自分の肩口から相手の顎まで、一本の糸がピンと貼られている状態を想像します。
その糸に沿って、目の高さに据えられた自分の拳が相手の顔面に最短距離で届くよう、真っ直ぐな軌道を描いて左ジャブを打ちます。
当てる直前まで拳は緩めたまま、リラックスして確実に当てなければなりません。
相手の顎に届く瞬間、何かをつかむイメージで拳を固く握り、足腰をしっかりと固定させて上半身をねじり、肩を入れてリーチを稼ぎます。
当てたらすぐさま拳を再び自分の目元まで戻し、反撃に備えます。
ガードを固めたまま左足で踏ん張り、背骨を回転軸として上半身をねじり次は右拳を真っ直ぐ伸ばして右ストレートを打ちます。その際、バランスを絶対に崩さないこと。
同じく拳をすぐ戻し、左に回りながら距離をとって左フックまたは再びジャブで相手のバランスを崩します。
ボクシングジムに練習生として通っていたころに習った、初歩的なコンビネーションの打ち方です。
1970年あしたのジョーと、
1980年あしたのジョー2
共に杉野昭夫さん修正画 pic.twitter.com/CbkC8F4X3P— 野口征恒(ノグチマサツネ) (@Chom2Start) February 15, 2017
画像引用:社会のルールを知ったトキ
矢吹丈 vs 力石徹
本作品の主人公、矢吹丈が、永遠のライバルである力石徹に初めて出会ったのは少年院の中でした。
力石はプロボクサーとして活躍しながら、試合中、観客の挑発に乗って暴力事件を起こしてしまいます。
ボクサーの拳は凶器とされ、力石は特等少年院送致となったのです。
一方の矢吹丈は、鑑別所に送られていましたが、そこで受けた性格テストで「利己的、残忍、非情な性格」との判断を受けます。
その結果、ジョーも力石のいる特等少年院に送致される結果となりました。
ある日、院内で飼育中の豚が脱走し、ジョーはこれに乗じて少年院からの脱走を試みます。この脱走を阻んだのが力石でした。
力石は強烈なパンチで豚をなぎ倒し、ジョーの脱走は失敗に終わります。
少年院にいるジョーのもとには、ボクシングを始めるきっかけとなった丹下段平からの、ボクシングを指南するハガキが届いていました。
そのハガキのとおり、ジャブの打ち方を徹底的に練習していたジョーのパンチを力石は冷静にかわします。
そして、まだきちんと教わっていないアッパーカットをジョーが出した瞬間、力石は造作もなくカウンターを放ち、ジョーは崩れ落ちるように倒されます。
傍目には力石の楽勝となった少年院での喧嘩でしたが、力石はひっそりとつぶやくのです。
「初めのジャブはプロ級なのに、その後のアッパーは全くの素人だ。訳が分からん」
ジョーの持つボクサーとして才能が、プロボクサーである力石の言葉から垣間見えるシーンです。
#あなたにとって最高のアニメ第1話は
『あしたのジョー2』いつも貼ってるので気が引けたけど、この1話はイイゾ~。 pic.twitter.com/fu3LeKeZGk— 爾百旧狸 (@zimoguri) February 16, 2017
画像引用:社会のルールを知ったトキ
少年院、ドサ回りのボクサー、東南アジアからの輸入ボクサー
『あしたのジョー』はリアルな試合シーンが劇画超で描かれ、その迫力には鬼気迫るものがあります。
ボクサーの表舞台である試合の場面に加え、この物語には社会の暗い部分も精緻に描かれています。
鑑別所でジョーが受けるリンチのシーン、正式にボクシングコミッションの認定を受けない見世物のボクシング興行の様子、金を稼ぐためだけにかませ犬を引き受けることが決まっている貧しい輸入ボクサーなど、華やかな世界タイトルマッチだけがボクシングではないことが赤裸々に描かれます。
ここには、原作を担当した梶原一騎の意図が反映されています。
「暗い部分を描くことで、明るい部分が浮き彫りになる」
闇の部分を描く重要性が、ちばてつやによって具現化されている作品が、あしたのジョーでもあるのです。
主人公が苦しみ続ける様子を描くことを避けない
少年院を出所したジョーは、先に出所した力石との正式な試合が組まれることとなります。
2人はもともと体格がまったく違い、はるかに長身の力石がジョーの階級まで、およそ不可能と思われる減量をします。
過酷な減量は激しいトレーニングだけでは足りず、絶食と汗を搾り取る行為に及び、最終的に力石は水分を断つのです。
真っ暗な夜、水滴の音に反応した力石が狂ったように水道に向かい、針金でぐるぐる巻にされた動かない蛇口を目にするシーンは、残酷という点で秀逸です。
試合は力石が勝つのですが、ジョーが放ったテンプル(こめかみ)への一撃および常軌を逸する過酷な減量を理由に、力石は試合後に死にます。
ジョーは自分のせいで力石を殺してしまった罪の意識にさいなまれ、その後の試合で対戦相手の顔面への攻撃ができなくなってしまうのです。
頭部へ攻撃しようとすると、自分が殺してしまった力石のことを思い出し、トラウマからリング状で吐いてしまいます。
ボディーへの攻撃だけで試合には十分勝てるのですが、ジョーの心理的な弱点は格下相手の敗戦につながり、ついに見世物小屋の草拳闘にまで落ちぶれていきます。
画像引用:社会のルールを知ったトキ
画像引用:社会のルールを知ったトキ
『あしたのジョー』は、ジョーの成功物語を描いただけの漫画ではありません。
どちらかというと、ジョーは成功していないのではないでしょうか。
作品中には、ボクサーの哀しみや、山谷といわれるドヤ街に暮らす人々の生活が生々しく描かれます。
今では禁止となっている表現も多く使われており、主人公の華やかな成功だけ見たい、という読者には、お勧めできません。
しかし、それを補って余りあるリアルな描写は、言葉が出ないほどの感動を与えてくれるでしょう。
最終的にどうなるのか、あまりに有名な漫画のため隠す必要もないとは思いますが、ここではそれは伏せておきます。
ボクシング以外の要素もとてつもなく多い漫画で、ジョーのライバルである力石徹が死んだ当時、本当に力石の葬式が行われたという話も有名です。
テレビシリーズ、劇場版アニメ映画、実写映画にまでなった、高森朝雄(梶原一騎)原作、ちばてつやの代表作『あしたのジョー』は、今読まれても十分に共感を得られる内容になっています。
いろいろな境遇に身を置く庶民の生活を中心に、その中でボクサーという人生も描かれる本作品は、弱い立場に置かれた人たちへのやさしさに溢れた作品になっています。
http://www.geocities.jp/takahajime2003/eiga-jyo-1.html
via:あしたのジョーTOP
via:語り部のほとりで
http://news.kodansha.co.jp/20160515_c03
via:講談社コミックプラス
via:社会のルールを知ったトキ
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