悪いオゾンである「対流圏オゾン」
いわゆる、対流圏オゾンは、二酸化炭素、メタンに次ぐ温室効果ガスですが、人間や植物への悪影響を持つ大気汚染物質であるため、地球環境にとって「悪いオゾン」であると言われています。対流圏オゾンの供給源を挙げると、成層圏からの流入と対流圏での光化学反応による生成がありますが、中国の風化に位置する日本では、中国での人間活動によって生まれる、オゾン生成の元となる物質であるオゾン前駆体、特に窒素酸化物の排出量の変動がオゾン濃度を決める主な要因であると考えられてきました。
※対流圏=大気圏の中で、地表に接している層。
※成層圏=地球をとりまく対流圏の上層で、気温がほぼ一定した大気層。
原因不明の日本における大気質改善
1990年代からの急激な経済発展に伴って、中国の窒素酸化物排出量は増加し続け、さらに中国国内のみならず、日本国内でもオゾン濃度の急激な増加が観測されていました。しかしながら、2000年代後半になると、中国の大気汚染が進んでいるにも関わらず、長野県白馬村八方尾根を始めとする日本国内各地では、春季対流圏オゾンの減少、すなわち大気質の改善が見られるようになり、その原因はこれまで分かっていませんでした。
八方尾根の春季オゾン濃度変化と日本各地の呼応
八方尾根の春季オゾン濃度は、1990年代から急激に増加し続けていましたが、中国の窒素酸化物排出量が増加し続けているにも関わらず、2008年以降大きく減少し、最近ではほぼ横ばいの状態が続いています。また、北緯37度以南にある一般環境大気測定局のオゾン濃度平均値も、1980年代から増加し続けていましたが、2000年代後半をピークに増加が止まっており、八方尾根で観測されたようなオゾン濃度減少が日本の広い範囲で起こっていました。
ラニーニャ的な気候パターンによる、中国からのオゾンやオゾン前駆体の減少
2000年代後半から2010年代前半にかけて続いたラニーニャ的な気候パターンによって、中国からのオゾンやオゾン前駆体の輸送が減少したことにより、中国の窒素酸化物排出量が増加し続けているにも関わらず、日本周辺の対流圏オゾン濃度は減少していました。もし、このような気候パターンが発生していなければ、日本のオゾン濃度は、中国の窒素酸化物排出量増加とともに増加していたと考えられます。これは、大気汚染を測る上で、汚染物質の排出量変動だけでなく、周辺の気候変動も考慮することが重要であることが示されました。
ラニーニャ=赤道付近の東太平洋、ペルーやエクアドルの沖合いの広い範囲で、海面水温が平年より低くなる現象。
🔳長野県:NEWS🔳 ラニーニャが日本の大気汚染を防いだ? 大陸からの越境汚染が減少〔NEWS SALT〕https://t.co/0LLB36B11f
長野県白馬村にある国設八方尾根酸性雨測定所で観測されたオゾン濃度データや気象データなどをもとに…
— 長野県のニュース・天気・交通(ニュース) (@naganoNTK) 2018年12月26日