美しく表現できる。天使と悪魔、希望と絶望、喜びと悲しみ、そのどちらも麗しく昇華し、いつしかその両極が混ぜ合わさる……私はピアノという楽器の音色を、そういう風に感じます。

とにかく、ピアノという楽器のサウンドが、数多くの楽器の中で今一番好きです。

今日は、私のおすすめなピアノアルバムをお伝えしたいと思います。

私と出会ったピアノアルバム

記憶を辿ると、私がピアノという楽器の魅力をきちんと意識したきっかけは、チェット・ベイカーの「Chet Baker Sings And Plays From The Film “Let’s Get Lost”」というアルバムでした。

ドキュメンタリー映画「Let’s Get Lost」のサウンドトラックとして発表されたこのアルバムで、私の好きなミュージシャンがこのアルバムを熱く推薦していたことから、地元のCDショップで購入したのを今も覚えています。

そのCDを聞いた瞬間、まるで流れてきた氷のようなピアノ・サウンドに私の心はスッと持って行かれてしまいました。この体験を境に、私はピアノの音色が持つ大いなる魅力に取り憑かれていくのです。

近年イチオシの傑作ピアノ・アルバムたちをご紹介

それから私は様々なピアノ・アルバムの傑作に出会いました。古い年代のものから近年の新たな作品まで、様々な作品を辿っていく中で、今この現在、私の感覚にフィットしているイチオシのピアノ・アルバムをいくつか取り上げてみようと思います。

スワヴェク・ヤスクウケ「Live at Jassmine」(2022年)

近頃私が聴いている中で、目下最高に夢中になっているのがこのスワヴェク・ヤスクウケ氏の作品です。スワヴェク氏は中欧のジャズ大国と名高いポーランドのピアニストで、ショパンのカバー・プロジェクトから映画音楽の分野に至るまで多岐に渡る活動を見せています。

サブスクリプションにアップされている作品数はなかなか多く、どの作品を聴いても、根深い物悲しさと一瞬の晴れやかさが鮮やかに交差するような、卓越したピアノ曲が詰まりに詰まっていてとにかく素敵です。

目下最新の作品のひとつであるこのライブ録音は、演奏技術の確かさは勿論、どの曲も各アルバムに収められている原曲よりだいぶ長めになっており、よりピアノの流れが雄大に、壮大に感じられるような時間感覚が備わっています。

ニルス・フラーム「Old Friends New Friends」(2021年)

ドイツのベルリンを拠点に音楽を生み出し続ける近代の名ピアニスト、ニルス・フラーム氏の近作も大変素晴らしいものが多いです。

ここで取り上げる「Old Friends New Friends」は23曲、このアーカイブを整理して生まれたこのアルバムは、古くは2009年から2021年の間に録音された楽曲によって構成されています。

こういったアルバムは、シャッフル再生のモードに設定して室内で延々と流す聴き方が個人的に好みです。

様々なピアノ曲が入れ替わり立ち替わり部屋の中を満たしていく状態が心地良く、主張し過ぎない温度感で隣に音楽があって欲しい時(そういう時があるのです)にこういったピアノ・アルバムが重宝するのです。特にこのアルバムはその音色の優しさから、睡眠時に聴いてもよく眠れます。

クリストフ・ベルグ & ヘニング・シュミート「bei」(2017年)

共にドイツの演奏家であるクリストフ・ベルグ氏とヘニング・シュミート氏による、バイオリンとピアノの共演作です。ここまでご紹介した作品と比較すると、暖かい木漏れ日や閑静な朝方の町の風景を思わせるような、ほのかに明るいムードが音を潤していて、心の調子が自ずと良くなるような一作に仕上がっています。

ジャケットに示されている花瓶に活けられた花のように、プレイするだけでその場の空気を素敵にする効能を私はこのアルバムに感じます。エンドレスで再生すると、本当に心もその場の空気も整っていく、こういったアルバムというのは意外と少ないもの。貴重な存在のひとつです。

マーク・コズレック「Mark Kozelek Sings Favorites」(2016年)

最後に少し趣向を変えて、ピアノを主体とした歌ものの作品をひとつご紹介します。

90年代から、レッド・ハウス・ペインターズ〜サン・キル・ムーンといったプロジェクトにおいて珠玉の名曲を生み出し続けるアメリカの素晴らしき才人、マーク・コズレックが様々な楽曲をカバーするこの一作。

まさにジャケット通りに、緩やかに流れる町の川のような淡々としながらも煌めくピアノで、「ムーン・リバー」や「オーヴァー・ザ・レインボー」といった歴史的名曲の数々が披露されていきます。

どの曲も夢見心地な感触と尽きせぬ哀愁が宿っていて、外せない聴き物ばかり。本当に、このマーク・コズレックという人間の歌声に溢れる憂い、悲しみ、切なさは他の誰にも出せないもの。人間的感情の揺らぎがひとつの声の中に集結しているようなこの歌声を、ぜひ聴いていただきたいところです。

まとめ

今回は、比較的近年に発表されたピアノ・ミュージック系のアルバムから、特に素晴らしいものだけをご紹介させていただきました。

思えば、私たちが積み重ねているこの生活というものはあまりに不安定で、時たま幸せもありながら、どんな災いが起こるかも分からない強烈な脆さ、いびつさが現れ続けているように思います。

目まぐるしく変動し、時に私たちを混乱させるような日常の中、今回ご紹介したような素敵なピアノの音が大いに輝いて聴こえて来る。それは、私たちが日々の生活においてなかなか掴めない美しさ、穏やかさが、ピアノという楽器の音にはっきりと溢れているからであるように思うのです。

担うだけであまりに大変な「日常」という試練の中に、ふと欠けてしまった美しさや穏やかさが、ピアノという楽器の音ひとつによって大きく取り戻される瞬間。「その瞬間は本当にある」と、私は思うのです。

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