今年の年末、将棋界では話題を呼び記録となる対局がありました。史上最年少の14歳2ヶ月でプロ棋士となった藤井聡太四段と、現役棋士として最年長となる加藤一二三(ひふみ)九段との、第30期竜王戦ランキング戦6組での対局です。
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加藤九段は現在、順位戦C級2組に在籍する76歳。C級2組からの降級点も2点付いています。順位戦から陥落しフリークラスとなると、年齢制限で引退となる可能性が高い棋士です。
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かつては名人にもなったベテラン棋士ということで、昇段したばかりの藤井四段が勝利したことに賞賛の声も上がっています。
毎日新聞。「14歳5カ月の初勝利 76歳・加藤九段降す」https://t.co/sDtXjgczyb
藤井聡太四段が加藤一二三九段に勝利。14歳5ヶ月での勝利は将棋界最年少記録。年齢差は62歳6ヶ月で史上最大年齢差。
— 将棋ワンストップ (@shogi1com) 2016年12月24日
しかし、現在の2人の実力を純粋に比較した場合、藤井四段にとって加藤九段に勝つことは、厳しい三段リーグを勝ち上がることよりも容易なことだったのではないかと推測します。
そのくらい、現在の若手棋士は強いのです。プロと奨励会三段在籍者全員で総当りの勝負をし、上位からプロに残留するといった入れ替え戦を行えば、かなりの現役プロが奨励会に陥落し、代わりに多数の新四段プロが誕生するでしょう。
名人を頂点とする順位戦が、棋士にとって現在の実力を示す事実上の最も信頼できる指標といえるでしょう。順位戦のクラスは、上から、A級、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組と分けられています。その下にはフリークラスと呼ばれるクラスが存在します。フリークラスの棋士は順位戦を戦いません。
加藤九段のこれまでの実績は素晴らしいものです。現在も、将棋の普及に大きな役割を担っています。
藤井四段が今回の対局で勝ったことは、当然ですが素晴らしいことです。仮に加藤九段が全盛期に比べて実力的に劣っているとしても、それも当たり前のことです。全盛期を迎えれば、実力が落ちていくのはどの棋士も同じです。
私は、2人の対局を生中継で見ていました。終局後、感想戦が行われる前に、取材に訪れた報道陣が対局室に雪崩れ込みました。まるでタイトル戦に決着がついたあとのように、大勢の取材で藤井四段、加藤九段は取り囲まれました。まず、勝った藤井四段へのインタビューがありました。文字に書き起こされた新聞記事の藤井四段の言葉は、ハキハキとしています。それは、文字になっているからです。
現地での彼の語り口は、最初とてもゆっくりで、慎重に言葉を選んだ途切れがちなものでした。対局相手の加藤九段を傷つけないよう、思いやりに満ちたものに見えました。
さらに、これから何十年もこの将棋界といった閉鎖的な世界で、将棋を指すことを職業として生きていかなければならないといった、覚悟や畏怖のようなものも感じられたのです。
自分が四段になるまで、最年少プロ棋士の記録保持者だった加藤九段に自分が勝ったこと以上に、今どれだけ賞賛されようとも、今の自分の立場はとてもはかなく危ういものに過ぎないということまで、藤井四段は気づいているように見えて、その点に、とても関心したのです。