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青森&鹿児島「旅」をキーワードにしたつながるフォーラム

高齢であっても障害があっても旅をあきらめないで!

「旅」をキーワードにした講演会、第1回つながるフォーラム「高齢であっても障害があっても旅をあきらめないで!」(主催:介護旅行ナビ、企画協力:日置市日置市観光協会鹿児島県旅行業協同組合)が、2018年12月2日(日)に鹿児島県日置市吹上町にある吹上砂丘荘にて開催されました。

演題・登壇者は、「旅カレッジ」株式会社ユニティ 濱田桂太朗氏、「ガイドさんを元気にするユニバーサルツーリズム」日置市観光協会 古川安代氏、青森県八戸市より「生きることは楽しむこと」株式会社池田介護研究所 池田右文氏でした。当事者やトラベルヘルパーなど外出支援に携わる方々を中心に、鹿児島県内はもとより、千葉、神奈川、東京、静岡、愛媛などからも参加され、会場は満席でした。

3名のお話を聞きながら、日常のつながりの大切さや高齢者・障害者の可能性、旅がもたらす幸福感、障壁を楽しむ感覚など、日頃忘れていることをたくさん思い出させていただきました。

旅カレッジ

株式会社 ティーズ、ミソラリンク&天国葬祭、株式会社 浪漫、株式会社 ユニティの4社で取り組んでいる「旅カレッジ」。高齢になっても、介護が必要になっても、認知症になっても様々な「旅」の形を提供する「旅カレッジ」は2015年から運営しているそうです。今年9月には韓国ツアーを行ったとのこと。

濱田さんのお話を聞いていて、うちの母親も台湾行きたいなって言ってたことを思い出しました(ちなみにうちの母は約9年前に脳内出血の後遺症で左片麻痺になって以来、旅行という旅行はしていません)。

なぜ敢えて海外?

昨年は台湾。今年は韓国。なぜ敢えて海外に行くのか?
「(スタッフが)日本だとわかっちゃうんですよ。次どういうふうに動けば良いか。トイレの場所とかも。みんな同じ環境にするには、海外に行くしかない」と濱田さんはおっしゃいました。「フラットなラインだから楽しんでいける」とも。

なるほどな、と思いました。みんながわからない状態だからこそ、同じ環境にあるからこその楽しみ。その楽しみ方のほうが、お互い心底楽しめるように感じました。

韓国ツアーの報告VTRに「心の高まりはみんな平等にある。不安から楽しいねに変わる」とありました。非日常を楽しめる旅の醍醐味が、この言葉に凝縮されているようにわたしには感じました。

旅に行くまでの過程も楽しむ

「旅カレッジ」はツアー前の準備にも特徴があります。例えば、今年の韓国ツアーの前には参加者は4回集まって、4コマの授業に参加したとのこと。

いいですよね。この発想!

旅行に必要な体力をつけたり、作ったビビンバと本場のビビンバの食べくらべをしたり、韓国語を学んでみたり。旅行に参加する方々同士の関係づくりにも、スタッフと参加者の信頼関係づくりにも、旅の準備を楽しむ時間としても、すごくいいなと思いました。

心が動けば体も動く

旅では不思議な力が働くようです。

普段、あまり歩いていなくても歩けちゃったり、膝が痛いといつも言っている方がバスの乗り降りをスムーズにできたり、お土産を両手に抱えスタスタ歩いたり。

「心が動けば体は動くんですよね」

何回か濱田さんはこの言葉をおっしゃいました。

旅はひとを元気にする。
高齢者は何もできないわけではない!
できる部分を見つけていこう!
環境がひとを変える。

韓国ツアーに参加した最高齢は95歳。この方は10年のパスポートを取ったそうです!

