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2018.8.10:フリーペーパーVol.29発刊!

自転車で行くあの場所が僕の旅先です

 僕は少し錆びついた自転車に乗っている。キコキコと鳴る自転車の音。切れかけた街灯。もしくはリアルに「飛んで火に入る夏の虫」状態で、パチパチと鳴る音がちっぽけだ。そんな、平凡でぬるい道を走った。
 そうして、誰も知らないであろう、砂利と雑草が生えているだけに見える横道に入る。どうにもならないのだが、ここまでくると自転車は邪魔だ。

 湿った空気が絡みついてくる。
 奥へ奥へと入って行くと、細く真っ直ぐな道が現れた。これは僕と僕の自転車が幾度も歩いた跡だ。
がさがさと草木をかき分けて、ぽっかりと空いた空間に出る。
小さな湖。とても大きな水たまりだと言いたい。

「また来たよ」

 ちょんちょんと、湖の表面をつつく。僅かに、水が巡って行くように感じた。

 僕は、意識が遠のきそうな、霞んで消えてしまいそうな時に、この湖に顔を出す、
 この湖との出会いは素晴らしいことであったかもしれないし、残念なことであったのかもしれない。

 僕は、何故か学校に行けなかった。別に、勉強が嫌いだったわけでもなかったし、友達も何人かいた。でも、何となく、学校にのまれて、みんなが同じような顔になり、同じようなものを追いかけて、とにかく、学校に「染まってしまう」ことが怖かったのかもしれない。ある日、久しぶりに学校へ行く準備をして、学校へ向かった。久しぶりに会うクラスメイトは僕に気付いて、

「久しぶり、何してたんだよ。お前がいないと寂しいんだけど」

 そう言い切った彼はきっと、僕がいなくても楽しい学生生活を送っているのだろう。こんな 僕に笑いかけることが出来るほどに。

「ちょっと、旅に出ていたんだ」

 僕がそう言うと、そいつは驚いたような顔をして、その後本当に笑った。

 帰り道、本当に旅に出たくなった。自分が学校にのまれてしまうなら、簡単な居場所がない。何も考えずに、ガードレールが外れたところから茂みに入った。どこかに消えたいと思ったのだ。段々、悔しさと悲しさが混ざって、涙が出てきた。やけくそだった、その時だった。

 僕は湖に出会ったのだ。

 また、ちょんちょんと湖の表面をつついた。ゆうらりと水が動く。ここを照らすのは月の光だけだ。湖に映った月も歪む。ぱしゃんと叩くと、一瞬、まるで月が消えてしまったかのように感じてしまう。ぱしゃん、ぱしゃん、と叩いて覗き込むと、僕の顔はぐちゃぐちゃに見えた。
 でも、この顔だったら、誰も僕をのもうとはしないだろう。

 生きることに逆らって、水の冷たさと、歪んだこの顔を見る方がほっとする。
 湖の水は僕の手よりも冷たい。水面は、風に吹かれて歪む。
 けれども、湖の方が僕よりも生きているかのように感じている。

「また来るよ」

 この湖は僕の情けなさを浮き彫りにして、だからこそ、この情けなさを埋めてくれているのだと、思っている。
 きっとここなら、うっかり沈んでしまっても息が出来るだろう。

END

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