鹿児島県にある精神疾患の当事者による出版社・ラグーナ出版
鹿児島県には世界で初めての精神疾患の当事者による、当事者のための出版社がある。その名はラグーナ出版。ラグーナ出版は2008年に設立され、2006年に誕生した代表作の文芸誌、『シナプスの笑い』はついに50号を達成した。ラグーナ出版のモットーは地域で精神疾患の当事者がのびのびと暮らすことで暗い日々の灯台の明かりになれるよう、製作している。
中井久夫先生との出会い
鹿児島市の出版社「ラグーナ出版」は、精神的な不調を抱える人たちが主役の雑誌づくりなどで知られています。社長の川畑善博さんは、鹿児島の高校から東京の大学に進み、塾講師や出版社の営業職を経て帰郷。出版社を興した経緯をたどります。https://t.co/JFGiDkWi9x
— 朝日新聞アピタル (@asahi_apital) March 27, 2023
ラグーナ出版の設立には重大な立役者がいた。その人の名前は昨年亡くなった中井久夫先生。統合失調症の分野では第一人者である。中井久夫先生と共に製作した著書、『中井久夫と考える患者シリーズ』(全4巻)は重版になり、精神医学界に大きな反響を呼んだ。
中井久夫先生は住んでいる神戸から新幹線で鹿児島まで立ち寄り、度々患者職員と話をしていたという。ラグーナ出版を応援している著名人にはノンフィクション作家の最相葉月さんや作家の帚木蓬生さんなど多岐に渡る。中井久夫先生はその中でも最もラグーナ出版を気にかけてくれる良き理解者でもあった。
数多くの精神疾患の当事者からの投稿
今回は、ひきこもり支援の窓口となる事業所や組織を取材。また、貴重な当事者体験談も紹介し、脱出のきっかけを探る。座談会では「安定期を長続きさせるには」をテーマに不安な時の…【シナプスの笑い vol.42】ラグーナ出版 サイトより https://t.co/bjAVShLhLH 10/15の新刊データから #精神医療 pic.twitter.com/W100R6d3iZ
— 地方・小出版流通センター (@local_small) October 19, 2020
『シナプスの笑い』には数多くの精神疾患の当事者からの投稿作が掲載されている。北は北海道から南は沖縄まで全国各地から投稿される作品は、精神疾患の当事者の日々の生きづらさや心情が丁寧に書かれている。精神疾患の当事者の書いた言葉を印字された著作物で読める機会もそうはない。
私は『シナプスの笑い』を読むととても安心する。自分だけが一人じゃない、と思えるのだ。投稿した患者さんの人生も見渡せる。いつも苦しい時は常に自分が天涯孤独のように感じるが『シナプスの笑い』を読むとそうじゃない、と感じられる。
患者さんに寄り添う文芸誌として
『シナプスの笑い』はこれまで様々なテーマを扱ってきた。代表作の短歌集の『風の歌を聴きながら』は何十年も閉鎖病棟に入院していた東瀬戸サダエさんの特集であったり、その短歌集を元に漫画化もされたりした。中井久夫先生の特集はもちろん、ドキュメンタリー映画の『精神』の監督との対談やべてるの家の創設者の向谷地生良さんとの対談も掲載された。イタリアでの精神医療の特集や精神科病棟の売店の特集などもあった。これら50号全ての『シナプスの笑い』は一部を除いて全てバックナンバーが揃っている。数多くの精神疾患の当事者による投稿作も見逃せない。
拙作も連載中
実は私自身の作品も『シナプスの笑い』の44号から『夕暮れ散歩』という作品を連載している。『夕暮れ散歩』は小説の作品で何度目かの精神科病棟に入院していた、若い女性が外出先に出会った喫茶店の人たちとの出会いを通して心を通わす、というストーリーだ。現在、第7話まで連載しているが、これから佳境に入るので投稿者としても楽しみだ。
今どき、本が売れない時代なのに、素人の自分の作品が活字になって全国の書店に売られるなんて、私自身が入退院を繰り返していた10代の頃からすれば、想像もしなかった。
『シナプスの笑い』は今でも随時募集中だ。資格は精神疾患当事者、その家族、関係者だ。鹿児島には類を見ないユニークな出版社がある。ラグーナ出版の活躍を見守りたい。