世界の潮流に逆らうかのようにして、単科の精神科病院が多く存在する日本。
2001年の時点でさえも、世界に存在する約185万床の精神科ベッドのうち、約5分の1である32万床のベッドが日本にあったという。それに対し、1998年には全ての精神科病院が機能を停止したイタリアは、現在も地域精神医療を重視し、精神障害者の社会的生活が実現されることを重要視している。
果たして、この両者の違いはいったい何であるのだろうか。そして、これから先、精神障害者を含む「社会」がより良いものになるための方針は、どのようなものであることが望ましいのだろうか。
精神科病院廃絶を叶えたイタリアの精神科事情
イタリアには精神科病院がない。
もちろん、過去には精神科病院が存在し、ローマには欧州最大と言われた2,600人の患者を収容した病院もあったそうだ。しかし、1960年代に、とある精神科病院に赴任した精神科医のフランコ・バザーリアが、閉鎖病棟に潜入して患者たちの悲惨な様子を目の前に見て衝撃を受けたことをきっかけに、精神科閉鎖病棟の解体と患者たちの地域生活を支援する活動をスタート。
1970年代には国をあげての運動となり、1978年にはついに「180号法(バザリア法)」という精神科病院を廃絶する法律が制定されている。
よって、今となっては日本と違い強制入院のハードルも高く、入院に至る患者は極めて少ない。
病院の代わりに精神医療を担っているのは地域の精神保健センターで、多様なスタッフがチームを作り、自宅を訪問するなどして地域に住む精神障害者たちを支援するのだ。
そして基本的に「強制」ということは存在せず、本人の意思を尊重した対応が取られるという。
イタリアと精神科病院大国「日本」の意見交換
2015年10月31日と11月1日の2日間には、東大・駒場キャンパスに、精神科医・心理士・精神保健福祉士など、130人もの人が全国から集まった。
1960年代から自国の精神科医療にテコ入れをし続けてきた、イタリア・トリエステ市より来日したメッツィーナ氏と対話をし、互いに意見交換をするためである。
メッツィーナ氏は、日本で言うところの精神疾患の急性期(不安や緊張感、敏感さが極度に強まるなどして、疾患の症状が激しく現れる時期)のことを「クライシス」と表現し、その時期は薬物療法や入院措置をするなどして社会から患者を切り離すのではなく、社会の中で「クライシス」という危機を乗り越えていく必要があるのだと語った。
地域コミュニティの中で、患者とその周囲の人々が共に考え、一つ一つの危機を乗り越えていくことが、望ましいアプローチであるという。
精神科閉鎖病棟が多くあり、強制入院も存在するこの日本とは、正反対の考え方である。
日本の精神科病院の現実とは?
私も過去に一度、精神科閉鎖病棟に入院した経験がある。
3ヶ月ほどの入院予定を、2ヶ月と少しで退院することができたが、3ヶ月以上入院している入院患者が全体の約75%で、同じく40%は5年以上入院しているという調査結果があるように、入院をしてしまうと、すぐに退院をすることはなかなか難しい。
その理由として、病状の改善が見られないということ以外に、もう帰ることができる場所がないというものも存在する。
私が入院をしていた時も、長く入院をしている人や、幾つかの病院を転々としている人、入院して退院はするが、すぐにまた入院をし、それを繰り返す人などがいた。
地域に受け皿がなく、病院を離れて生きることが難しい。
これでは病気のせいだけではなく、社会生活を送ることの困難さからストレスを感じてしまうだろう。
しかも、一般的な閉鎖病棟は、社会から切り離されているがために、患者の地域性を失いがちである。
つまり日本における入院治療は、えてして「病気を改善して地域に戻るための治療」になっていないことも多いのだ。
この日本において、私はイタリアのように「精神科病院を廃絶するべきである」とは言わない。
ただし、患者の住む場所や人生の時間をただ奪っていくだけの精神科治療が、良い結果をもたらすことはないと感じる。
精神科病院で心のケアを受けて、休息の場を求めることは必要であるが、治療をすることが患者の心を痛め、地域社会から切り離された生活を送ることになってしまうというのは、大きな矛盾であるのではないだろうか。
今の日本の精神科医療のあり方が、イタリアの精神科医療を知ることで「病気を改善して地域に戻るための治療」となり、精神科病院が自然な形で地域に根付いて、その結果患者の「帰る場所」を失わせないようなものへと変化していくことを望む。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/miwayoshiko/20151107-00051198/
http://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/sectiion3/2013/05/post-210.html
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