社会保険労務士ってどんな人なの!?人を大切にする企業づくりのため
社会保険労務士(以下「社労士」という)は、弁護士や税理士のように国家資格を持つ士業ですが、残念ながら、あまり世間的な知名度は高くないというのが現状です。社労士という士業が存在すること自体を知らないか、「名前くらいは知っているけど、、、」という方が大半なのではないかと思います。
そこで、今回の記事では、社労士がどのような存在で、どのような仕事をしているのかということを紹介させていただきます。
ざっくり
社会保険労務士とは
社労士を束ねる組織である全国社会保険労務士連合会のホームページでは、社労士について次のように紹介しています。
社労士の定義
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社労士は、社会保険労務士法に基づいた国家資格者です。
企業の成長には、お金、モノ、人材が必要とされておりますが、社労士はその中でも人材に関する専門家であり、「労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資すること」を目的として、業務を行っております。
社労士は、企業における採用から退職までの「労働・社会保険に関する諸問題」や「年金の相談」に応じるなど、業務の内容は広範囲にわたります。
職場や企業の悩みは、人を大切にする企業づくりの支援をしている、社労士にお任せください。
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簡単に要約すれば、税理士が「お金」に対する専門家であるように、社労士は「人」に関する専門家であるということです。
企業の経営者の方が「税金を安くしたい」とか「資金繰りを改善したい」とか考えたときに税理士に相談をするのはイメージできると思います。
人に関する仕事
それと同様、企業の経営者の方が「これまでは家族だけで仕事をしていたけど、はじめて社員を雇うとき何をすれば良いか分からない」とか「社員がうつ病になって出勤できなくなってしまったのだが、会社としてどのように対応すべきなのか」といったような悩み事が生じたら、是非、社労士に相談をしていただきたいということです。
そして、上記のような相談業務に限らず、「ハローワークや年金事務所への手続を代行してほしい」とか「給与計算を代行してほしい」といった、「人」に関する仕事を社労士にアウトソーシングしていただくことも可能です。
社会保険労務士の仕事内容や範囲
具体的に社労士が取り扱うことのできる業務の範囲は、社会保険労務士法という法律に定められています。社会保険労務士法第2条第1号から第3号までに列挙されているため、社労士の仕事は、「1号業務」「2号業務」「3号業務」があると一般的には整理されています。
書類の作成、提出代行
1号業務は、労働社会保険諸法令に基づく書類の作成、提出代行です。たとえば、「社会保険、雇用保険、労災保険への加入・脱退手続」「健康保険や労災保険の給付金手続」「助成金の申請手続」などが挙げられます。これらの書類を企業に変わって作成したり提出したりできるのは社労士だけで、無資格者や他の士業の方が行ったりすると違法になります。
帳簿書類の作成
2号業務は、労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成です。たとえば「労働者名簿・賃金台帳の作成」「就業規則の作成」「36協定などの労使協定の作成」といったような、社内に備え付けるべき労働関係の帳簿や書類を社労士が作成代行することができます。こちらの2号業務も社労士の独占業務となっているので、社労士以外は代行をすることができません。
人事や労務の相談対応(コンサルティング)
3号業務は、人事や労務に関する相談対応(コンサルティング)等です。たとえば、「労働トラブル解決に関する相談」「人事制度や給与体系の構築に関するコンサルティング」「社員研修の企画や講師」「年金相談」「メンタルヘルス相談」などが挙げられます。3号業務は幅広いですし、ノウハウがあれば高い報酬を得ることもできますが、非独占業務であり、社労士以外が行うことも可能ですので、とくに企業向けのコンサルティングや研修関係の業務については、民間のコンサルティング会社などとの競争も激しいです。
また、1号業務から3号業務のいずれにも含まれませんが、人事労務手続に密接に関連しますので、給与計算の代行業務を行っている社労士も少なくありません。
社労士業務のすそ野の拡大
ここまで説明をさせて頂いた「1号業務から3号業務+給与計算」が旧来からの社労士の伝統的な職域です。これに対し、近年は社労士が活躍できるフィールドは拡大している傾向にあります。
特定社労士
まず、「特定社労士」という制度が2007年から始まりました。これは、簡単に言えば社労士が弁護士の業務の一部を担えるようになった制度です。
社労士のうち、「紛争解決手続代理業務試験」という試験に合格した社労士は「特定社労士」と名乗ることができるようになります。特定社労士になると、従来は「3号業務」の一環として一般的な労働トラブルの相談に応じることまでしかできなかったのが、労働局のあっせん手続や和解交渉の代理人など、一定の範囲においてですが、労働トラブル解決のための代理人となることができるようになったのです。なお、特定社労士であっても、裁判や労働審判の代理人にまではなることはできません。あっせんや和解で労働トラブルが解決せず、裁判で白黒をつけなければならないということになった場合は、弁護士へのバトンタッチが必要です。
特定社労士ならではの視点
このように見ると、特定社労士は、何となく中途半端で頼りなく見えてしまうかもしれません。しかし、社労士は労働法だけでなく、雇用保険法や労災保険法などにも精通していますので、「今回のケースでは雇用保険から基本手当(失業手当)が手厚く出ますので、解雇は争わないということで円満に収められませんでしょうか?」とか、弁護士とは違った角度や視点から、円満解決を目指して交渉をすることも可能なのです。
得意分野を生かして活躍
それから、話題は変わりますが、近年のITの発達に伴って、主に若手社労士を中心にですが、ITを活用した企業のバックオフィス業務の効率化を支援する社労士も増えてきています。
具体的には、電子タイムカードの導入支援、WEB給与明細の導入支援、社内SNSを活用した従業員の活性化支援などです。働き方改革の動きの中で、効率的な働きかたを実現するニーズは高まっていますので、今後、大きな伸びしろのある業務領域であると考えられます。
あるいは、文章を書くのが得意な社労士は本やWEBメディアなどで執筆をしたり、話をするのが得意な社労士はセミナーや講演会などに力を入れたりなど、自身の得意分野を生かして活躍している社労士もいます。
まとめ
社労士業界において競争が激しくなっていることもありますが、お客様のためにより良いサービスや、新しいサービスを提供していきたいと考えて、伝統的な1号~3号業務や給与計算に縛られず、多種多様な分野で活動している社労士が増えてきているというのが、最近の社労士業界の状況です。
これからの業界の発展を、筆者自身も1人の社労士として楽しみにしています。
プロフィール
榊 裕葵(ポライト社会保険労務士法人代表)
大学卒業後、製造業の会社の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。その後、社会保険労務士として独立し、あおいヒューマンリソースコンサルティング代表に就任。勤務時代の経験も生かしながら、経営全般の分かる社労士として、顧問先の支援や執筆活動に従事している。
主な寄稿先:東洋経済、DODA、シェアーズ・カフェオンライン、創業手帳Webなど