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なぜあの人は黙っているのか?

あの人と話して黙っている理由が分かったこと

こちらが相手に何か話しかけても、相手が頷くだけで黙っている場合があります。

この沈黙にはいろいろなケースがあると思います。

すべてを拒絶している場合、答えを保留している場合、あるいは答えはあるけど、こちらを慮って黙っている場合、などなど。

その中で、僕が非常に印象に残ったケースを書こうと思います。

Mさんは黙っていた

僕がこの事業所に来て、お世話になっている二十代の若いスタッフのMさん。

彼はいつも僕が言いたいことをまくしたてていても、黙って頷きながら聞いています。

すぐに返答する場合もありますが、それは答えが早急に要求される場合。

僕の問いかけが急な場合でない限り、「そうですね」とは時々返してくれたりはしますが、いつも微笑を浮かべながら黙って聞いています。

こういうケースがありました。

僕がひふみよタイムズの記事を入所まもない頃書いていた時です。

僕はその頃、自分自身の内面を投影したキャラクターを通して、その中の二人のキャラクターのやり取りで、いじめやマウントを日常でとる場合のことを書こうとしていました。

一人のキャラクターがもう一人のキャラクターにやりこめられて泣くシーンが、何かひふみよタイムズの記事にふさわしいように感じていました。

今思えば、ひふみよタイムズの、障がいのある立場から自分たちの書けることを率直に発信しようというコンセプトから外れていたように思います。

でも、僕は逆にそのやり取りがエッジが効いたものだとその時は思い込んでいて、そのMさんに得意気にその下書きの原稿を話しながら見せていました。

Mさんは頷いたり、相づちを打ったりしながら黙って僕の話を聞いていました。

決して否定したり、話を遮ったりしません。

僕の話に区切りがつくのを待っています。

僕はしきりに自分の話をした後、Mさんに勢いよく「どうですか?」と尋ねました。

Mさんは微笑みを浮かべながら「いいですね」と言いました。

そして、「ひふみよタイムズの担当のUさんに掛け合ってみますね」と言ってくれたのです。

また、僕が特に強調していたその二人のキャラクターのやり取りをオオパチさんのオリジナルの個性が出ていますねと褒めてくれたのです。

だから、僕はその下書きの原稿が最終的にボツになったのがほとんど苦になりませんでした。

このMさんの沈黙しながら聞いていることは、僕の理解に努めるものであり、相手を配慮した沈黙だと思います。

もし僕がMさんの立場だったら、もし僕のようなケースの人が話した場合、「それは違います」と沈黙を破って相手を遮るかもしれません。

皆さんもこんな相手の沈黙があって、自分の話が満足に話せたと喜べたことはありませんか?

最終的に自分の話が却下されたとしても。

 

Mさんが語った本当の理由

この記事の草稿を書いた後、その文章をMさんに読んでもらい、感想と意見を聞く機会がありました。

Mさんはその下書きを読んだ後、しばらく黙って考えていました。

僕への感想として、どんな言葉がふさわしいか? あるいは相手を傷つけないで自分の本意を伝えるにはどうしたらいいか? そんなことを考えているように僕には見えました。

Mさんのその時の返答として印象に残っている言葉があります。

「僕はただ黙っているわけではなく、相手の言葉を聞いているんです」

それに続いて、こうも言っていました。

「僕は決して、いつも黙って聞いているのが好きなわけではないんです。普段はむしろ自分の話をする方が好きなんです。でも、この職場に入って、自分の話したい言葉があっても、みんながみんな他人にうまく伝えらえるわけではないことを知ったんです。だからここでは黙って相手の話を聞くようにしているんです」

僕はMさんの話を聞いて、普段は分からなかったMさんの心のうちが少し分かったような気がしました。

僕の言葉で言えばMさんには相手を受け止めようとする優しさがあります。

それはテクニックとか生来のものであるとは僕は思いません。

Mさんはこっそり障がいを抱える幼馴染がいることを教えてくれました。幼少期はよく一緒に遊んでいたけど、年を重ねるにつれ、次第に距離をとるようになってしまったことも。

僕は思うのですが、Mさんにはそんな負い目があったから人に優しくなれたんだと思うんです。

人が黙っていることにはいろいろなケースがあります。

でもMさんのような相手への配慮からくる沈黙。

――それは誰でもできるわけではないけど、大切なものなのではないでしょうか?

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