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診断までに50年かかった「大人の女性の発達障害」 第二回

みんなが知っているのとはちょっと違う「女性の発達障害」

先日、私は50歳で発達障害の診断をうけました。ADHD(注意欠陥/多動性障害)、そしてASD(自閉症スペクトラム障害)の傾向も多少みられるという診断で、すぐにADHDの治療薬を使い始めました。

おそらく、今更なぜ発達障害の診断なんて必要なの?と思われる年齢だと思います。しかし私自身は、診断を受けたことでとても楽になりました。いままでのたくさんの困ってきたことの理由と改善方法が、少しずつわかってきたからです。そしてADHDの治療薬も合っているようで、行動に落ち着きがでて生きやすくなったと感じています。
発達障害は幼少期にわかるケースが多いのですが、特に女性は現在の診断基準では違った見え方がすることもあり、幼少期に気が付いてもらえない場合があるようです。しかしそのまま成長してしまうと、周りの人と同じようには出来ないことが多くあり、家族や友人との人間関係がうまく築けず、自分を責め続けて二次障害と言われるウツなどの心の病を発症する原因になってしまいます。私が発達障害の診断を受けたのは、長いこと良くならない自分のウツ症状や不眠が、この二次障害である可能性を考えたからです。

発達障害は「害」という言葉のネガティブなイメージを避けるために、「発達障がい」または「神経発達症」などへ呼び方が変化していますが、ここでは現在一般的に知られている「発達障害」という言葉を使います。

第一回の記事では、検査や診断までの経緯をお伝えしました。第二回では私が受けた検査や診断までに感じたことをご紹介します。

第一回の記事はコチラから(掲載記事リンク)

診断までに50年かかった「大人の女性の発達障害」 第一回

私が受けた発達障害の検査

私は以前から鹿児島で通っている精神科の医師へ相談し、翌週から発達障害の検査を受けることになりました。
受けた検査はWAIS-Ⅳ知能検査、MMPI( MMPI ミネソタ多面的人格目録)、ADHDに関する生育歴の調査2回(幼少期・成人期のエピソードの聞き取り)の合計4回です。一回の検査におよそ2時間かかるので、検査開始から診断までに2ヶ月以上かかりました。

私の場合は検査が多かったようです。それは私の性格が影響して検査結果が正確に出ないことや、50歳という年齢も診断に慎重になる大きな理由だったと思います。ADHDには治療薬があり、診断をして投薬をするべきかの検討が必要だったからです。

発達障害の検査 WAIS-Ⅳ知能検査

私が最初に受けた検査は、WAIS-Ⅳ(ウェイス・フォー)知能検査です。IQがわかるテストとして知られています。
成人用の知能検査であるWAIS-IV知能検査は、ウェクスラー式知能検査の1つです。
ウェクスラー式知能検査は年齢に応じて種類が異なり、幼児用のWPPSI、児童用のWISC、成人用のWAISの3つが使い分けられています。
WAIS-IIIの検査内容が事前に知られるようになってしまったことに配慮するなど、改訂されたものがWAIS-Ⅳです。

検査を行うことで、全検査IQ(総合のIQ)と4つの指標得点(4つの項目ごとのIQ)を知ることができます
WISC-IVの結果は得意不得意を把握する上で有用な手段となりますが、発達障害の診断を確定するためのものではありません。

全検査IQと4つの指標得点

全検査IQとは、全体的な認知能力を表す項目です。 補助検査を除いた10種類の基本下位検査の合計から算出されます。4つの指標得点は下記の4つです。

言語理解
言語による理解力、推理力、思考力がわかる指標です。
言語によるコミュニケーションや推論する力に影響します。

知覚推理
視覚的な情報を把握する力、視覚的情報にあわせて身体を動かす力がわかる指標です。
新しい情報に対する解決能力や対応力にも影響すると考えられています。

ワーキングメモリー
一時的に情報を記憶しながら処理する能力に関する指標です。
口頭での指示理解、読み書きや算数といった学習能力、集中力に大きくかかわると言われています。

処理速度
情報を処理するスピードです。
単純作業をこなすのが苦手、マイペースで切り替えが苦手である場合もこの指標が低くなることがあります。

WAIS-Ⅳを受けて私がわかったこと

私はこの検査を受けて、処理速度が平均値からとても低いことがわかりました。
その代わりに言語理解が平均値よりも高く、知覚推理とワーキングメモリーがほぼ平均値だったので、全検査IQとしては平均的な値に近くなりました。

検査内容はいろいろな項目があって、途中で飽きることはありませんでした。2時間弱かかりましたが、自分なりには最後まで集中できたと感じました。

この検査結果がわかった段階では、ASDの傾向があること、単純作業を早くこなすことが苦手で、集中の途切れやすさ、ADHDの衝動性の強いことがハッキリとしました。それ以外のADHDの特性に合致するかの検証で、WAIS-Ⅳに追加して心理検査を受けることになりました。

MMPI(ミネソタ多面的人格目録性格検査)

2回目に受けたMMPIは、たくさんの質問に対して「はい」「いいえ」で回答し、その結果を総合的に解釈して人格を多面的に測定する検査です。

新しく建てられたばかりのコロナ対策を施された隔離部屋の化学臭の中で、アクリル板越しに文章を聞いては文字で見せられ、「はい」「いいえ」で答え続けました。私にとってはこの環境に苦手なことが多かったので、とても辛い検査でした。

