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車椅子の新製品試乗会で歩ける僕が初めて試乗した

電動車椅子の新製品試乗会で歩ける僕が人生初の車椅子乗車

いったいどれだけの人が、人生の中でただの一度でも車椅子に乗る機会があるだろう。

車椅子で外出し、自分なりにさまざまな楽しみを見つける人は増えている。その様子を目にする機会も増えた。いまどき、車椅子を利用する人など珍しくもない。

ただ、どれだけ車椅子ユーザーが増え彼らの姿が社会に見える形になったとしても、自分の足で自由に移動できる人間が彼らの心情を深い部分まで知ることは難しい。どうしても知りたいなら、自分自身も車椅子に乗り、一生にわたる車椅子での生活を自らに課すしかない。

けれどもしも、どこへ行くにも車椅子を使わなければならない人たちの心情を少しでも知ることができたなら、車椅子ユーザーと非ユーザーとの間にある心のバリア(壁)が、少しでもフリーな(存在しない)ものになるのかもしれない。

ハビブ・ウル・ラハマン―電動車椅子設計・製作技術者

「レバーを引けば、いいです」

ハビブさんは静かな声でそう一言アドバイスすると、そのまま壁際に移動し、車椅子利用者とその家族に対する新製品の説明を始めた。

4月14日の日曜、ハートピア鹿児島(鹿児島県障害者自立交流センター)で開催された電動車椅子新製品の試乗会に初めて参加した。私には歩行上の困難はない。

私自身には精神の疾病があり、試乗会の開催地「はーとぴあ鹿児島」と無縁な人間というわけではない。しかし、こんな機会はもう二度と訪れないかもしれないから「試乗していいですか」と頼んでみた。彼は「なぜそんな質問をする必要があるのか?」といった表情で、「もちろん、乗ってください」と私に試乗を勧めてくれた。

初めて乗った車椅子の感想

スムーズに前へ進む爽快感と、静止しているのに前に持っていかれるといった上半身の違和感が同時にあった。

通常の歩行では、両脚を互い違いに進めることでヒトは推進力を得る。前進する動きにはピッチが生まれ、一定のリズムを刻みながら加速と減速を繰り返す。乗り物が前に進むようには、ヒトは一直線に等速な前進をしない。

軽車両

車椅子が一般道でも車両として走行できるよう、右手の手元にはライトを灯したり警笛をならすためのコントロールパネルが設置されていた。

パネルの中心にはコンピューターゲームで使うようなジョグレバーのようなものが伸びていて、これを操作することで前進、減速、停止、などの動きができるようになっていた。

初運転の感想

運転はとても難しかった。周囲の状況に目を配るのはもちろん、初めて運転する私は加速することで車椅子ごと転倒してしまわないかおどおどしながらの運転だった。原動機付自転車、スクーターに近いものを感じた。車椅子に対して歩行用の「道具」という見方をしていたから、「車両」の一種としての安全意識を持つこともなかった。

しかし、乗ってみて考えは一変した。

「これは歩行補助の道具というより、スクーターなどの路上の車両と同じだ。たとえ室内であっても、すれ違うときは注意して走ったほうがいい」。

電動車椅子の重さには50kg前後のものからさまざまあるが、このレル・ライトは100kgほどの重量があり、コツンと当たっただけでもかなりの衝撃がある。もし路上で電動車椅子が近付いてくることがあれば、歩行者もきちんと距離を把握し車椅子とのスムーズな離合を心がけるべきだろう。

レル・ライト試乗体験、車椅子ユーザーの感想

試乗会にはHIFUMIYO TIMESから、普段から車椅子を利用している弊社ライターが2名と、身体的な障害のない私を加えた3名が参加した。車椅子を利用する2人の声は次のとおり。

なんでも美味しんぼ/*マリコ*(電動車椅子ユーザー)

