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失敗とはなにか?ネパールで生きるアンジャナさんの「でこぼこの道」

自立生活センター ポカラに勤める、アンジャナさんとヘムさんにお会いしてきました!

10月初め、ネパール・ポカラの自立生活センター 事務局長のアンジャナさん代表のヘムさんにお会いしました。
アンジャナさんはダイバーシティ・プロデューサーの小嶋美代子さんとともに、ご自身の半生と経験を綴った「でこぼこの道」を出版されました。
今回の来日はこの本の出版を記念して公演活動を行うためで、おふたりは11月まで全国各地を巡っております。
「でこぼこの道」、それは一体なにを意味しているのでしょうか。

アンジャナさんの「でこぼこの道」

アンジャナさんからプレゼントされたミサンガと

「でこぼこの道」の最初のページを開くと、このような言葉が書かれています。

ー ルーパさんとウシャさん、すべての失敗するひとと、失敗を応援するひとに贈ります ―

そう、この本はアンジャナさんの失敗談をまとめたものなのです!
自立生活センター ポカラの事務局長、そして障害者女性活躍推進センターも設立して代表を務めていらっしゃるアンジャナさん。
実際にお会いしたアンジャナさんは明るくて、自分の意思をしっかりと持った心強い人、という印象を受けました。
そのため、目次に並ぶたくさんの失敗の話に驚きました。

幼いころの失敗

アンジャナさんは私と同じ骨形成不全症という生まれつきの障害がありますが、3歳のころは歩くことも出来ていたといいます。

アンジャナさんが初めて車椅子を使用したのは19歳のとき。
幼いころは障害者である自分を認められず、車椅子を使用することに抵抗があり、学校の送迎は母親がおんぶしていたそうです。
「かわいそうな障害者」と思われたくなくて常に笑顔でいることを心がけ、友人にトイレを頼めず、学校にいる間は飲まず食わずで過ごしていました。
そのことを、アンジャナさんは「楽しい友達の失敗」と伝えます。
楽しい友達でいたい、お荷物になりたくないと過ごしていたこと、それが「失敗」だったというのです。

ダスキン 愛の輪基金、応募の失敗

また、アンジャナさんはダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業も受け、これまでにも何度か来日しています。
(日本語がとても流暢で、驚きました!)

※ダスキンの研修生制度については以前、ひふみよタイムズで取り上げています。

ドーナツの輪から広がる愛「ダスキン愛の輪基金」について | より良い社会を目指すメディア HIFUMIYO TIMES

その研修制度の応募についてもアンジャナさんは2度の失敗をし、3度めに合格しています。
1度めは準備不足、2度めの失敗もまさかの出来事!
その章は読みながら、小さく突っ込みました(笑)。
また共著者であり、アンジャナさんがお母さんと慕う小嶋美代子さんとは、ダスキン研修の報告会で初めてお会いしたそうです。

印象的なエピソード

学生時代のエピソードで、私が特に印象に残ったものは「面接の失敗」です。
アンジャナさんは大学に通いながら、事務の仕事もして自立生活の資金を得ました。
その面接で、面接官から
「この仕事を本当に車椅子で出来るのか」
「勉強がしたいなら奨学金を出せる」
などと言われたそうです。
アンジャナさんは言いました。

「私には今、仕事が必要で、これまで私が学んできた知識がこの仕事に適しています。(中略)厳しい仕事とわかってやりたいと言っている私に、楽しく遊んでくださいと言っているのです。冷たい水を飲みに来た人に、温かいミルクを飲んでくださいと言っているのと同じです。仕事の面接で、奨学金をあげますなどと言わないでください。」

アンジャナさんは事務の仕事に合格し、働きながら従妹と自立生活をし、大学も卒業しました。
実家からは高校が遠かったために同居した従妹は、アンジャナさんの生活の手伝いをし、アンジャナさんは従妹の高校の入学金をその給料で支払ったそうです。

私だったら、奨学金がもらえるなら…と面接官の言うとおりに動くでしょう。
そのほうが学業にも専念できるからです。
しかし、あくまでアンジャナさんは自分の生活を自分でつくることに重点を置いたのだと思います。
すべてのことを自分で行うのではなく、生活面は従妹に手伝ってもらい、また従妹が学校へ通えるように場所と学費を援助したことからも、その思いを感じました。

