一部、若い世代の方にはタイトルの意味が分からないかもしれないので、少々説明しますと…
1983年から1999年まで、毎週日曜昼1時から2時まで日本テレビで「スーパージョッキー」というバラエティ番組が放送されていました。
司会はビートたけし(フライデー襲撃事件とも重なるため、若干の休止期間あり)が努め、THEガンバルマン、書きゃいいってもんじゃないんだよ、軍団クイズ、など多数のコーナーの一つとして「熱湯コマーシャル」というものがありました。
Twitterでの「無許可RTやめてください」は、もはやダチョウ倶楽部さんの「押すなよ!絶対に押すなよ!」みたいなもんなんですよ。 本当にRTされたくないなら、鍵をかければ良いだけの話です。
— たかたか (@takataka_nakano) 2017年9月18日
緻密に計算された芸
熱湯コマーシャルの方式もさまざま変遷があるのですが、あるときからお笑いトリオ「ダチョウ倶楽部」が参加しました。
その中で、主に上島竜兵さんが熱いお風呂に入るリアクション芸の一つとして成立したものの一つに「押すなよ!絶対に押すなよ!」がありました。
ほぼ半裸となった上島が、熱湯が入った(と言われている)透明なバスタブの上に四つん這いとなり、後ろにかまえる仲間の肥後克広、寺門ジモンに向かって懸命な形相で「押すなよ!」と、まず訴えます。
この時点では肥後、寺門ともに上島を押しません。3人の間には共通の合図があり、彼らはその決まりを堅実に守っていたからです。
それは、ダチョウ倶楽部の生命線とも言うべき「お約束芸」の最も重要な部分でした。
ダチョウ倶楽部の竜ちゃんの持ちネタ「いいか、お前ら押すなよ!押すな!絶対に押すなよ!」を猫コンビが再現www#猫 #ねこhttps://t.co/29MbIfvUxJ
— 猫の感動おもしろ動画 (@cydurufurefu) 2017年9月17日
上島竜兵のリアクション芸
上島はその後さらに2人に向けて「絶対に押すなよ!」と訴え、指を数本立てます。立てた指の本数が2本なら、2回上島が「絶対に押すなよ」と言ったタイミングで肥後と寺門は上島を熱湯が入った(と言われている)風呂に突き落とすのです。
突き落とされた上島は、ここぞとばかりに熱くて耐えられないという演技をします。
手足をばたつかせ、浴槽の底で足を滑らせ、浴槽からようやく出たら脇に用意されている砕いた氷を体中に浴びて冷やす演技をします。
この一連の芸は展開が決まっており、次にどうなるかも、最終的にどう終わるかも分かっているため、このタイプのお笑いが好きな視聴者の満足度には並々ならぬものがありました。
@anjusana_tp この蝋燭って熱ないやつやろ?熱くないのに熱いフリするんは詐欺やと思うで!
— Super_JI-ZZ (@madeva21) 2014年11月19日
心理的リアクタンス
この芸がなぜ面白いか、そこにはきちんと理由があります。
ダチョウ倶楽部によるこの芸は「心理的リアクタンス」という心理現象を利用したものです。
人は「〜していい」状態のとき、あえてそれをしたいとは思わないものです。しかし、「〜してはダメ」と言われると、途端にしたくなるものです。
最近、お菓子の「カール」が東日本で製造中止となりました。
するととたんに、今まであえて食べようとしなかった人もカールが気になります。さらに前の例を引用すれば、ポテトチップスのピザポテトが挙げられるでしょう。
ダチョウ倶楽部の芸には、上島の「〜するなよ」という否定が存在しながらも、肥後と寺門との間で「分かり合っている」という信頼関係が見えます。
最終的に「押す」ことによって、視聴者は3人の信頼関係が形となって実を結ぶという、カタルシスを味わうことができるのです。
「勉強しろ」命令されると反発したくなる「心理的リアクタンス」とは[心理学法則のネタ帳] https://t.co/HRNE2h8hec
— 心理学のネタ帳@相互フォロー (@psychology08040) 2017年9月19日
お笑いとは、心理学の要素をふんだんに取り入れた緻密な学問の一分野とも呼べるものです。コミュニケーションの取り方など、そのノウハウはさまざまな場面での応用が効くものと言えるでしょう。
芸人の方々は、客や視聴者に対し、単に面白く笑ってくれることを望んでいるとは思いますが、お笑いと芸人を消費者の立場から尊敬している者にとっては、なぜこんなに面白いのか、ということを理論的に解明したい衝動に駆られてしまいます。
ダチョウ倶楽部さんに限らず、さまざまな側面から笑いを追求する芸人の方々がたくさんいて、THE MANZAIやM-1、キングオブコントなどのコンテストなども、自分は真面目な顔で面白い理由を分析するのが好きな、嫌な視聴者になってしまいました。
via:Wikipedia