無冠の帝王から令和の最強棋士へ「豊島将之」名人
4月10日に開始した、今年の第77期名人戦七番勝負第1局初日に「千日手」という珍しい局面が表れました。指し直し局は千日手の成立後すぐに開始され、挑戦者の豊島将之八段が勝利しました。
豊島挑戦者はこの第1局を含め無敗の4連勝でタイトルを獲得。名人位が実力制となってから14人目の就位者、第14代名人となりました。
この対局で見られた、将棋でまれに出てくる局面の「千日手」とは、いったい何なのでしょう?
将棋を始めたばかり、自分ではあまり指さない、ルールにもあまり詳しくない方へ千日手を説明します。
豊島将之名人についても、詳しくお話させていただきます。
【第60期 #王位戦 七番勝負】
7/31(水) 豊島将之王位 vs.木村一基九段の第2局は、豊島王位が118手までで勝利し、開幕2連勝しました。第3局は8/8・9に福岡県福岡市「大濠公園能楽堂」で行われます。
ただいま、感想戦を生放送中です。▼視聴https://t.co/eaHR3Sen6e pic.twitter.com/oB0WZyIR8M
— ニコ生公式_将棋 (@nico2shogi) 2019年7月31日
第1局は千日手から始まった
駒の配置と手番、両対局者の持ち駒の種類と数が全く同じ局面が4回繰り返されたときに、千日手が成立します。この場合、その対局は勝負無しとしてその場で中止し、手番を先手と後手入れ替えて初めから新たに指し直し局が行われます。
仮にどちらかが優勢の状態であったとしても引き分け扱いになるため、千日手の筋が読めた場合、明らかに劣勢の棋士が巧みに千日手へ成立へ局面を誘導することもあります。
先後入れ替えて指し直しとなるため、もともとの後手番は先手を持って新たに指し直すことができます。現代将棋においては特に「先手」が有利とされるため、劣勢、または対等な局面において後手番は千日手を好み、先手番は千日手を回避したがる傾向にあります。千日手はそもそも正統なルールですから、引き分けに持ち込むことを逃げと捉える必要はありません。
むしろ、明らかな負け将棋を逃れるチャンスを逃すことの方に勝負師としての執念が足りないと言えるわけで、指し直し局で勝てばその対局は「勝ち」として成立するわけですから、勝負としてそれでいいのです。
現役プロ棋士のなかで千日手を好む棋士として、現役のタイトルホルダーの一人である「永瀬拓矢叡王」がよく知られています。
2011年のNHK杯では、現在の将棋連盟会長である佐藤康光九段に千日手を2回繰り返した末勝利しました。そんな、若手強豪棋士、永瀬叡王は千日手のことを
「もう一番、たくさん将棋を勉強させていただく機会が増えるのですから、千日手は大歓迎です」との思いを残しているほどです。
【名人就位式④完】
豊島将之名人の就位式の模様です(その4)。
ツイートは以上です。 pic.twitter.com/eYid05JrSU— 岡 稔 (@donsokunoyose) 2019年7月19日
豊島将之名人
現名人、豊島将之名人(段位は九段)は、「王位」のタイトルをあわせ持つ二冠の棋士です。現在、木村一基九段を挑戦者に迎え、自身の保持するもう一つのタイトル王位の防衛戦七番勝負の最中にあります。防衛戦は現在2局を消化し豊島の2勝。先に4勝した方がタイトルを手にするので、防衛まであと2勝となっています。
一方、名人戦は例年、年度の始まる4月にタイトル戦が始まります。これは、名人への挑戦者を決めるため1年を通して行われる順位戦が3月にすべて終了し、挑戦者となるA級の優勝者が決定するからです。
昨年まで、現在の佐藤天彦九段(前名人)が3期連続で名人に就位していました。第77期名人戦で挑戦者の豊島将之八段が七番勝負を第1局から負け無しの4連勝で勝ち抜き、実力制第十四代名人になりました。
今夜は将棋の豊島将之名人の就位式に来ています。初の平成生まれの名人の誕生。会場には女性ファンの数が目立ちます。 pic.twitter.com/N7HsgQG3zM
— 東京新聞文化部 (@tokyobunkabu) 2019年7月19日
豊島将之名人のこれまで
「将棋は本当に楽しいです、きのう負けた私が言うのですから間違いないと思います」
記事を書きました。
豊島将之名人(29)が羽生善治九段(48)を降して王座戦挑戦者決定戦に進出(松本博文) – Y!ニュース https://t.co/41dBvqmQw1— mtmt (@mtmtlife) 2019年7月12日
タイトル戦での連敗
これは2011年1月、豊島将之六段(当時)が、挑戦者として第60期王将戦七番勝負に挑んだとき、当時のタイトル保持者だった久保利明王将に第1局で負けた翌日に残した言葉です。
早くから若き天才と目されタイトルの複数獲得も期待されていた若干20歳の豊島六段は、このシリーズ第1局を落とし、結局2-4の成績で王将位獲得を逃します。
その後、さまざまなタイトル戦で何度も挑戦者となるものの番勝負で勝ち切ることが出来ずタイトルを奪えないまま、豊島将之は28歳となります。
そして2018年7月17日、6月に第1局の開始した第89期ヒューリック杯棋聖戦で、当時のタイトル保持者である羽生善治棋聖を3−2のフルセットで破り、自身初となるタイトルを獲得しました。
初タイトル後の豊島の躍進はめざましく、同年7月から並行する形で進んでいた第59期王位戦でも4-3のフルセットで菅井竜也王位を退け、王位を奪取。
棋聖・王位の二冠を獲得します。
そして今年、2019年4月から始まった名人戦で佐藤天彦名人に第1局から負け無しの4連勝を収め、豊島将之二冠は順位戦の頂点である「名人」となったのです。
三冠を保持することとなった豊島名人は、今年6月から行われた自身初の防衛戦、第90期ヒューリック杯棋聖戦で渡辺明二冠(棋王・王将)に敗れ棋聖位を失いますが、高い勝率を保ったまま王位の防衛、さらに竜王への挑戦と、さらなる高みへと挑戦を続けています。
令和の最強は豊島、藤井か
負けてなお「おもしろい」と、心から言える思いにこそ、本物の好きの気持ちが現れているとは思いませんか?
豊島名人の今後の主な対局予定は、ご覧のとおりとなっています。見ていてほのぼのする名人の対局姿を、お昼休みにスマホででも覗いてみてもいいかもしれません。
「(10年後に訪れるであろう)藤井(聡)七段の全盛期に戦うことを目標にしている」
豊島将之名人https://t.co/K61WQ7jJFO— 文春将棋 (@bunshun_shogi) 2019年6月6日
8月8、9日は王位防衛戦第3局
今日8月9日は、豊島名人の保持するもう一つのタイトル「王位」の防衛戦、第60期王位戦第3局2日目が福岡市大濠公園能楽堂で行われています。
本局を勝つとシリーズ通算3勝で防衛に王手、敗れても2勝1敗で依然、優位に立っているという状況です。対局は無料で視聴できるインターネットテレビなどで今日と明日、生放送されています。
※第60期王位戦第3局2日目中継チャンネル
AbemaTV将棋チャンネル
ニコニコ生放送