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2022/011/10:フリーペーパーvol.80発刊!

鍵盤楽器界の魔術師、エレクトリック・ピアノという楽器の魅力を分析!

エレクトリック・ピアノってどんな音?

皆様はエレクトリック・ピアノ(略称・エレピ)という楽器を御存知でしょうか。その名前を存じない方でも、音は聴いたことがあると思います。

まずは、このクール&ザ・ギャングというアーティストの「サマー・マッドネス」という曲のイントロを聴いてみて下さい。この音が、エレクトリック・ピアノの音です。

エレクトリック・ピアノの音が分かりましたか?このように通常のピアノとは違う、煙が立ち込めるような、トーンを抑えた翳りのある音色がエレクトリック・ピアノの特徴です。

一般的なグランドピアノに比べてあまりポピュラーではない、この「エレクトリック・ピアノ」。しかしこの音はひとたび惹かれると、一気に夢中になってしまうような魔力を持っています。今回はいくつかの楽曲を参考に、エレクトリック・ピアノの魅力を分析していきます。

エレクトリック・ピアノという楽器の成り立ちは?

まずはそもそもエレクトリック・ピアノとはどのように成り立っていった楽器なのかということを押さえておきたいと思います。
まず、第二次世界大戦後にアメリカのハロルド・ローズが戦傷軍人(戦争により負傷した軍人)が音楽演奏で生計を立てることが出来るように、廃棄された軍装品を利用して製作したピアノがエレクトリック・ピアノの原型です。
これはロックンロールなどの大音量で演奏される音楽が発展し、ピアノではドラムなどの他の大音量な楽器とうまく交わらなくなった際に需要が生まれました。

ピアノと違った音色を面白がって使うミュージシャンも出現し、徐々に注目が集まっていったエレクトリック・ピアノはフェンダー社やウーリッツアー社により、発展を遂げていきます。その過程でローズ・ピアノウーリッツアーピアノホーナー・クラビネットといった有名な機種が生まれていきました。
日本でもヤマハ社がCP-70CP-80と名付けられたエレクトリック・グランドピアノ、さらにDX7というシンセサイザーを開発。
CPシリーズはフュージョンやポピュラーミュージックに使用され、DX7に収められたエレクトリック・ピアノの音色も未だ海外の音楽家や音楽ファンも含め愛され続けています。

エレピ個人的名曲1:マイケル・ジャクソン「She’s Out Of My Life」

ここからはエレクトリック・ピアノが実際に使われている楽曲の中から、私が個人的に気に入っている曲を通してエレクトリック・ピアノの魅力を分析していこうと思います。
まずはもはや言わずと知れたポップ・スター界の孤高の王者、マイケル・ジャクソンの「She’s Out Of My Life」を聴いてみましょう。

ほとんどエレクトリック・ピアノとマイケルの歌唱が主体となったバラード。ビブラートを丹念に駆使したマイケルの歌唱がまず素晴らしいですが、ここではエレクトリック・ピアノがこの曲の良さにどのように作用しているかを探っていきたいと思います。

そもそもバラードの伴奏は大体がピアノですが、なぜここでエレクトリック・ピアノを大々的に取り入れているのか、というのがクエスチョンとなります。勝手な想像ですが、ピアノの打音では、この切々とした曲にはあまりに音が尖って聴こえ過ぎてしまったのではないかと思います。お聴きの通り、この曲はとても繊細なバラード。マイケル・ジャクソンも歌いながら泣き出すほどに切なく研ぎ澄まされた、この曲に合致した抑制的で優しげなトーンを出せるのはピアノではなく、エレクトリック・ピアノそれそのものだった。だからこそ、ここではエレクトリック・ピアノが採用されたのではないかと私は推測します。

この曲を、この削ぎ落とされたシンプルなアレンジの中でピアノで弾く様を想像しても、何かサウンドがゴージャス過ぎてニュアンスが出ないような気がします。エレクトリック・ピアノが持つ帯域の狭さが、この曲の歌唱に満ち満ちているエモーションを逆説的に惹き立たせていると見ることが出来るでしょう。それにしても、この曲のマイケルの歌唱は実に綺麗で、甘いのだけれど、決して甘さにとろけ過ぎてはいない。細かなアレンジ、バックミュージシャンの演奏も含めて、どこか硬質でストイックなムードがあるのがマイケル・ジャクソンの楽曲の特徴でしょう。

エレピ個人的名曲2:ビル・エヴァンス「これからの人生」

ジャズ界においてもエレクトリック・ピアノは効果的に使われています。このビル・エヴァンスこれからの人生」は「From Left To Light」というアルバムに収録されています。

このアルバムでは、エヴァンスは全編に渡ってエレクトリック・ピアノを弾いています。通常のピアノを巧みに奏でる名手として才能を認められていたエヴァンスゆえ、当時は賛否両論が起こったというこの「From Left To Light」。しかしこれはエヴァンス特有の切なさを呼び起こすようなメロディーが優しく提示された紛うことなき名作で、中でもこの「これからの人生」はエレクトリック・ピアノと通常のピアノが交差しながら、オーケストラと共にゆったりと上昇していく、壮大な名演奏となっています。いわゆる解像度の高い音質とは違ったビンテージ感漂う録音状態も含め、落ち着いた気持ちになりたい時にはぴったりです。

