私の紙もの偏愛歴
誰からも理解されることのなかった青春時代、私のそばにはいつも本があった。
読書、スクラップブック、創作活動。紙に親しみ、ことばと遊び、書くことを通じて自分を見つめ続けた私の追憶の記録。
ことばを旅する
私の身近にはいつも本があった。幼い頃寝る前に母がオリジナルのおとぎ話を聞かせてくれたし、動物の辞典や国語辞典などが家に常置されていたのを覚えている。いつも本に囲まれていた。母の本好きの遺伝子はしっかりと私に受け継がれていた。
図書館や書店にもよく通った。エッセイ、歴史書、絵本、児童書、詩集、ミステリー、などジャンルを問わずことのはを探し求め、本から本へと渡り歩いた。気に入った本があれば書店で購入し、著者の軌跡に思いを馳せた。
本のページをめくる音、紙とインクの匂い、静穏なひととき…。図書館は空調が効いているため、快適に過ごせる。冬などは暖かくまるで繭の中にいるような心地よさだった。その繭のゆりかごは空虚な私を慰めてくれた。
ことのはあそび
読書中、意味が分からない単語はすぐに調べ、気になるキーワードがあるとそのジャンルの本に当たった。ネットサーフィンならぬ本サーフィン。心に響いたフレーズや、和歌、詩などを書き抜いた。そうしているうちに一冊のノートが出来上がった。
欲しいものや行きたい場所のリスト、料理のレシピ、アーティストの歌詞などを書き続けた。真っ白なノートを、心を、美しい音を奏でることのはで満たしてゆく。それはなにかの治療行為のように感じた。
本の書き抜きをしているうちに、飾り線を描くようになった。オリジナルの図案を考えたり、絵を描いたりと工夫を凝らした。次第にマスキングテープや、シールやステッカーでデコレーションするようになった。
そうぞうあそび
雑誌や画集も好きだった。ファッションやライフスタイル、外国の童話作家の画集を好んだ。毎号購読していたわけではなく、気になった雑誌をたまに読むというスタイル。装丁や色使い、文章などをじっくり観察した。
モデルのコーディネートやインタビュー、インテリアのアイディアの記事を切り抜き、ノートに貼っては眺めた。訪れたお店のショップカード、綺麗な包装紙やシールをコレクションし、本の挿絵やイラストを描いた。
自分の好きなものを集めて、切り貼りするのは愉しい。ページをめくるたびに好きなもの、美しいものが語りかけてくる。鈍色の現状を忘れ、世界に浸ることができる。儚く淡い青春の憧れを、自分だけの理想の箱庭を、一冊のノートに求めた。
一冊の本
本棚には色あせるまで何度も繰り返し読みふけった本が並んでいる。どの本も私の人生に寄り添ってくれた大切な存在だ。本を読むことは著者と対話することでもあり、見知らぬ世界へ旅をすることでもある。ひとたびページをめくれば、夢中になってしまう。
「ノート遊び」には決まりはなく、感性のままに愉しむことができる。そういったカジュアルさが心地よい。紙に書き、切り、貼る。手を動かしていていくうちに、単語と単語が溶け交じり合い、アイディアが浮かび上がってくる。懐かしさを帯びた色、フレッシュな色、モノクロ…言葉と色から自由に描いていく。
一冊の本と出会い思考が変わるように、書くことで人生は変わる。その祈りにも似た神聖な行為を通して、自分の心髄が見えてくるのではないだろうか。