きっと誰もが知っている、白いうさぎのミッフィー。
その顔はふたつの点と、ふたつの線を重ねたバッテンから出来ている。
シンプルを追求することで、見た人の心に焼きつく作品を生み出した、ディック・ブルーナ。
その魅力を掘り下げてみた。
ミッフィーが生まれるまで
10年ほど前。
初めてディック・ブルーナの展覧会へ出掛けたわたしは、その製作方法を知り、とても感動した。
その過程はこうだ。
・まずは下絵。半透明のトレーシングペーパーに、ひたすらスケッチをしていく。
納得がいくまで、何度も何度も。同じものを100回以上描くこともあったという。
・絵が完成すると、下に水彩氏を置いて下絵を鉛筆でなぞる。
そうして生まれた凹みに沿って、黒のポスターカラーをつけた筆で線にしていく。
点と点をつなげるよう、ゆっくりと少しずつ。
・その原画を透明ファイルに焼き付け、色紙を切り抜いて色をつける。
そして絵は完成するのだが、ブルーナさんのデザインは徹底している。
絵本のサイズは15.5×15.5cmの正方形。
文章もご自身が考え、シンプルなフォントで1ページに4行と決めている。
色は初期のころは赤・黄・緑・青の4色だったが、その後ミッフィーの友達の子犬や象を描くために、茶とグレーが追加された。
ミッフィーたちは色で感情を伝える。
カラフルでいて、まとまりのあるこの色たちはブルーナ・カラーと呼ばれている。
どの人も楽しめるブルーナさんの絵本は、考え抜かれたデザイン集でもあるのだ。
数年前にNHKの番組でディック・ブルーナのアトリエを訪ねたやつがあっての。ブルーナさんが絵を描いているところを見たんだ。
私は乱暴なので絵を描いてる時、線が流れがちなんだが、そのブルーナさんのことを思い出すことにしている。自分が欲しい線を引くのがどんなに大変なことかを考えて線を引く。— Tから始まる名前はたじま (@taj_h) 2017年11月18日
洗練されたデザインは、とことんアナログでつくられている!
そして、ミッフィーと並ぶ代表作、ペーパーバック・シリーズ(ブラック・ベア)。
その本の表紙も、ポスターもとても魅力的だ。
わたしは、表紙に載っているブラック・ベアのサインを見つけることも好きだ。
時に、キャラクターが持つ本のなかやネックレスのペンダントトップに、封筒に見立てたデザインのときは捺印のようにかすれさせて。
ブルーナさんの遊び心を感じる。
ペーパーバックのデザインだけで2000冊手掛けたというから、また驚く。
(さらに小説の内容はすべて読んでから、アイディアを練ったという!)
ちなみに、ポスターなどに登場する赤い目をした子ぐまは、紙をちぎって毛並を表しているそう。
最終日だったディックブルーナ展に行ってきた🐰シンプルの奥深さ。ブラックベアの本を読みすぎて目が赤くなったクマという設定かわいすぎ。 pic.twitter.com/vqPK0s7gpd
— みぞれ (@mizore_uta) 2018年1月21日
シンプルの、その先にあるもの
なぜ、わたしは感動したのか。
これほどシンプルを追求したのなら、その工程ももっとシンプルにできるのでは、と思ったからだ。
ミッフィーの線をじっくりと見てほしい。
※画像・文章ともに「ディック・ブルーナのデザイン(新潮社)」より
その線はブルーナさんの息遣いを感じ、同じ線は二度と生まれることはない。
ディックブルーナ名言:
絶対に絶対に描きすぎてはいけない、複雑にしすぎてはいけない。
そして、僕の作るものはシンプルでいて、見る人にイマジネーションを働かせるものでなくてはならない。 pic.twitter.com/Zzxmo0647m— ミッフィーTweet♪ (@miffy_2014) 2018年1月26日
なぜミッフィーちゃんは、いつも正面向きなのか?
→私の絵本の登場人物たちはいつも体が横を向いていても顔は正面向きです。嬉しいときにも、悲しいときにも目をそらすことなく読者の子どもたちと正直に対峙していたいという気持ちのあらわれなのです pic.twitter.com/L6DouJa2qp— ミッフィーTweet♪ (@miffy_2014) 2018年1月26日
ブルーナさんが追及したことは、あくまでシンプルに伝えることで、その先にいる相手に対して誠実に向き合い続けたのだ。
2017年2月、ディック・ブルーナは亡くなった。
しかし、手掛けた作品が色あせることはない。
シンプルなデザインゆえ、世代を超えて時代がどう変わっても愛され続けるのだ。
おだやかな笑顔が似合うブルーナさん。
その作品はブルーナさんそのもので、これからもわたしたちに笑顔をくれるだろう。