サイトアイコン より良い社会を目指すメディア HIFUMIYO TIMES

障害者向け国家公務員試験実施の今後に期待したいこと

様々な個性を持った障害者の方が公平に受験できる試験を目指すべきだ

障害者雇用水増し問題を受け、政府が初めて障害者向け国家公務員試験を実施しました。

選考のプロセスは、人事院が全受験者共通で実施する第1次選考(筆記試験)と、各府省が実施する第2次選考(面接試験)の2段階に分かれており、第1次選考を通過した受験者が第2次選考に進むことができます。基本的には、通常の国家公務員試験と同じ流れです。具体的には次のような試験日程が組まれました。

申込受付期間 2018年12月3日~12月14日
第1次選考(筆記試験) 2019年2月3日
第1次選考(合格発表) 2019年2月22日
第2次選考(面接試験) 2019年2月27日~3月13日
第2次選考(最終合格発表) 2019年3月22日

試験の内容としては、第1次選考は高校卒業程度の学力を問う選択式問題が30題と、記述式の作文問題が1題です。第2次選考は、各府省が独自に行う個別面接となります。詳細は下図をご覧ください(「国家公務員 障害者試験 受験案内」より抜粋)

試験を行ったこと自体は高く評価

きっかけが各府庁の障害者雇用水増し問題であったとはいえ、はじめて障害者向けの国家公務員試験が行われたことは大きな一歩であり、とても素晴らしい取り組みであったと筆者も思っています。第1次選考の筆記試験には、採用予定の676人に対し、約13倍となる8712人もの受験申込があったということです。

障害別の受験者の構成は偏りがあった

ただ、気になったのは、受験した障害者の方の構成です。

人事院によると、申込者の内訳は精神障害57%、身体障害40%、知的障害3%。

(2019年2月3日 産経新聞)

この点、内閣府の平成30年版障害者白書によると、我が国の障害者の方の概数を区分別に見ていくと、身体障害者436万人、知的障害者108万2千人、精神障害者392万4千人ということです。

障害者の方の概数と、申込者の内訳を比較すると、構成割合がアンマッチであったことが分かります。

最もアンマッチだったのは知的障害者の方ですが、今回の障害者向け国家公務員試験では、第1次選考の筆記試験では高校卒業程度の学力が問われたということで、知的障害者の方にとっては手を出しづらかったのではないかと思われます。また、点字での受験や、試験時間の延長が認められたとはいえ、身体障害者の方の中にも、厳しい条件で受験にチャレンジされた方も少なくはなかったのではないでしょうか。

最初の関門である第1次選考が、相対的に精神障害者の方に有利な試験内容だったのではないかということを筆者は指摘したいわけではありません。ただ、障害者には様々な個性を持った方がいらっしゃいますので、ある程度の配慮があるとはいえ、一律の試験内容で合否を判定することが、本当に平等なのかということには一考の余地があるかもしれないと思いました。

筆記試験で一律に高校卒業程度の学力が求められ、そこを通過しなければ第二次選考の面接試験に進めないとなると、やはり知的障害者の方にとっては厳しいものがあると言わざるを得ません。

形式的平等ではなく実質的平等を目指していきたい

確かに、公務員の仕事内容を踏まえると、一定の学力や画一的な事務処理能力が求められる場面は少なくないのかもしれません。しかし、創意工夫をすることによって、公務員試験も、多様な個性を持つ障害者の方に、広く門戸を開いていく必要があるのではないでしょうか。

障害者の個性に合わせた複数の試験を用意するとか、一律に学力だけでふるいにかけるのではなく、人柄を重視した選考枠もあって良いのではないかと思います。公務員は税金から給料をもらうわけですから、公務員試験は公平・平等でなければなりませんが、「同じ試験を受ける」という形式的平等が必ずしも本当の意味での平等であるとは限りません。

第2次選考でも不公平が

目下進んでいる第2次選考でも不公平な出来事があったようです。

福岡航空交通管制部(福岡市)が受験者全員の面接を終える前に内定通知を出していたことが分かった。面接を控えていた受験者に採用予定枠が埋まったとの連絡があり判明した。

(2019年3月6日 西日本新聞)

これを受け、面接の機会を奪われた受験者からは、憤りの声が上がっています。

「内定者が出たなら面接を受けても意味がないと思い辞退した。早く試験を受けた人が得をするなんて不公平過ぎる」と憤る。

(2019年3月6日 西日本新聞)

第2次選考では1人の受験者が複数の府省の面接試験を受けることができますが、障害の内容によっては、たくさんの府省を回ったり、素早く申し込みをしたりすることが難しいということも充分考えられます。それにも関わらず、「早い者勝ち」で面接試験や内定出しが行われてしまったとしては、やはり不平等と言わざるを得ないでしょう。

まとめ

まずは障害者向けの国家公務員試験を開催したことに大きな意義があります。ただ、様々な個性を持った障害者の方に配慮した試験を実施するということは、「言うが易し、行うは難し」で、様々な検討が必要であり、実現するのはまだまだ先のことかもしれません。

しかし、第2回目以降の試験では、今回問題になったことを洗い出して対策や配慮をし、可能な限り多くの障害者の方が納得感を持って選考を受けて頂けるよう、小さなことからでも、改善を進めて頂きたいものです。

プロフィール

榊 裕葵(あおいヒューマンリソースコンサルティング代表)

大学卒業後、製造業の会社の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。その後、社会保険労務士として独立し、あおいヒューマンリソースコンサルティング代表に就任。勤務時代の経験も生かしながら、経営全般の分かる社労士として、顧問先の支援や執筆活動に従事している。

主な寄稿先:東洋経済、DODA、シェアーズ・カフェオンライン、創業手帳Webなど

モバイルバージョンを終了