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社労士が説明する「中小・零細企業の現実的な働き方改革法への向き合い方」

中小・零細企業は、既存リソースの有効活用が働き方改革法対応の決め手

2019年4月1日から、働き方改革法が順次施行開始されています。項目や企業規模によっても適用開始時期は異なりますが、中小企業(とくに従業員数名の零細企業)にとっては、有給休暇5日取得の義務化(2019年4月1日~)、時間外労働の罰則付き上限の制定(2020年4月1日~)、60時間を超える法定時間外労働を行わせた場合に50%以上の割増賃金を支払う義務(2023年4月1日~)など、負担の大きい法改正が続きます。

法改正の施行後は、中小・零細企業であっても、法違反に対しては罰金刑や懲役刑などの刑事罰を課される恐れがあります。ですから、法令順守はとても重要なことです。

しかし、現実問題として、ギリギリの人数で仕事を回し、資金繰りにも余裕があるとは言えない中小・零細企業に対し、「法律ですから、頑張って遵守しましょう」と掛け声をかけるだけでは、あまりにも無責任です。

そこで、本稿では、筆者が考えている、中小・零細企業が働き方改革法へ無理なく向き合うためのアイデアを4つ紹介したいと思います。

企業間での人材の融通

第1は、地域の企業間で人材を融通し合うことです。

たとえば、何十件かのお店が集まっている地域の商店街をイメージしてみてください。1つ1つの店舗はギリギリの人員で回していたとしても、定休日が違ったりとか、お店によって忙しい時間帯とそうでない時間帯は違ったりするはずです。

商店街の中で話し合って、各店舗の従業員に順番に有給休暇を付与するとか、ある店舗が突発的に忙しくなって、そこに所属する従業員が残業時間の法定上限を超えそうになったら、他の店舗から応援を出せるとか、そういった従業員の融通ができる互助の仕組みを地域のコミュニティの中で作るのです。

なお、他店舗を手伝う際には、派遣法に違反しないよう「出向」という形で応援先の店舗と日雇の雇用契約を結ぶ必要がある点には注意が必要です。

複数企業の連携による業務効率改善

第2は、地域の企業間で協力して業務効率を高めることです。

中小・零細企業では1社単独の努力では業務効率の改善に限度があります。ですから、複数の会社が協力し合って業務効率を高めていく取り組みが必要でしょう。

たとえば、運送業の会社であれば、A社とB社のトラックがそれぞれ50%の積載率で同じ方面に向かうのであれば、どちらかのトラックに荷物をまとめ、もう1台の運転手は有給休暇の取得日に充てるとか、そういった協力体制が敷けないかということです。

大手の航空会社でも、「スターアライアンス(ANA系)」とか「ワンワールド(JAL系)」のように航空会社同士が連携してコードシェア便を共同運航して業務効率の改善やサービスの向上に努めています。こういった動きは、もっと地域密着レベルでも行えるはずです。

地域密着型人材派遣会社の設立

第3は、地域社会で共同出資したり、行政による補助も踏まえ、地域に密着した人材派遣会社を立ち上げることです。

派遣法の改正により、日雇派遣は働く人を企業が都合よく使い捨てる制度だとして、原則禁止となりました。しかし、学生、60歳以上の人、年収500万円以上の本業を持つ人、世帯収入500万円以上で主たる生計者以外の人に関しては、現在も日雇い派遣による就労は容認されています。

上記のような人の中から、補助的に随時働いても構わないという人や、地域社会に貢献したいと考えている人に、この地域密着型派遣会社に登録してもらい、従業員が有給休暇を取得するのでスポットで代替要員が必要になったり、従業員が残業時間の上限に達しそうなので一時的な応援要員が必要になったりした企業に対し、速やかに人材を派遣できるような仕組みを作るのです。現在はITも発達していますので、マッチングをするプラットフォームを作成することも難しくは無いはずです。

テレワーク・クラウドソーシングの活用

第4は、テレワークやクラウドソーシングの活用です。

事務的な仕事が中心の企業であれば、必ずしも地元だけに人材を求める必要はありません。

テレワークでデータ入力や経理作業などを請け負ってくれる事業者は数多く存在しますし、ランサーズやクラウドワークスといたクラウドソーシングを経由してフリーランスの方に依頼をすることもできます。

もちろん外注費という形でコストはかかってきますので、全ての企業が気軽に活用できるとは限りませんが、新たに従業員を採用するよりもコストははるかに小さいですから、テレワークやクラウドソーシングは、中小・零細企業の働き方改革法対応の1つの受け皿になることは間違いないと思います。

まとめ

働き方改革法への対応は、確かに教科書的に言えば、「人を新たに採用して業務負荷を分散させましょう」とか「設備投資をして生産性を高めましょう」ということになります。

しかし、冒頭に述べたよう、経営資源に限りのある中小・零細企業では、かけられる人件費や設備投資にも限度はあります。それに、人手不足で採用自体も難しくなっています。

ですから、今回紹介したアイデアのように「既存リソースを最大限に有効活用する」というアプローチが、中小・零細企業の働き方改革法への、対応の決め手になってくるのではないでしょうか。

 

プロフィール

榊 裕葵(ポライト社会保険労務士法人代表)

大学卒業後、製造業の会社の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。その後、社会保険労務士として独立し、個人事務所を経てポライト社会保険労務士法人に改組。マネージングパートナーに就任。勤務時代の経験も生かしながら、経営全般の分かる社労士として、顧問先の支援や執筆活動に従事している。また、近年は人事労務freee、SmartHR、KING OF TIMEなどHRテクノロジーの普及にも努めている。

主な寄稿先:東洋経済オンライン、シェアーズ・カフェオンライン、創業手帳Web、打刻ファースト、起業サプリジャーナルなど

著書:「日本一わかりやすいHRテクノロジー活用の教科書」

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