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2024/11/10:フリーペーパーvol.104発刊!

訪日外国人労働者との出会い、親切と迷惑のはざまで

ある朝、いつものバスに乗り込んだら、大きな旅行かばんをいくつも抱えた男女2人組が、そわそわと周囲を見回しながらブツブツと互いに話し込んでいました。

彼らの席はバス車内の細い通路を挟んで私のすぐ斜め前にあり、そこから訛りのある英語が聞こえてきました。言葉の感じや外見から、東南アジアからの訪日外国人だろうと思いました。

彼らのすぐそばに座っていた女性が英語で「ナイン、ナイン」と質問に答えていました。「(時間を尋ねているのか?)」と思った私は、そのとき午前9時19分だったから「ナイン・ナインティーン」と教えてあげました。

すると、2人組の中の女性が私の席のすぐ前の空いた席に移り、次々と英語で質問してきました。

フィリピンからの出稼ぎ

彼らはフィリピンから、カツオの水揚げで全国有数規模の枕崎漁港を持つ鹿児島県枕崎(まくらざき)のカツオ加工工場に出稼ぎに来ている工場労働者の夫婦でした。

工場から許可をもらい、たくさんのおみやげを持ってフィリピンの親類のもとに帰省する途中とのことでした。鹿児島中央駅から新幹線で博多駅へ向かい、地下鉄で福岡空港へ行って、飛行機でフィリピンに帰るという道筋でした。

女性は新幹線の乗車券を私に示し「これで行けるのか、時間は間に合うか」などの質問をしてきました。同時に、彼らの職場の同僚が書いたのであろう旅程の時刻に関するメモも渡されました。

メモの内容から、鹿児島中央駅到着時刻にあと10分しか無いことを知り「間に合わない」と伝えました。

しかし、ネットで調べた時刻表とそのメモの内容を見比べるうちに、そのメモはフィリピン人の彼らが新幹線に乗り遅れないよう、定刻まで10分程度の余裕を持たせて日本人である工場の同僚が時刻を早めに設定して記入したものだと、徐々に分かってきました。

バスは私が乗った時点ですでに10分遅れており、彼らが鹿児島中央駅前のバス停に到着するのはさらに遅れて定時の15分後だろうと予想できました。私は、数年にわたって同じバスに乗っていましたから、その辺のことはすぐに分かりました。

時間のことを伝えると同時に、彼らの乗る新幹線指定席の発車時刻を見ました。発車までまだ1時間の余裕があり、バスは遅れているけど十分間に合うと伝えました。

乗車券に記載された正式な発車時刻を見て安堵し、
“You have one hour to get on the Shinkansen. It is enough for you to be in time for the departure.”
(新幹線発車まで、まだ1時間あるから、十分間に合いますよ)」と伝えました。

あまり正確な英文ではないのですが、2人は理解してくれたようでした。

年に一度の帰省だから

鹿児島中央駅も近づき、私もその駅で降りる予定でしたから、「一緒に降りましょう」と伝えました。次の質問は、バスの運賃がいくらかというものでした。

車内前方の電光掲示板に表示された、乗車時の整理番号に該当する金額を支払うことを伝えました。

彼らは私の英語を理解してくれましたが、持っていた現金はお札のみ。私は両替するよう伝えました。2人合計で1860円くらいだったと思います。

薩摩半島南西部に位置し、東シナ海に面している本土南端の枕崎市からの乗車で、彼らはけっこうな長距離を乗車していました。

無造作に千円札を3枚、私に渡し、「これで足りるのなら、あなたの運賃まで含めて、このお金で払ってください」と言われました。

そのお金は、彼らが家族と離れ、知らない国へ来て、必死に働いて稼いだお金ですから、私にはもらえません。というよりも、障害者の私は無料パスを持っていましたから(笑)。

千円札を1枚だけ受け取り、「ちょっと待って」と伝えて代わりに運転席横の両替機に向かいました。しかしその千円札にはたくさんのシワが寄っていて、機械になかなか入らず戻ってきました。

そのとき、運転手がどこかのスイッチを操作し「どうぞ」とボソリと言いました。お札はすんなり両替機に飲み込まれ、小銭が出てきました。

運転手は無表情のまま、仕事に集中していました。
「(ありがとう、運転手さん)」

親切と迷惑のはざま

規定の金額だけ「これで2人分ですからね」と伝え、手のひらに置きました。残りもきちんと渡しました。

あとはバス停への到着を待つだけでした。
しばらく、無言でいられることにホッとしたのを覚えています…。

鹿児島中央駅前のバス停に到着すると、彼らは5〜6個の大きなキャリーケースを運び出していました。なぜだかわかりませんが、私はそれを手伝いました。

自分の荷物も持っていたのですが、空いた両手で大きなキャリーケース2個をガラガラひきずり、駅改札のある2階へのエレベーター乗口まで、約200メートルの距離を彼らと一緒の訪日外国人のように、運びました。

私も汗だくになってしまい「なんでこんなことしてるんだろ」と苦笑いしてしまいました。額から汗を流し、エレベーターで上がっていく彼らを見送り、それから私も、自分自身の目的地に向かったのです。

バスからの荷物の運び出しにも随分時間を使いました。その間、他の乗客の方々は苦情も言わず、待ってくれました。私自身も、関係の無い他の乗客の一人ではありますが…。ご迷惑をおかけしたと思います。

私自身、かつては路上で外国人を見つけては話しかけ、「自分は英語を勉強しているので、どうか練習相手になってくれませんか」という趣旨のお願いをし、何度も受け入れてもらった記憶があります。

公園の芝生の上だったり、電車の中だったり、書店の書棚の前だったり、不審者と思われてもおかしくない数々の挑戦を繰り返していました。

そのような記憶があるから、私は外国人に親切にしてしまうクセがあるのだと思います。今までの恩返しです。

もちろん、これで具体的に英語力が向上するわけでも、何かの試験に合格できるわけでもありません。どちらかと言うと「雑な英語を覚えてしまう」といった、悪影響を及ぼす恐れもあります。

でも、今では度胸もかなりついたし、外国人だから緊張するということもありません。
私のしたことが親切だったのか、他の乗客への迷惑だったのかは、今でも分かりません。

しかし、こういったことが自分に出来るのなら、それは多くの人が出来るようなことでは無いのかもしれないし、実践して少しでも自分の人生を密度の濃いものにすればいいのではないかと思うのです。

ただ受け身に生きて、プラスもマイナスも無い人生に何年も甘んじるくらいなら、少しでも色のある人生を送らなければ、つまらないと思うのです。

単に真っ白でいるよりも、はるかに「まし」、だとは思いませんか?

via:Hatena Diary

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