牡蠣〜海から食卓まで〜
牡蠣は一般的に真冬が旬のところが多いので、冬の味覚として定着していますが、鹿児島などこれから旬を迎える地方も結構ありますから、あえてこの時期に牡蠣のおはなしをしたいと思います。
食卓にのぼるまでには1年半から2年
私は15年前まで広島で牡蠣の養殖をしていました。牡蠣といえば真冬のイメージがあると思いますが、養殖期間まで入れると食卓にのぼるまでには1年半から2年もかかります。細かい作業まで紹介すると本が1冊書けるのでここではざっくりと。
- 梅雨明け直後・採苗、通し変え。
- 8月〜9月通し変え・ムール貝除去
- 10月古筏焼却・新筏製作
- 11月から5月まで(昨年、一昨年仕込み分)収穫・出荷
思いつくだけでこれだけありますが、細かい仕事まで入れると1000工程くらいは優にありますから、翌年、大きく育った牡蠣の重みで筏が沈んでいるの見るとそれまでの苦労が吹き飛びます。
公共工事のため港がなくなり、県が示した代替新港は従業員のおば(あ)ちゃんたちの足では通勤が困難で送迎までということになると、出港時間に大きな影響が出る、時間の問題がすり合わせできず、補償金をしこたま取って漁業から撤退しました。が…
魚屋でびっくり、TVでもう一撃
広島の牡蠣の旬は11月から2月までと言われてきましたが、冷凍技術の進歩で1年中旬の味を楽しむことができるようになりました。自分ちで作っていましたから、それまで気にも止めなかった元ライバル社の店頭小売価格が気になって見てみたんです。
500gと書かれたビニール袋の中身は5個。
たったの5個。
お値段550円(税別)。
5個の牡蠣が入ったビニール袋がパンパンになるまで水道水を入れて水を売っているんですよ。水商売ってこーゆーのをいうんですね。
TVでも衝撃を受けました。いまだにいるんですね。「牡蠣は大根おろしで揉み洗いする」人って。大根おろしで汚れやゴミが落ちるはずがないじゃないですか。
牡蠣の調理
生の牡蠣を水道水につけると浸透圧が働いて中の海水が押しだされ、代わりに水道水が浸潤します。このとき内部のゴミもあらかた体外に排出され、身の外見は白くなります。新鮮な牡蠣は本来薄いクリーム色をしています。だから「白くて新鮮みたい」に見えますが、騙されちゃいけませんよ。あまりきれいな白は腐る寸前ですからね。
洗浄と加熱が大切
牡蠣はまず流水に晒して表面の汚れをおとします。次にボウルに牡蠣を移し100ccあたり3〜4gの塩を入れた塩水を牡蠣全体が浸かるまで入れて回し洗いします。エラにゴミや汚れが溜まっているのでこのときエラの中まで親指で丁寧に洗ってやります。この工程でも水はびっくりするくらい黒くなるので、何度か水を変えてやる必要があります。
水が「ほぼ」透明になったら…ほぼって大変ですよ、水に濁りが残っていると洗えていないという証拠だし、完全に透明にしちゃうと身崩れがおきる。まぁこの辺は経験と勘ですね。
あとはフライだろーが天ぷらだろーが土手鍋、酢牡蠣、牡蠣しゃぶと好きにすればよいのですが、くれぐれも十分な洗浄と加熱が必要です。
生食用と加熱調理の見分け方
おしまいに、生食用と加熱調理の見分け方。ビニール袋の印刷が全部緑色なのが生食用。印刷文字が黒くて中身もしっかり入っているのが加熱調理用です。黒い印刷のもは絶対に生で食べてはいけません。命と引き換えにする覚悟があるなら構いませんが・・・
究極の漁師メシ
ついでに私が1番美味しいと思うのを紹介します。用意するのは灯油のダルマストーブと一斗缶のフタ。ストーブの上に一斗缶のフタをの載せてちんちんになるまで熱します。
そこに剥き身の牡蠣を投入!あとはこんがりと焼くだけですが、このとき身から汁が出て来ます。
この汁が紫色になったら食べごろですが、この汁を煮詰めてソースにすると美味しいのなんの。究極の漁師メシだと思いますので一度おためしください。
でもくれぐれも食中毒には気をつけてくださいね。