エヴァンスは何を思ってエレクトリック・ピアノを弾き始めたのかというのは気になるところですが、単純に、一つの道を極めたアーティストは新たな道を模索しなければ活動を続けられないものだと思います。グランドピアノという楽器からエレクトリック・ピアノへ手を伸ばしたエヴァンスには、これまでの自分をさらに変化させ、成長させていきたいという意志があったように思えてなりません。

エレピ個人的名曲3:レイ・ハラカミ「Owari No Kisetsu」

では、日本国内に視点を移してみましょう。電子音楽界のトップアーティスト、レイ・ハラカミ氏もエレクトリック・ピアノを多用した名作を作り上げています。それがこの「Owari No Kisetsu」。原曲はYMO等での活動で有名な細野晴臣氏が1973年に作った「終りの季節」です。

細野氏のバージョンは完全なフォークミュージックでしたが、ハラカミ氏はプログラミングによる緻密なビート感覚、変拍子の積極的な使用、使われているコードの抜本的な変更、そしてエレクトリック・ピアノの大々的かつ幻想的な取り入れによって、このフォークソングを新たな境地に深めました。

イントロから優しいエレクトリック・ピアノが右に左に反響し、生のドラムサウンドを凌駕するようなうねりを見せるドラムキットのプログラミング音も印象に残ります。ハラカミ氏によるボーカルは余分な感情を込めない冷静沈着さ。何より、ここに提示されているコード、メロディーの洗練され具合は早々聴けるものではありません。矢野顕子氏も激賞したこのカバーテイクは、ハラカミ氏の楽曲の中でも大きな代名詞となりました。

ハラカミ氏が生み出したこのユニークなサウンドは、他のハラカミ氏の楽曲でも貫かれており、どの楽曲を聴いてもレイ・ハラカミの楽曲であると一瞬で聴き分けられるほどの記名性を持っています。この「Owari No Kisetsu」を聴いて興味を持った方は、是非他の楽曲も聴いてみて頂きたいと思います。

エレピ個人的名曲4:サカナクション「三日月サンセット」

今やメディアでの評価を完全に確立し、国民的な認知も地道に定着させて来たサカナクションですが、実は活動の最初期にエレクトリック・ピアノを大々的に使用した名曲「三日月サンセット」を生み出しています。

どこか80年代のディスコサウンドにも通ずるしなやかな演奏で美しいコード・メロディーを贅沢に聴かせる「三日月サンセット」ですが、ここでは、先程の「Owari No Kisetsu」にも通ずる反響的なエレクトリック・ピアノが楽曲にクールさを与えています。決して目立った使われ方ではないですが、これが通常のピアノであったら少しうるさすぎて、この楽曲が持つメロディーの根本的な繊細さを壊してしまうような気もします。

このように、ある程度抑えたトーンや、ある種幻想的な雰囲気を演出したい時に使われるのがエレクトリック・ピアノであるということがだんだん皆様にも見えて来たのではないでしょうか。エレクトリック・ピアノを使うと、不思議と楽曲の空気感が洗練され、シュッとしていくのが分かります。これがエレピ・サウンドの魔力なのです。

エレピ個人的名曲5:荒井由実「海を見ていた午後」

では、日本でエレクトリック・ピアノの洗練性を根づかせたのは一体誰なのでしょうか。これまた私の勝手な推測ですが、それはユーミンこと松任谷由実その人なのではないかと思います。まだ荒井由実名義で活動していた時に発表されたこの「海を見ていた午後」は、1974年の段階で日本の歌謡曲にエレクトリック・ピアノが大々的に導入されているという重要なケースです。

楽曲は流石のユーミン、素晴らしい完成度とエモーションを兼ね備えています。そしてここでエレクトリック・ピアノを使うことによって伝わってくるのは、どうしようもなく切ない思いを誘われるような憂愁の空気。抑制的なムードの中に、美しい感情の流れが漂っています。

日常の風景と恋心を丹念に描く歌詞の筆致ともうまくマッチし、エレクトリック・ピアノの音色が持つ洒脱さを、早い段階で日本のリスナーに印象付かせたであろうことが伺えます。そして今聴いてもその実験は古びておらず、まるで現代に生まれた楽曲のようなフレッシュさを保っているのが、またエレピ・サウンドの耐久性・時代を超える普遍性・何よりも「魔力」を感じさせます。この、楽曲に溢れる全体的なリバーブ(反響音のことです)感も、聴いてみると逆に今っぽいという感じがします。

エレクトリック・ピアノという楽器は、やっぱり凄い!

ここまで聴いてきた5つの楽曲から、皆様にもエレクトリック・ピアノという楽器の特別性を御理解頂けたのではないかと思います。
通常のピアノ・サウンドとは違うエレクトリック・ピアノのサウンドには、他のどの楽器とも一線を画した、完全に独自的なエモーションが込められています。普通のピアノよりくぐもった、不器用な音に聴こえる(かもしれない)その音が、通常のピアノ・サウンドと違った深い感動を伝えてくる、ということはやはりあるのです。

私はこの記事を執筆しながら、エレクトリック・ピアノという楽器の凄さを改めて実感しました。この愛すべきエレクトリック・ピアノの音色には、行方を予測できないような遠い未来の世界でも、変わらずにスタンダードとして鳴っていて欲しいものです。その音色には、私たち人間が普段は忘れている「切なさ」という感情を呼び起こさせてくれる、静かなエネルギーがあるのです。

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