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「いのっちの電話」作家・坂口恭平さんの願い

090-8106-4666 死にたくなったら電話して。

この電話番号は坂口恭平さんの個人的な電話番号だ。坂口恭平さんは画家、作家、活動家であるとともに、ボランティア活動として、『いのっちの電話』をしている。いのっちの電話とは坂口恭平さんが個人的に行っている、坂口恭平さんバージョンの『いのちの電話』で、実際に私もかけたことがある。
ちゃんと繋がった。
すごい、と思った。
坂口恭平さんは数冊も本を出されて、ご自身も双極性障害の当事者でもある。そんなハードスケジュールの中、1日で100人もの電話対応をして、正直言って、いい意味で唖然となるほかなかった。

2012年、いのっちの電話は始まった

この世界から自死をなくす。
それは簡単にはできない願いの一つでもある。コロナウイルス禍になってから自死まで追い込まれる方の割合が増え、特に女性や若年層にいたってはコロナウイルス禍前よりも増え、それが大きな社会問題になっているのは記憶に事実だろう。度重なる規制や感染症対策、相次ぐ中止にメンタルがきつくなり、ストレス要因が増えているのは、良く知られている。

坂口恭平さんはストレスがたまり、死にたくなった全ての人の電話対応の『いのちの電話』を全てやっている。2012年に日本から自殺者をゼロにするために始まった『いのっちの電話』。なぜ、いのっちの電話と本家のいのちの電話と違い、いのちの間に『っ』が付いているかというと、本家のいのちの電話から紛らわしい、と指摘があったためだという。V6のいのっちとは仲がいいから大丈夫、と坂口さん。いのっちの電話設立当初から現在に至るまでの様子は、『苦しい時は電話して』(講談社新書)に詳細に書かれてある。
私が初めて、坂口さんを知ったのは、この衝撃的な新書のおかげだった。なぜなら、表紙に著者のプライベートな電話番号がしっかりと書かれてあったからだ。その衝撃と言えば、あれに勝るものはない、と言っても良かった。
コロナウイルス禍の1年目だった2020年、私は縋るような思いで坂口恭平さんに電話をした。

30分も聞いてくれた真摯さ

坂口恭平さんに電話をし、私は今までの過去の苦しみを吐露した。何度も入院し、周囲の大人から裏切られ、成績は悪くなかったのに高校を転科を含めて5回も転々としたことや、今でも複雑性PTSDの後遺症で苦しんでいることをいうと、坂口恭平さんは何度も親身になって聞いてくれた。
通常だったら私の過去や状況を聞いたって、何のお金が発生するわけではない。むしろ、貴重な時間が減るばかりで、何の得策もない。それでも、坂口恭平さんは親身になって聞いてくれた。坂口恭平さんとは電話をかけたくらいでお互い、実際に会ったことはない。受話器越しから聞こえる坂口恭平さんの声は死にそうになっていた私の凍った心を溶かしてくれるような賢者のようにも思えた。

坂口恭平さんの幅広い活動

坂口恭平さんは小説家としても幅を広げ、三島由紀夫賞の候補にもなるなど、文芸界でも評価は高い。パステル画家としても活動し、展覧会は満員になるほど人気が高い。建築家だった坂口恭平さんの八面六臂な活躍に圧倒される。音楽家としても活動し、その活動内容はユニークだ。それでも、『いのっちの電話』は辞めない、と公言しており、その10年もボランティアで続けた持続性には感服するしかない。

日本には坂口恭平さんがいる。そう思うだけで希死念慮も少なくなれる気がするのだ。

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