■リクライニング・座面の角度を変える機能
・身体が傾いていて同じ姿勢でいるため、車椅子に乗りながら姿勢を変えられることが嬉しかったです。重心が変わるので、本当に楽でした。
・日常では手動車椅子やベッドなどからの移乗が楽になりそうで、まつ毛エクステやフェイスマッサージをしてもらうときにも重宝しそうです。
・長時間、車椅子を使用する旅行のときにも便利そう。(新幹線内など)
・思いきり天井が見えることにも感動しました!
■その他
・コントローラーが軽いので、力が弱い人にも使いやすいと思います。(調節可能)
・クッションは適度に反発感がありつつ包み込まれるようで、座り心地がとてもよかったです(いま使用している電動車椅子は絶好調なため、クッションだけでも替えたくなりました)。
・こんなに機能がついているのに、コンパクトなのがとてもいい!
・ワンルームマンションでも、移動がスムーズに出来ると思います。
レル・ライト商品紹介ページ(「車いすのさいとう工房」リンク)

ゼロ(手動車いすユーザー)

・この車椅子はすごく小回りが効いて、動きやすさを感じました。エレベーター内での旋回もしやすそうだなと感じました。
・リクライニング機能があり、半分だけ起こすなど、細かな調整が可能で、在宅はもちろん、日常の遊びや、通院、さらには日帰りや泊りがけの旅行など、幅広い用途で活躍できそうだなと期待させるものでした。
・いつも座った、同じ姿勢でいることになりがちですが、姿勢も変わることで、目線も変わり、体も伸ばせて楽でした。
・また、ヘッドレストで頭を支えるので、頭や首に負担がかかりづらくなるのではないかと思います。
・そして、ハビブさんのお人柄が優しかったです。流ちょうな日本語にも驚きました。 丁寧に操作説明をしてくださってありがとうございました!!

乗らない人こそ乗るべき

歩行に困難のある人が車椅子に乗る場合、移動といった機能面に加えて重視されるのが乗り心地だ。いつもとは異なる、かつ広い視野で走ることができるといった喜びは、彼らを移動体として見ているだけの非車椅子ユーザーには分からない。彼らにとって、車椅子とは座って快適なインテリアとさえ言える。

日用品の車椅子

1度入手すれば、およそ※6年の耐用年数にわたって同じ車両に乗り続ける。その観点から腰、首、血圧への配慮は絶対に外せない。タイヤが空気式であれば、弾力で地面に安定しやすい代わりにパンクの恐れがある。対して無パンクのタイヤは材質が硬く坂道で滑りやすい。それぞれに長所と短所がある。

ライターの2人は言う。食事するときも、ただ座るだけでなく座る位置へのこだわりがあると。自分にピッタリくる位置を時間をかけて決めるという。頭を固定するための枕、首、腰の接地部分、経済的に最も効率的な購入方法にいたるまで、彼らにとって車椅子は少し値が張るインテリアであり、日用品だ。

今回の試乗会で紹介された新作の車椅子には、背もたれがリクライニングし座ったまま仰向けになって空を見上げたり落ちない程度に前傾できるという機能があった。

「意外と衝撃がすごいのね(笑)……。あ、あーー、あはは(楽)……」といった、彼女たちの楽しそうな声がとても印象的だった。

※6年の耐用年数(厚生労働省自立支援振興室・補装具費支給に係るQ&A「Q12耐用年数に関する質問」への回答より)平成22年10月29日

最後に思うこと

おそらく、歩くに問題のない人が乗ることの重要性がある。試乗会だからこそ乗るべきは健常者で、車椅子の感覚とスピードを知ることで車椅子ユーザーの都合や心理も知ることができるだろう。製作者のハビブさんは試乗するユーザーに、常に次のようなことを繰り返し語りかけていた

「座り心地は今は…良いけど、座ってるうちにだめになったり痛くなったりするから……、すぐに決めないでね。できれば…1日使い続けて…それで、一番自分にいい設計を教えてほしい。作ってしまうと、5年変えれない。

こう設定してほしいとか、こういう機能が欲しいとか、もっと言ってほしい。分からないから、作れない。

分かれば、そうすればいいだけ」。

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