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2024/12/10:フリーペーパーvol.105発刊!

押印レスではんこ屋さんはどこに向かうのか

はんこ屋さんが生き残るための対応策は!?

2021年4月1日から、法改正により多くの行政手続の書類で押印が不要になります。

税務領域でいえば、所得税の確定申告書や法人税申告書、消費税申告書、相続税申告書などが押印不要の対象となっています。人事労務領域でも、36協定や就業規則の届出、社会保険の資格取得・喪失、傷病手当金の申請など、多くの手続で押印が不要となります。

民間においても、これに先立ち、「クラウドサイン」や「電子印鑑GMOサイン」など、電子印鑑を用いた契約書の締結が普及し始めており、コロナ禍において、その普及は一段と加速されました。

行政手続や民間の契約における押印レス・電子契約化は、人々の暮らしを便利にし、ビジネスの効率化につながります。私自身も社会保険労務士実務家として、大変助かります。

印鑑業界の生き残り策

一方で、印鑑業界にとっては致命的な逆風となっているようです。はんこ屋さんは、今後、どうなってしまうのでしょうか?実際、日本全国で、はんこ屋さんの数は急減しているということです。従前からも、店舗型のはんこ屋さんがネットショップに顧客を奪われるという構図はありましたが、現在においては、印鑑自体の需要が急減しています。

印鑑業界が生き残るためには、どのよう対応策があるのでしょうか?筆者は、少なくとも、以下3つの対応策が考えられると思います。

印鑑の高級化路線

第1は、高級化路線で客単価のアップを図ることです。

たとえば、万年筆をイメージしてみてください。万年筆は、かつては日常生活やビジネスにおける代表的な筆記具でした。現在は、文章の作成はパソコンで行うことが大半で、手書きの場合も、ボールペンなどの実用的な筆記具を用いることが通常です。しかし、ドイツの「モンブラン」や「ペリカン」、イギリスの「パーカー」、日本の「パイロット」などは、万年筆で一定のシェアを持ち、1本数万円~数十万円のハイエンド商品が人気です。万年筆の書き味を好み、手紙を書いたり、詩を書いたりなど、趣味で万年筆を活用したり、コレクションをする人々がいるからです。

同じように、印鑑を日常生活やビジネスの世界で使わなくなったとしても、趣味の世界で活用することはあると思います。たとえば、掛け軸や絵画などに完成の印として落款印を押します。こういった、趣味の世界でのニーズを掘り下げ、ブランディングを強化していくということが考えられるのではないでしょうか。

印鑑需要の促進

第2は、高級化路線とも関連しますが、印鑑業界が積極的に、印鑑の需要を促進していくということです。

この点、着物業界の取り組みがヒントになるのではないでしょうか。着物は現在は普段着ではありませんが、七五三や成人式など、晴れ着としての需要は堅調です。呉服屋さんでは、成人式のシーズンなどには積極的にキャンペーンやイベントを行うなど、ニーズの掘り起こしを積極的に行っています。お茶会やお花の稽古などでも、着物は一定の需要があります。

印鑑業界においても、たとえば、実印を印鑑登録して、重要な契約書に実印を押す習慣は当面続きそうですから、「成人式や就職のタイミングで、社会人として自分に自信が持てる印鑑を持ちましょう」みたいなキャンペーンを行って、印鑑の必要性や、印鑑を持つことの精神的な意義をPRしていくなどの取り組みはいががでしょうか。落款印との関係でいえば、印鑑業界が、絵画や俳諧などの文化事業に積極的に関わって行くということも考えられるでしょう。

他分野への技術応用

第3は、印鑑作成の技術を他分野に応用することです。

富士フイルムは、かつて、銀塩フイルムやフイルムカメラが主力商品でしたが、デジタルカメラの登場により経営に大打撃を受けます。しかし、富士フイルムは、培ってきたフイルムの技術を化粧品やヘルスケア、医療などの分野に応用し、現在もさらなる発展をとげています。

印鑑業界においても、大手のシャチハタ社は、「シャチハタクラウド」というサービスを立ち上げ、電子契約ソフトに参入をしています。確かに、電子契約書ソフトでは、先発のサービスは存在しますが、長年、我が国の押印文化を支えてきたシャチハタは、企業がどのように押印を使ってきたのか、というプロセスを熟知していますので、社内決裁のプロセスを意識した仕様になっているなど、シャチハタクラウド独自の強みを持ったサービスを立ち上げています。

別の視点から考えると、印鑑は、柘植などの木材、水牛の角、チタンなど、様々な素材から作られ、高級印鑑を手彫りで作成する職人の技術は非常に高度なものです。その技術を応用して、宝飾品やアクセサリーの分野などに参入することも考えられるでしょう。

まとめ

印鑑は日本の伝統的な文化で、私たちにとって身近なものです。効率化や電子化は必要とはいえ、印鑑が無くなってしまうのは寂しいですよね。

本稿の提案は、印鑑が生き残るための考え方の一例ですが、私は、印鑑という文化を是非後世に残していくことができればと考えています。

 

プロフィール
榊 裕葵(ポライト社会保険労務士法人代表)

大学卒業後、製造業の会社の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。その後、社会保険労務士として独立し、個人事務所を経てポライト社会保険労務士法人に改組。マネージングパートナーに就任。勤務時代の経験も生かしながら、経営全般の分かる社労士として、顧問先の支援や執筆活動に従事している。また、近年は人事労務freee、SmartHR、KING OF TIMEなどHRテクノロジーの普及にも努めている。

主な寄稿先:東洋経済オンライン、シェアーズ・カフェオンライン、創業手帳Web、打刻ファースト、起業サプリジャーナルなど

著書:「日本一わかりやすいHRテクノロジー活用の教科書

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