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2024/12/10:フリーペーパーvol.105発刊!

ある夏の1日 甘いクッキーと苦いお茶

迷子と茶屋とバタークッキー

ある夏の日のこと。花屋に行こうとしたら迷って、とある茶屋にたどり着いた。誘われるように入った店内で魅力的な商品を見ていた。しばらくして本来の目的を思い出し、お茶を買い店を出た。花を受け取り自宅に帰る。甘いクッキーと苦いお茶で、ブレイクタイム。

薄明

朝早くに目が覚めた。時計を見ると4時。うーんと背伸びをしてベッドから出る。ひんやりとした空気、小鳥の鳴き声、遠くから聞こえてくるトラクターの音。薄明の空にはまだ星が静かに佇んでいた。そそくさと朝の支度をする。今日は祖父の月命日だ。

ひと通りのルーティーンをこなし、一息ついているとスマホの通知音が響いた。なんだろうと確認すると、母からだった。花屋に花を受け取りに行ってほしいという趣旨のメールが来ていた。

道、道、道。ここはどこだろう…。私は途方に暮れていた。花屋に出かけたのは一時間ほど前だったと思う。母から花屋の場所を教えてもらい、ナビに従って車を走らせていたのだが、どうも道に迷ってしまったらしい。最後の分岐点を間違えたのだ。通り慣れた場所にあると聞いていたので、すぐに着くと思っていたのに。

「こんな狭いところに花屋なんてあるんだろうか?」「どっちに行けばいいの?」「今右って言ったのに、違うじゃないか…」「早く帰りたい」

少しナーバスになりながら、アプリの音声案内に戸惑いながら、知っている街の、知らない迷路のような道を走っていた。

どこかでUターンして大通りに戻ろうと、コンビニでもないかと走っていたら、細い道が続く住宅地に入り込んでしまった。対向車が来ませんようにと、祈るような気持ちで家々の間を縫うように走っていたら、開けた場所に出た。あぁ、よかった!

迷い家

住宅地の細い路地を抜けた先、そこにあったのは茶屋だった。こじんまりとした建物に、「お茶」という文字の幟(のぼり)が揺らめいていた。秘密の隠れ家のような雰囲気に惹かれた私は、お店を覗いてみることにした。

店内にはお茶や雑貨が所狭しと並んでいた。日本茶、中国茶、紅茶…お茶を淹れるための茶器や、縁起物などの雑貨、さらに漢方薬まで売られていた。驚いたのはお茶の種類の多さだった。

緑茶といった日本茶はもちろん、蓮、プーアル、陳皮、チャイ、ラベンダー、マジョラムなど古今東西のお茶が取り揃えてあった。中には金銀花茶というなんだかすごい名前のものもあった。

しばらくぼんやりと商品を眺めていた私は、自分の目的を思い出した。そうだった、花屋に行くんだった。祖父が愛飲していたドクダミ茶と、緑茶を購入しお店を後にした。

クッキーとお茶

無事に花屋に辿り着き、花を受け取り帰宅。なんだか今日は疲れたなぁ、ちょっと甘いものが食べたくなった。冷蔵庫に米粉があるのを思い出し、クッキーを作ることにした。オーソドックスなバタークッキー。簡単に作れるレシピを探して、材料を準備する。

米粉、バター、砂糖、卵を混ぜ合わせ、生地を作っていく。甘さ控えめにしたかったので、本当は黒砂糖か、甜菜糖があれば良かったのだけれど…。ないものはないので、今あるもので作る。代用できるものは代用する。

オーブンで焼いている間に、花を供え、お茶の準備をする。お湯を沸かすやかんの音。オーブンから漂う甘い優しい匂い。ほのかに香る花の匂い。どこか懐かしくて少し苦い思い出。

焼き上がったクッキーをお皿に乗せ、お茶を入れる。ひと口食べる。米粉がほろほろと口の中で溶けていく。砂糖とバターの甘み。甘いものが好きな母には好評だったけれど、私には甘すぎた。口の中に残る甘さをお茶で中和した。

甘いクッキーと、苦いお茶。祖父は喜んでくれただろうか。

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