保証なく削られるシフトへの対応。法的には?
引き続きコロナウイルスが大きな社会問題となっています。それに伴い、多くのアルバイトの方が何の保証も無くシフトを削られているというニュースを多く目にします。法的権利や活用できる助成金等について、労働者として、企業側として、どれくらいご存知でしょうか。
有給休暇取得拒否やシフトを一方的に削られるのは違法
コロナウイルスの影響が日に日に大きくなっており、事業縮小や休業に追い込まれる企業も増えてきています。
正社員として働く方は有給休暇を取得したり、休業手当を受け取ったりして収入を確保できているケースが多いようですが、その一方、アルバイトとして働く方は、何の保証も無くシフトを削られたり、自宅待機を命じられたりしているのも珍しくありません。
本稿では、アルバイトの方にも認められている法的権利について、説明をしたいと思います。
アルバイトも有給休暇を取得できる
有給休暇は、雇用区分に関係なく、勤続年数に応じて付与されるものです。入社後半年を経過して、出勤率が80%を上回っていれば、10日間の有給休暇が付与されることが原則です。そして、勤続年数に応じて、2回目以降の付与日数は増加していきます。
出勤日数の少ないアルバイトの方は、「比例付与」といい、10日よりも少ない日数が与えられることになりますが、有給休暇の付与自体が全く無いということではありません。また、出勤率は、シフトで出勤日とされていた日を80%以上出勤したかどうかで判定されます。
有給休暇の付与日数の詳細については、厚生労働省のリーフレットからの抜粋になりますが、下表をご参照ください。
アルバイトの方が、コロナウイルスの影響を含め、もともとシフトで出勤日とされていた日を自主的に休む場合は、欠勤ではなく、有給休暇として通常出勤と同等の賃金の支払を受け取ることが可能です。
アルバイトにも休業手当は支払われる
飲食店などでは、コロナウイルスで客足が少なくなると、アルバイトの方のシフトを削ることが多いと思います。しかし、シフトを削ることが、本当に合法かどうかには慎重な判断必要です。
まず、雇用契約書で、「1週間のうち7時間×4日」などと固定された時間が決められている場合には、使用者は、本人の同意なく、シフトを削ることはできません。平時であれば、労働者は「7時間×4日」働く義務があり、有給休暇を使うなどしない限り、休むことはできません。ですから、逆に、非常時だからといって、使用者が一方的にシフトを削るのは契約違反ということになるのです。
もし、雇用契約書でシフトが決まっている労働者に使用者の判断で休んでもらいたいときには、シフトを削るのではなく、正社員と同じように休業命令を出して、平均賃金の60%以上を支払わなければなりません。
雇用契約書で明確なシフトが決まっていない場合でも、事実上、同じシフトで長年働いていたというような場合には、法的には、上記の雇用契約書でシフトが決まっている場合に準じた扱いを受けられる可能性が高いでしょう。
自由出勤制のアルバイトであっても、既にシフトが確定しているのであれば、使用者が一方的にシフトを削ることはできず、休業手当の対象となります。
助成金の活用
使用者の立場からすると、経営環境が厳しい中、休業手当の負担は決して軽いものではありません。そこで、助成金を活用することが考えられます。
アルバイトでも週20時間以上の勤務であれば雇用保険の被保険者になり、雇用調整助成金の対象となります。
雇用調整助成金は、コロナウイルスの影響で経営不振(前年同月比で売上高が10%以上減少)になり、雇用保険被保険者である従業員を休業させる場合、支払った休業手当の3分の2(大企業は2分の1)を、国が企業に対して、休業手当の補填として支払うものです。
緊急事態宣言を発出して活動の自粛を要請している地域(2020/3/6現在は北海道のみ)では、売上高10%減少要件が撤廃され、雇用保険被保険者以外に対する休業手当も助成金の対象になります。また、助成率も5分の4(大企業は3分の2)に引き上げられるなど、補填内容がより手厚くなっています。
もし、あなたがアルバイトの立場の方で、勤務先の使用者の方が、このような助成金の存在を知らなそうな場合は、使用者に情報提供をしてみてください。会社として国から助成金を受給できることが分かれば、使用者も考えを軟化させて、アルバイトへの休業手当の支払が円滑に進むかもしれません。
まとめ
法的には、アルバイトの方も正社員と同様、有給休暇は取得できますし、休業手当も支給対象となります。コロナウイルスの影響による経済活動の混乱から生活を守るためにも、是非、自分自身の労働者としての権利について確認をしておいてください。
プロフィール
榊 裕葵(ポライト社会保険労務士法人代表)
大学卒業後、製造業の会社の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。その後、社会保険労務士として独立し、個人事務所を経てポライト社会保険労務士法人に改組。マネージングパートナーに就任。勤務時代の経験も生かしながら、経営全般の分かる社労士として、顧問先の支援や執筆活動に従事している。また、近年は人事労務freee、SmartHR、KING OF TIMEなどHRテクノロジーの普及にも努めている。
主な寄稿先:東洋経済オンライン、シェアーズ・カフェオンライン、創業手帳Web、打刻ファースト、起業サプリジャーナルなど