ガイドさんを元気にするユニバーサルツーリズム

日置市観光協会の古川さんは、旅のおもてなしをする側、受け入れる側のガイドさんの活動や思いについて語ってくださいました。

日置市の観光ガイドは現在17名いらっしゃるそうです。おそろいのオレンジ色のジャンパーを着て活動されています。フォーラムの際にはお茶やお漬物、そして手作りのかるかん(鹿児島の郷土菓子)などのおもてなしをしてくださいました。

案内実績 昨年は2818名

平成24年6月24日に発足した日置市観光ガイド協会。45歳〜82歳の17名で活動され、平均年齢は68歳とのこと。上に記した人数は、日置市観光ガイド協会の方々が実際に日置市内を案内された人数です。17名でこの人数のガイドをされているとは凄いです!年々着実に増えているのもいいですね。

ガイドする際には、自分でファイルを準備して自分の言葉で案内されているそうです。また、日置市の観光スポットやイベント情報などを提供するガイド通信は今回で60号を数えるとのこと。魅力的な観光地づくりには、ご当地ガイドさんの力が欠かせないですよね。

ユニバーサルツーリズム

ユニバーサルツーリズムへの取り組みもさかんな日置市。伊集院駅と東市来駅はバリアフリーに改修されています。また、ガイドさんたちは、車いすの方の視線を学んだり、伊集院駅を目隠しして探検したり、日置市社会福祉協議会と共同で企画した研修も行っているとのこと。

今年11月18日にはかごしまバリアフリーセンターの企画「ありば探検ひおきの旅」を日置市のボランティアガイドと日置市のヘルパーさんなど、オール日置で受け入れたそうです。「ありば」はバリアの反対、つまりバリアを探すツアー。今回は古民家やパワースポットとして多くのひとが訪れる千本楠などを探検したそうです。

バリアを探検して行けるところを探る旅。行きたい場所に行くために工夫を学ぶ旅。すごく魅力的な旅ですよね。

ブラインドマリンツアー

日置市では昨年11月、視覚に障害がある方がマリンスポーツを楽しめる「ブラインドマリンツアー」を開催しました。ツアーの3カ月前から盲導犬ユーザーのブラインドランナーを招いて話を聞いたり、迎える方々自身がアイマスクをして駅の階段を昇り降りする体験をしたり、おもてなしする上での注意点の講義をうけたり。準備を重ね、無事17名の視覚障害のある方を迎えたとのこと。思わずみんなが笑顔になるツアーだったそうです。

観光を「地方活性化」にまでつなげたい!と奔走中の古川さん。ガイドさんはもちろん、地域の方々も巻き込んでのツアーだったようです。カヌーショップのスタッフや、なぜか郵便局長、電気屋さんも。できるひとができることをやって、地域のひとたちと一緒につくりだすツアーの形はとてもいいなと思いました。

笑顔が見たくて

「おもてなしする側も楽しい」「わたしたち自身も楽しみながら案内している」と古川さんは語っていました。お客さまから元気をもらうとも。参加される方の笑顔が見たくてガイドを続けている方も多いそうです。

参加する側も受け入れる側も元気になれるツアーって素敵ですよね。

日置市観光ガイド協会では、おひとりでも、県外からも、シニアの方も、視覚に障害がある方も、聴覚に障害がある方も、どんな方でも、いついつ何時にとお伝えすれば、ガイドさんのできる範囲でおもてなしをしてくださるそうですよ。

生きることは楽しむこと

青森県八戸市で、介護事業所を運営しながら保険外サービスで「旅行支援」を実施されている池田さん。多くのアイデアをとり入れた取り組みは想像以上で、素直に楽しそう!と思いました。

株式会社池田介護研究所の Missionは「こどもからお年寄りまでのワンダーランド」、Visionは「自由と参加(社会)」、Valueは「当たり前であるか?」。人としての当たり前を標榜し、自分自身の意思により、自分自身で人生を彩る「父ちゃん母ちゃんに捧げる人生のセルフデザイン事業」は魅力満載の取り組みです。

セルフデザイン事業

介護が必要になる前と変わらない生活を実現するためには、「健康と美」「趣味活動」「生活」「お仕事」の4つの要素が必要と池田さんはおっしゃいました。池田さんの運営する「かなえるデイサービス まる」では1ヵ月のスケジュールをこの4つの要素を含んだプログラムで構成されています。

Health(健康と美)

残存機能の維持だけでなく自尊心の維持の助けにもなる「健康と美」のプログラムでは、ヨガやチェアエクササイズの他、ネイルやアロマテラピーも行うとのこと。「健康と美」の1番の目的は「女性の美意識を上げる」ことだそうです。おばあちゃんの美意識を上げること…正直わたしにはそこの視点はありませんでした。

Hobby(趣味活動)

