前回のあらすじ
コンビニにて偶然、学生時代の親友、龍に再会をした翔。
昔とはまるで別人になっていた彼に連れられ、古びた喫茶店へ。互いに話をする中で、ついにバイトを始めたという龍は、昔の自分と今の自分の根っこは変わっていないと言って……?

根っこは変わっていない、か。俺は頭の中でその言葉を繰り返す。思い出されるのは過去だ。

肌を撫でる風、散る薄紅色の花弁。皆、時を惜しむようにして、友人たちと言葉を交わしている。

俺の隣に立つ龍も、ぽつぽつと言葉を落とした。

「終わっていくなあ」

「何がだよ、これが最後じゃあない」俺がそう言うと、

「最後だろ。この瞬間には二度と戻れないんだ」

「そりゃあそうだけど、まだまだ人生はこれからだ。先を見ろよ」

すると、龍は、地面に落ちていた小石を軽く蹴った。そうして、俺の顔をチラリと見る。

彼の瞳。全てを見透かすかのような、目。

「お前は、就職が決まっているから、そんなことが言えるんだ」

「龍は、就活をしなかっただろ」

「そうだ、だから俺には、過去と今しか見えない」

龍は、俺を見たままで、そう語る。否、もしかすると、俺を見透かして、その向こう側まで見ているのかもしれない。

そう思った。

冬に春 第三章
彼のライオンのような髪が、風になびいている。龍は時々、俺とは違う星にいるような雰囲気を出すのだが、その訳が俺にはよく分からなかった。

何故だ? 考えていると、龍が口を開く。

「本来、先なんて、見ようとしても見えないはずなんだ。それでもお前は、就職が決まって、未来の地点はひとまず見えている。俺はどうだ? 正直、まだ悩んでいるよ」

それだけ言って、でも、と、

「沢山の時間があることは分かっているんだ。だから俺はこれからも考えるよ、焦る必要はない」

龍は一言一言噛み締めているようだった。

まるで自分に言い聞かせるように。

 

「……なあ、翔」

声に、視線を上げると、そこには黒髪にパーマをあてた男が座っていた。

「さっさと食えよ。不味くなるぞ」

お前みたいにな。なんて、彼は言って笑う。嫌味なやつ。そう思って、タイムスリップしていた思考が徐々に戻ってくる。

「俺が、変わったように見えるか?」

その言葉に頷くと、龍は呆れたようにして息を吐いた。

「相変わらず、表面に囚われやすいヤツだなあ」そう言って、彼は頭を掻く。

「どこがだよ」少しムッとして、言うと、

「俺の見た目と、働いているという事実……お前は表面だけを見ている。その2つのハリボテに囚われて、俺がまるで別人のようになってしまったと思っているはずだ」

けどな、と不意に龍の言葉が強くなった。

「俺は俺のままなんだ。働くって、何だ? って、まだ迷っているくらいだからな」

「え?」

思わず、そうこぼすと、龍は笑ったような表情でこちらを見ている。

「おいおい、俺が吹っ切れてバイトでもしていると思ったか?」

 

確かに、変化がないと生きていけない男だけどよ。まるっきり変わってしまったと思うな。

そう言って、彼は少し眉根を下げた。

そうして、

「今も、根っこは変わってねえ。逆に言えば、気が付いたんだ。悩み、迷い続けることも、俺の根っこなんだって」

 

text by Suito Aoi|蒼井スイト
Illustration by Iwasaki Sisters|いわさきえりこ・いわさきまりこ