失敗ってなんだろう

社会へ出てからも、アンジャナさんの失敗は続きます。
この本を読みながら、私は「失敗ってどういうことなのだろう」と考えました。
アンジャナさんが語る失敗は時に何日間も泣き、悩みながらも前へ進む力になっており、一言で「失敗」といえないものだったからです。
そうして以前、取材させていただいた、NPO法人 自立生活センターてくてく 代表の川﨑さんの言葉を思い出したのです。
「失敗を経験することは大切です。
なにかあったらどうするか、責任は誰がとるかなど、周りの判断で失敗をする機会を制限されたり、奪われたりしてきた障害者は多いのではないでしょうか。」

障害者の未来は自分たちで変えられる!川﨑良太さんの闘い(2) | より良い社会を目指すメディア HIFUMIYO TIMES

失敗のない、カゴのなかの生活

ネパールには、今も家のなかに隠されて一生を終える障害者もいるそうです。
アンジャナさんは、本のなかでこう伝えます。

「カゴの中で育った人は、外に出て自由に飛ぶことを想像することもありません。(中略)私はネパールの障害者やその家族にそれを知らせなければなりません。なぜなら私は教育を受けたのですから。」
幼い頃のアンジャナさんは失敗しないよう、先回りして行動することに努めていました。
トイレや学校への移動は親がいてこそ成り立ったこと。
それはカゴのなかにいることと、そう変わりはなかったかもしれません。
外の世界は、失敗しながらも進まなければならない「でこぼこの道」。
失敗は自分で考え、経験できたことの証なのです。

ネパールの状況、差別について

「でこぼこの道」にはアンジャナさんの体験談とともに、上記のようなネパールの障害者の状況女性の待遇などについても書かれています。
(恋愛の章、切ないです…。)

女性差別

たとえば、ネパールは議員や経営などの一定数を女性に割り当てるクオータ制が定められています。
しかし、実際は男性がメインの社会で、女性の意見や問題は後回しになることが多いそうです。
障害者差別、法律上ではなくなっても今も残るカーストの差別、貧困の差別。
それらの差別は文化、習慣、仕組みとして根付いているので、すぐになくなることはないとアンジャナさんは話します。
それはネパールに限らず、どの国や差別についてもいえることでしょう。

自立生活センターポカラ 代表 ヘムさんのお話

また今回、アンジャナさんとともに来日したポカラの自立センターのヘムさんもご自身の体験を話してくださいました。
ヘムさんはポリオにより、アンジャナさんと同じく車椅子を使用して生活しています。
車椅子を使用していなかった学生時代は、家から学校まで這って通学していたそうです。
「犬がきた!」「サルだ!」と言われ、生徒も教師も冷たく、家族も協力的ではなかったと話しました。
それは社会にもいえ、日本の障害者年金と似た助成金があるものの、その金額はバスの運賃の2回分ほどで、生活できる金額ではありません。
また、生まれつきの障害はもって生まれてきたものとして今も家族のもとや病院で過ごす人が多く、中途障害のほうが補助なども優遇されると話されました。

ひとりひとりが手を取りあっていく社会へ

アンジャナさんが話すよう、差別は社会や人々のなかに深く根付いており、すぐになくなるものではないでしょう。
ですが…悔しい!
生まれた場所や状態、性別、文化や宗教。
自分ではどうしようもないことで人の価値が大きく変わってしまうなんて、とても悔しいのです。
同時にさまざまな背景があるなかで、自分たちやネパールの人々のために精力的に働くおふたりのことをとても誇らしく感じました。

私たちは皆、「でこぼこの道」を歩んでいます。
しかし、その道は自分自身の力で変えていくことができます。
失敗したり、立ち止まったり、後悔することがあっても、話を聞いて側にいてくれる存在や別の選択肢があることで、また変わっていきます。
どこの国でも、どの人に対しても、そんな社会であってほしいです。

失敗は外へ出て経験できた証。
といっても、自分が失敗したと感じたことを話すことは、やはりパワーがいるものです。
その失敗をユーモラスに書いたアンジャナさんの魅力ったら!
またいつか、おふたりと再会したいです。
そのときには、私自身も誰かに手を差しのべられる存在になれていたら、と思うのです。
「でこぼこの道」は、アンジャナさんの活動資金に充てられます。
興味をもたれましたら、ぜひ読んでみてください。
きっと、アンジャナさんの魅力に惹きこまれることでしょう。

本にサインも書いていただきました

・アンジャナさんの活動を知ることができます。

「でこぼこの道」Facebookページ
https://www.facebook.com/dekobokonomichi/

・「でこぼこの道」は、オンラインショップで購入できます

『でこぼこの道』ネット販売はじめました。 – ourshare
https://ourshare.jp/end-media/2018/07/19/dekoboko/

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