よこしまな卵焼き
高い食材使ってそりゃ美味しいだろう料理作ってドヤドヤする男ってどうなの?
男という生き物はムダに凝った料理を作りたがる。
ナポリタンでいいのにペペロンチーノにし、水炊きでいいのにもつ鍋にしたがる。あとチーズを多用したがる。もちろん全て私だ。女の子にはかっこつけたい。
だが、こと一人分となると作るものが全然違う。庶民的な――けれども安くておいしい――料理にシフトする。
そしてその庶民的な料理の中で半人前として認められるラインが「卵焼きを上手に作れるかどうか」だと思う。
おいしい卵焼き
卵焼きは、一見簡単そうだが実はとても難しい。初心者はスカスカになりやすいし、味もよくない。
ほとんどの人のお弁当に入っているから、職場に弁当を作って行くと女の子が覗いてくる。だから多分卵焼きが上手い男はモテる(気がする)。
私は試行錯誤を繰り返した。はじめにフライパンをよく温めたし、ちゃんと濡れた布巾の上にも置いた。油引きもマメにし、冷めてもおいしくなるといわれるマヨネーズも入れた。
だが上手くならない。きちんと料理をする人と比べると全然違う。
ハム、ネギ、にら、そしてツナと、色々混ぜることで誤魔化したりもしたが、やはりシンプルにおいしい卵焼きが作りたい。
何十回、何百回と繰り返すうち、いつのまにかモテたいという気持ちがなくなり、真摯に料理と向き合うようになっていた。邪心を捨て、一つひとつの動作を作業としてではなく、まごころを込めて丁寧にした。
すると、なんということだろう、卵焼きが劇的にうまくなったのだ!……とは残念ながらならなかった。邪心を捨てても難しいものは難しかった。
もしかしたら、凝った料理は実は女の子と付き合ったあとはそこまで求められていないこと――「お金かければおいしくできるに決まってるじゃん。わたしだってできる。こちとら“安くておいしい”を普段は求めてんだよ。凝ったの作って威張ってんじゃねぇ」ーーと女の子が思うことを知っていて、あえて庶民的な料理を勉強した私の深層心理を見抜かれたのかもしれない。邪心を捨てきれていないの見抜かれていた。つらい。
卵焼きが私に応えなかったのではない、私が卵焼きを愚弄したのだ。
『キャベツ炒めに捧ぐ』に出るお惣菜屋の還暦女性たちみたく、本当においしい家庭料理を作るには、やはりまごころが大切なのだろう。
そしていくらまごころを込めても、練習しないと上手くならないのな。
料理に勤しむ世の中の皆様、いつもお疲れ様です。なぜだか上手く作れんのです。中身がスカスカになるのです。私は料理男子です。
本文中でちらっと出た本のタイトル
『キャベツ炒めに捧ぐ』井上荒野/著
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