見当識障害に対する訓練や意識を高める「趣味活動」では、おじいちゃんたちにどう興味・関心をもってもらえるかが課題と言われました。女性は何も働きかけをせずとも動く方が多いのに対して、男性は…。釣りや船に乗ること、温泉に行く際には食事もつけるなどの工夫をして、どうにかおじいちゃんたちの意欲を高めようとしているそうです。

Life(生活)

認知症や身体の障害で、買い物に行くことに不安をもっているお年寄りは多いです。「生活」のプログラムの中では、毎回全員に買い物サービスをしているそうです。「介護保険法では個人の買い物サービスはダメだから、集団でしてるんです」と池田さんは語っていました。厚生労働省にも確認したところ「どんどんやってください」とのこと。買い物はお年寄りにとっては大きな課題ですもんね。

Work(お仕事)

デイサービスで実際にお仕事をされている…ここが特に凄いなと思いました。利用者を主体として、デイサービスの農園でとれた野菜を漬物などに加工してパッケージングし、店頭販売まで行っているのです。フォーラムにも商品を持ってこられたので「いぶりがっこ」を購入しました。大根のぬか漬けを燻製にしたものだそうです。スモーキーな香りと味が病みつきになる一品でした!

マッチング事業

「かなえるデイサービス まる」が販売する商品は、「ぬか漬け」「はりはり漬け」「いぶりがっこ」「だし」「味噌」です。それぞれの商品は地域の事業者とともにつくっているそうです。

「ぬか漬け」「はりはり漬け」は、南部町の佐々木さんがやっている農園とのコラボでつくられています。「いぶりがっこ」は合同会社南部どきと、「だし」はDashi-factory 雅と、「味噌」は森田麹・味噌店と佐々木さんの農園とのコラボでつくられているとのこと。「事業者と利用者、事業者と事業者をマッチングすることで、青森県のいろんな方たちと出会うことができ、地域の様々なひととのコラボが可能になる」と池田さんはおっしゃいました。

GG・BBベンチャープロジェクト

「かなえるデイサービス まる」に通所されているお年寄りから商品の発想を募集して、大学・起業家・高齢者代表から選出した有識者委員会で、発案の中から3つの商品を決定。加工・販売を行って、1番実績を残した商品を表彰。発案者には売れた金額 × 1円が支払われるという「GG(じじ)・BB(ばば)ベンチャープロジェクト」。商品を1億個売り上げて億万長者を目指す、GG・BBドリームをつかむプロジェクトだそうです。

発想も面白いですが、それを実際に行い、事業にしていくことが本当に凄いと思いました。デイサービスに通う方々に「何ができるか」そして「どのようにして潜在能力を引き出すか」。

回想法を用いて、今まで利用者一人ひとりが経験したことや仕事、そしてアイデアを出してもらい、それをヒントにみんなのやりがい・生きがいに結びつける取り組み。凄く魅力的で、なんか楽しそうですよね。

東京販売旅行

池田さんが運営する事業所のひとつ「トラベルヘルパーセンター八戸」では、トラベルヘルパー準2級の研修を年1回行う他、介護旅行を請け負っているそうです。

今年は「かなえるデイサービス まる」と「トラベルヘルパー」をつなぐことで、東京に商品を販売する旅行が実現したとのこと。赤坂にあるアークヒルズのヒルズマルシェで漬物などを販売したそうです。

デイサービスで東京旅行。それも自分たちの商品を売って、泊まるのは帝国ホテル。正直、ぶっ飛んだ発想に思えますが、実現できているんですよね。実際に。

池田さんはこのようなことをおっしゃっていました。「できないことは多分ない。やろうと思うのとやる環境をつくれるかが大切」と。「一歩外に出ることから始めると良い」とも。

3名の講演を聞いて

濱田さん、古川さん、池田さん、3名のお話を聞いて共通して感じたのは、高齢者や障害者の可能性についてでした。できることをどう引き出すか、どう楽しむか、どう生きるか。非日常の出来事である「旅」を通じて、多くの気づきが見つかりそうだなと思いました。

講演された3名も含め、フォーラムに参加された方同士でもつながりができたと思います。小さなつながりが徐々に大きくなって、つながった方々がいろんなコラボを行って、全国各地で誰もが「旅」を楽しめる、そんな未来が近い将来くるといいなと思いました。

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