尼崎市南塚口町のピッコロシアターでは8月初旬、ミュージカル「オズのオジさん やーい」(別役実作、平井久美子演出)が上演された。劇場内には3頭の盲導犬、視覚障害者33人が音声ガイドを頼りに鑑賞に訪れていたという。ピッコロ劇団が視覚障害者の鑑賞をサポートする目的で昨年に続いて開催したものだ。
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開演の30分前から状況の説明が音声で流される。放送はフリーアナウンサーの吉富順子さんが担当し、舞台装置や登場人物などが詳細に説明される。劇が始まると、舞台の上の状況もひとつ一つ丁寧に説明される。専用のレシーバーが使われるため、一般の鑑賞者に吉富さんの声が聞こえることはない。説明と舞台の上の状況が重なると分かりづらいため、状況説明を差し挟むタイミングが難しいのだそうだ。
そのため準備は入念に行われた。
この作業はとても難しく、吉富さんは準備を重ねてきた。7月14日には劇団を訪れ、稽古(けいこ)を見学し、舞台装置の図案を見てイメージをふくらませた。通し稽古の録画を劇団に送ってもらい、それを見ながら、練習をしてきた。「生の舞台はどうしても当日に変化があるので難しい。どれくらいのことを説明し、あるいは説明せずにおくかも判断の分かれるところ。迷うことも多い」。吉富さんはこの分野の第一人者だが、毎回、試行錯誤のようだ。
舞台が終わると観客と交流の時間を設けた。出演者が役と衣装について説明したり、衣装に触れてもらったりした。
神戸市東灘区の視覚障害の女性(48)は「初めて参加したが、状況放送はタイミング良く入れてくれて、内容もよく分かった。衣装に触れる機会があったのも良かったと思う」と笑顔で話していた。
ピッコロシアターでは落語会も開いている。音声ガイドはないが、視覚障害者の来場が増えているようだ。
今回の作品は名作「オズの魔法使い」を下敷きに書き下ろした新作ということで、ちょっと風変わりな「オズの魔法使い」が、歌あり・踊りあり・笑いありの生の演劇を、音声ガイドつきで楽しむ事ができたと喜びの声も多い。
障害者差別解消法が施行され、バリアフリー化の動きは進んでいる。困難を伴いながらもこうした取り組みをコツコツと積み重ねていくことが将来的にも意味を持つ。
7月5日には劇場スタッフがアイマスクをつけるなどして、視覚障害者の誘導の訓練をするなど準備には時間をかけた。昨年の作品は再演だったが、今回は初演作品。緊張感があったようで、上演が終わると、ほっとした空気も流れた。
新しい挑戦は、試行錯誤することに意味がある。劇団員の努力は計り知れない。
ミュージカル「オズのオジさん やーい」は、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて12月にも行われる予定。ぜひこの機会に楽しんでみてはいかがだろうか。
2016年
12月17日(土)15:00
12月18日)日)11:00・15:00
*開場は開演の30分前
http://hyogo-arts.or.jp/piccolo/event/detail/?id=173
vai:ピッコロシアター
via:毎日新聞