MMPIを受けてわかったことは「面倒くさがりな性格」

長時間同じ姿勢で慎重に話しを聞き、アクリル板の反射光でゆがんだ文字を読み、化学臭の中で集中するのはとても難しかったです。初めて話す人と二人きりで密室で過ごすという、不自然な環境も苦痛でした。体の痛みや痒さを強く感じてソワソワと動きながら答え、最後の方は疲れて早く終るように前のめりで答えてしまいました。検査の内容も、過去のことや性的なことなど大きな声で堂々と返事がしにくい質問がありました。自分で読んで自分で紙に回答をマークしないので、本音で答えられないとも感じました。

コロナ禍で仕方がない状況だったのですが、診断には役立たなかったそうです。医師からも「相当な面倒くさがり屋さんですねえ」といわれ、さらに検査が続くことになりました。

ADHDに関する聞き取り調査

3回目の検査では幼少期から学生時代のこと、4回目では成人期以降に関することを詳しく心理士さんに聞かれて答えました。それぞれ2時間近くかけてお話しできるので、思い出すエピソードを自分のペースで詳しく伝えることができました。

心理士へ幼少期からのことを話したらスッキリ納得

検査期間が予想以上に長くなりましたが、時間がかかったことで過去のエピソードをじっくり思い返す時間をとることができました。幼少期から感じていた周りの人と同じように出来ないことや、自分から人と仲良く出来ない原因、家族を含めて誰にも理解されないと感じることで苦しんできたエピソードをたくさん思い出しました。しばらく辛くなりましたが、それを口にして医師や心理士に伝えることができたのは心の整理につながって良かったです。

特に幼少期からのことを発達障害があったかもしれないという視点で振り返り、心理士さんにじっくり聞いてもらえたことが、私にとってはカウンセリングの効果もあって良かったと感じています。すでに診断のついているPTSDの原因である虐待や友人の事故死を見てから負っている心の傷のことも丁寧に話して、今のタイミングで整理できたのは重要なことだったと思います。

幼少期に発達障害の疑いを検討されたこと、当時のIQ検査でも今回のWAIS-Ⅳとほぼ同じ結果だったことも、検査の過程で少しずつ思い出しました。また発達障害があるという視点でみれば、とても納得がいくエピソードの多かったこともストンと腑に落ちることに繋がりました。

検査の間に大人の女性の発達障害に関する情報を得ることもできた

この検査の続く間に、発達障害に関する情報を本やネットでじっくり勉強することが出来ました。当事者の発信しているYou Tubeをみると人によってさまざまな特性があり、特に「女性」で「大人」の発達障害の特性となると、一般に言われているADHDやASDの特性とは違ってみえたり個人差が大きいことも知りました。

大人の女性の発達障害の診断の難しさ

2021年現在、日本で発達障害の診断の主な基準となっているのは2013年にアメリカ精神医学会が出版したDSM-5という精神疾患の診断基準・診断分類です。その内容は、「男性の幼少期」に多く見られる特性が中心です。発達障害の特性が幼少期からみられること、そして女性よりも男性に多いとされてきたからです。以前は小児科の分野でしたが、近年になって精神科で大人のADHDが投薬治療の対象となりました。「大人」の発達障害と「女性」の発達障害の診断となると、まだ歴史が浅いために医師によっては診断が難しいようです。だから私が診断を受けることなく50年生きたことは、世代的に仕方がないことと思います。最近やたらと発達障害というワードを目にするようになったと感じるのも、診断基準がしっかり実状にあってきたことも一因だと思います。

私は自分の発達障害を知らないが故に、いろいろなことに挑戦できた人生だったと前向きにとらえることができています。

診断の結果

そして私はADHDと、多少のASDの傾向があるという診断がされました。
病院からは検査の結果や、今後必要なことを紙に書いたものをもらいました。

これとWAIS-Ⅳの結果をサポートをしてくださる皆さんや家族へ伝えることで、特性や苦手なことを客観的な視線で伝えることができるようになりました。苦手なことを伝えて配慮して欲しいと言うだけではなくて、それに対してどのように改善や対策ができるのかを一緒に考えてもらうことにも繋がると思っています。

ADHDの治療薬を使用開始して

診断の翌日朝から、「ストラテラ」というADHDの治療薬を使い始めました。発達障害であるとわかるまでに生まれてから50年かかりましたが、診断を受けて投薬を開始すると生活全般に心の余裕ができて、落ち着いて物事を判断できるようになってきたと感じています。何をするにも時間がかかることを気にして、常に急がなくてはならない焦りや不安がありましたが、今は肩の力が抜けている感覚です。無理に頑張って、周りの人と同じようにできると見せる必要がないとわかったことも大きな理由です。

苦手なことを客観的に知ったことで、先にトラブルを回避する工夫も以前より出来るようになっています。不器用な自分のままで良いし、時間をかけて行動すれば良いのです。

いつもグルグルと頭の中で考えすぎた結果、疲れてなにもできないことが多かったのが、判断力がついて行動に移すようになっています。寝食を忘れるほどの過集中(時間を忘れて集中してしまう)も、時間を決めて止めることが出来るようになってきました。行動的になったのでよく動いて、睡眠もしっかりとれて落ち込むことも少なくなりました。

私は診断を受けたことで、とても生きやすくなっていると感じています。

では次回からは、診断を受けずに過ごした幼少期から成人期でどのような特性や悩みがあったのか、男性と女性の発達障害の違い、大人になってから診断を受けることのメリット・デメリット、発達障害の二次障害についても私の経験をもとに紹介します。

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